尿路感染症。
小児科では肺炎の次に注意すべき細菌感染症です。
発熱を伴う尿路感染症は、いくつかのタイプがあります。
- 腎盂腎炎
- 急性巣状細菌性腎炎(AFBN)
- 腎膿瘍
- 膿腎症
腎盂腎炎については、こちらの記事で書きました。
今回は、急性巣状細菌性腎炎(AFBN)に関する論文を2つ読んだので、その内容をまとめます。
このページの目次です。
小児のAFBN25例の検討
私がIgA腎症の論文を書いたときにお世話になったPediatr Nephrol誌からです。
Introduction
- 発熱性の尿路感染(UTI)は通常腎盂腎炎である。
- 急性巣状細菌性腎炎(AFBN)や腎膿瘍(血行性に腎実質に膿ができる)、膿腎症(感染による尿路閉塞の結果、腎盂に膿が溜まる)は、稀ではあるが、腎盂腎炎がさらに進行した状態として認めることがある。これらの区別は画像診断でなされる。
- AFBNは腎盂腎炎と腎膿瘍の中間であると考えられている。
- 本研究はUTIの形態による予後、検査結果、画像結果の違いに焦点を当てるものである。その結果、UTIの管理アルゴリズムを提案する。
Patients and methods
- 2003年から2012年に調査。
- ギリシャ、ヒラルキン大学病院。エーゲ海に浮かぶクレタ島、15歳未満人口は10万5千人。(ちなみに私の働く丹波市の15歳未満人口は約1万人)
- すべてのUTI患者が入院から3日以内に腎エコーを受けた。
- エコーで腎臓内に高輝度領域または低輝度領域があったり、腎肥大があったり、はっきりしないものの異常なエコー所見があったり、抗生剤投与後も72時間以内に解熱しなかったりするときには、MRIかCTが撮影された。
- カテーテル尿では104以上、中間尿では105以上を原因菌とした。
- 退院後1か月、6か月にVCGやDMSAシンチがなされた。エコーフォローは退院時と退院1か月後、3か月後にされた。
Result
- 683例のUTI。そのうち23例(3.4%)がAFBN。そのうち5例に膿腎症か腎膿瘍があった。
- 年齢は日齢22から13.4歳(平均4.9歳)。
- 泌尿器科的問題をすでに抱えていた子どもは15人いた。そのうち12人はすでに予防的抗生剤内服をしていた。2人は慢性腎不全の状態だった。
- 白血球は中間値17300、CRPは中間値15.4、15エピソードでクレアチニン上昇。
- 尿検査異常は16例、尿培養はE.coli 12例、緑膿菌8例、クレブシエラ3例、プロテウス属1例、プロビデンシア属1例であった。2例は尿培養陰性だった。
- 血液培養陽性は1例であった。
- 腎エコーは27例すべてでなされ、17例はUTIのタイプを診断でき、7例は腎肥大や腎実質のエコー輝度上昇を指摘できたもののUTIのタイプの診断まではできず、1例ははっきりしない所見があり、2例は偽陰性であった。
- 25例でCTまたはMRIがなされた。14例は、発熱が遷延するためCTまたはMRIがなされた。
- 抗生剤静注は中間値13日、経口は中間値21日された。
- 発熱は治療開始から中間値48時間で解熱した。
- 23人に排尿時膀胱尿道撮影(VCG)がなされ、14人に膀胱尿管逆流(VUR)を認めた。そのうち7人は新規診断であった。
- 退院6か月後に25人全員がDMSAシンチをし、23人で腎実質の欠損を認めた。そのうち16人は欠損が永続した。
- 退院後も中間値3.5年フォローを継続し、ほとんどの子どもが泌尿器科的な問題でフォローが必要となった。
Discussion
- AFBNはUTIの4%。これはアメリカ、ドイツ、イスラエルの結果と同じ。一方で台湾では8-10%という報告もある。
- ほとんどの子どもが泌尿器科的な問題をすでに抱えている。
