日経メディカルのアレルギーセミナーオンライン研修会2017で、「アレルゲン特定の重要性と診断プロセス」という面白い演題が放送されました。
前半はViewアレルギー39の使い方について、後半は花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)についてでした。
どちらもとても勉強になりました。
今回は、講演を受けて感じた「Viewアレルギー39を上手く使いこなす方法」について書きます。
このページの目次です。
Viewアレルギー39とは?
Viewアレルギー39とは、アレルギー検査の一つです。
血液検査によって、39種類のアレルゲンに対する感作を測ることができます。
具体的には、次の39種類になります。
- ハウスダスト
- ヤケヒョウヒダニ
- スギ
- ヒノキ
- ハンノキ
- シラカンバ
- カモガヤ
- オオアワガエリ
- ブタクサ
- ヨモギ
- アルテルナリア
- アスペルギルス
- カンジダ
- マラセチア
- ネコ皮屑
- イヌ皮屑
- ゴキブリ
- ガ
- ラテックス
- マグロ
- 牛乳
- 卵白
- オボムコイド
- 米
- 小麦
- ソバ
- 大豆
- ピーナッツ
- リンゴ
- キウイ
- バナナ
- ゴマ
- 豚肉
- 牛肉
- 鶏肉
- エビ
- カニ
- サバ
- サケ
ハウスダストや花粉などの吸入系抗原が19種類。
卵や牛乳、小麦などの食物系抗原が20種類。
あわせて39種類です!
ちなみに、食物アレルギー診療ガイドライン2016には次のように書かれています。
マストイムノシステムズIV、Viewアレルギー39は、同時に多項目を測定できることを特徴としており、原因不明の食物アレルギーの検索や、吸入抗原の感作状況を同時に検出する際に用いることができる。しかし、データの定量性は十分ではないので、あくまでもスクリーニング検査として位置づける。食物アレルギーの診断や臨床経過の評価に直接用いることはできない。
食物アレルギー診療ガイドライン2016
どうやら、データの正確性には難があるようです。
それでも、これだけを一度に調べられるなんて「夢のような検査!」と思えます。
スクリーニング検査、すなわち「とりあえず最初にやっておこう」という検査にうってつけのように見えます。
ですが、私の知る限り、この検査を上手に使う小児科医はあまりいないのではないでしょうか。
Viewアレルギー39に対して思っていたこと
Viewアレルギー39に代表される「多項目同時特異的IgE検査」を実施した経験は私にもあります。
当初私も「こんなにたくさんのアレルゲンが一度に調べられるなんて、夢のようだ!」と思って検査してみたのです。
ですが、検査してみて思ったのは、「結果をどう扱えばいいのか分からない」でした。
- すでに食べている食物についても、感作反応を認めてしまう。
- 食物アレルギーの確率を推定する「プロバビリティカーブ」はイムノキャップという方法で決定されており、Viewアレルギー39の結果を用いていいのか分からない。
- Viewアレルギー39での「クラス0」がどの程度クラス0と信頼していいのかが分からない。
原因不明のじんましんを認めたためviewアレルギー39検査をしたら、卵も牛乳も小麦も米も豚肉もバナナもリンゴもエビもイヌもネコもハウスダストもダニもシラカンバも、とにかくたくさん感作が見つかって、結局何が原因か分からない上に、今まで食べてた食物を本当に食べていいのかという不安に襲われるということさえあります。
特に米の感作が目立ちます。
上記のセミナーでは、米の感作は31%で見られたとのことです。
ですが、本当に米アレルギーだった人は一人もいませんでした。
また、viewアレルギー39とイムノキャップとの相関が不明です。
たとえば生後10か月のこどもに牛乳アレルギーを疑ってイムノキャップで牛乳特異的抗体を調べると、0.3で20%、1で60%、3で90%と、ほんのわずかの数値の差でプロバビリティカーブ上の推定値が大きく異なります。
もしviewアレルギー39の検査結果が、1とか2とかの誤差をもつのであれば、その子の牛乳アレルギーの確率を大きく見誤るかもしれません。
これ負荷試験を考慮するのに非常に大きな問題となります。
そもそも日常診療で、小児科医が食物アレルギーに向かい合う最初のきっかけは「食物アレルギーの関与する乳児アトピー」または「離乳食を進める途中で生じた即時型症状」です。
これらは、何が原因食物だったのかを問診である程度推察することができます。
また、頻度的にも卵、牛乳、小麦のどれかであることがほとんどです。
私はこういうとき、プリックテストをするのが好きです。
同時に血液検査もしますが、イムノキャップでの検査も13項目までは選べますので、それで十分事足ります。
39種類も測る必要性をなかなか感じないのです。
私がいる県立柏原病院でもviewアレルギー39は測定できます。
ですが、私はこういう事情で、viewアレルギー39を使うことが滅多にありませんでした。
Viewアレルギー39の利点
Viewアレルギー39はたくさんの抗原を一度に検査できる夢の検査のようで、実は結果の取り扱いが難しく、扱いづらい検査だと述べました。
ですが、Viewアレルギー39を上手に使いこなしている