- AFBNの約半分が腎盂腎炎か膿腎症や腎膿瘍を合併している。
- 尿路奇形のために予防的抗生剤をしていると、緑膿菌感染が増える。
- 27例のうち2例で尿培養陰性だった。これらは尿検査では異常があった。血行性転移であったのかもしれない。(私は予防的抗生剤のせいではないかと思うのだが、そのあたりが書かれていない)
- エコー検査は診断の助けになるが、偽陰性もある。27例のうち17例はUTIのタイプを診断でき、7例は腎肥大や腎実質のエコー輝度上昇を指摘できたもののUTIのタイプの診断まではできず、1例ははっきりしない所見があり、2例は偽陰性であった。
- CTは感度・特異度ともに優れる。MRIの精度もそれに劣らないだろう。
- AFBNに推奨される抗生剤治療期間は、一般的に解熱後2-3日までは静注で、以降は少なくても2週間は内服である。我々の経験では、少なくても1週間の静注と、合計3週間の抗生剤投与を提案する。
- 抗生剤治療にも関わらず、退院6か月後に25人全員がDMSAシンチをし、23人で腎実質の欠損を認めた。そのうち16人は欠損が永続した。腎奇形のせいだと考える。
Conclusion
- AFBN、腎膿瘍、膿腎症は共存し得る。
- 高年齢児で、臨床所見が重症なもの、尿路奇形があるものではAFBNを疑わなければならない。エコーは有用であるが、通常はさらなる画像検索を要する。
成人のAFBN138例の検討
こちらは成人のAFBNですが、先ほどの小児の論文よりもAFBNの数が多いです。
Methods
- Pubmedやコクランを使って、AFBNの症例を集めた。
- 小児の論文や、経過の記録不足のある論文は除外した。
Results
- 38論文、138例のAFBNが集まった。
- 発熱(98%)と側腹部痛(80%)が症状の中で多い。
- 排尿障害や膀胱炎の所見は18%と少ない。
- 嘔気、嘔吐、腹痛も認めることもある。
- 大腸菌(尿培養陽性例の83%)がもっとも多い病原菌である。
- 41%が尿培養陰性であった。(抗生剤投与の有無について言及がない)
- 血液培養陽性は19%であった。
- 既往歴として膀胱尿管逆流(VUR)が3.6%。(小児の論文では、VURは23人中14人にあったのと対照的)
- CTまたはMRIが撮られたのが52%。(MRIは2.9%)
- CTまたはMRIに加え、エコーもしたのが41%、感度は91%。
- エコーは83%になされた。
- 全体でのエコーの感度は96%。
- 診断の20%はエコー単独。
- 4例、2.9%で膿瘍ができた。そのうち3例でドレナージを要した。
- 再燃したのは4例、2.9%だけ。
- 発症10日-4週間で画像検索すると、AFBNの所見は残存していた。
- 発症4-8週間で画像検索すると、AFBN所見は消失していた。
- 4.4%で腎瘢痕が残った。(小児の論文とは予後が全然異なる)
Discussion
- AFBNは診断されない可能性がある。症状は上部UTIと変わらず、発熱や側腹部痛があり、排尿障害はない。腎盂腎炎と区別しにくい。
- エコーは91-96%と高い感度だった。しかし、選択バイアスがある。エコーで特徴的な所見があるAFBNばかりが報告された可能性がある。
- 上部UTIに対してCTを全例撮れば、もっとAFBNは増えるだろう。
- Focalといいつつ、multi-focalな症例もあり、AFBNという名称は見直すべきじゃないか。
- すべての尿路感染症で腎盂腎炎かAFBNかを完全に区別するというのは妥当ではない。しかし、AFBNの重症例や非典型例は特別な注意や長い治療が必要である。
- AFBNのメカニズムは不明。黄色ブドウ球菌感染では、細菌塞栓の血行性転移を疑わせる。
- AFBNは腎盂腎炎と腎膿瘍の中間という意見もあり、確かに2.9%で腎膿瘍があった。
Recommendations
- エコーは上部尿路感染症の最初のスクリーニングに良い。AFBNに対する感度は十分ではないが、重症AFBNの腫瘤状病変や腎膿瘍を見つけるには役立つ。カラードップラーは腎臓の血流低下や膿瘍の発見に役立つ。
- もしエコー所見が怪しかったり、臨床所見が重症であったりすれば、造影CTを撮るべきである。MRIでもいい。
- 複数の著者が、AFBNに経口抗生剤は効かないことを報告し、経静脈的抗生剤および入院が必要と報告している。経静脈的抗生剤を推奨する。
- 起炎菌は大腸菌などのグラム陰性桿菌が多い。地域のガイドラインに準じて抗生剤を考えろ。
- 熱や経過は腎盂腎炎よりもAFBNのほうが長い。
- 少なくても解熱後2日間は抗生剤静注、その後経口で2週間投与する。
- Multi-focalで大きなAFBNは、経過が複雑になったり遷延したりする。
- ドレナージは基本的に必要ないが、抗生剤治療が効かないときは考慮される。
- 起炎菌が黄色ブドウ球菌の場合は、膿瘍に注意。
- 控えめな治療でもAFBNは良くなるので、被ばくを含めたフォローアップは推奨しない。腎臓の持続感染がない限り、エコーフォローでよい。
2つの論文を読んだ感想
これらの論文を読むまで、私は「AFBNはVURをよく合併する」と感じていました。
小児の論文はまさにその通りでしたが、成人の論文は基礎疾患がないのが印象的でした。
AFBNは腎盂腎炎から腎膿瘍までのスペクトラムを持った疾患だとあらためて感じました。
つまりAFBNといっても、腎盂腎炎に近いAFBNと腎膿瘍に近いAFBNがあります。
これを同じように管理するのは無理があるように思います。
エコーの感度は選択バイアスがあるとはいえ、高い印象に思いました。
腎膿瘍に近いAFBNであれば、エコー所見を認めるはずです。
逆に、エコーで分からないようなAFBNなら、それは腎盂腎炎に近いAFBNでしょうから、腎盂腎炎と同じ管理でもいいのではないかと思いました。
経過も大事です。
腎膿瘍に近いAFBNであるなら抗生剤で解熱するのに48時間以上はかかるようです。
尿路感染だから造影CTというスタンスでは、被ばくの問題が気になります。
したがって、AFBNの診断プロセスは以下になると考えます。
- UTIまたはUTI疑いであればまずはエコーをします。
- エコー所見で異常があれば造影CTをします。
- エコー所見で異常がなくても、抗生剤で48時間以内に解熱しない場合は造影CTをします。
治療期間については、もう少し吟味が必要です。
JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―尿路感染症・男性性器感染症―では、「急性巣状細菌性腎炎(AFBN:Acute Focal Bacterial Nephritis)の場合は、最低2週間の静注投与とその時点で経口薬にスイッチし、合計3週間の治療が望ましい(Effective duration of antimicrobial therapy for the treatment of acute lobar nephronia.Pediatrics. 2006; 117: e84-9)」と記載があります。
しかし、これだと2週間以上の入院が必要であり、お父さん・お母さんにとっても、子ども本人にとっても、大変だと思います。
今回読んだ論文では、一般的に解熱後2-3日までは静注で、以降は少なくても2週間は内服のようです。
また、少なくても1週間の静注と、合計3週間の抗生剤投与という提案もありました。
基礎疾患や経過、腎エコーの所見にもよりますが、「最低2週間の静注投与」は唯一の選択肢とは言えません。
AFBNと診断したら、VCGでVURの有無は確認すべきでしょう。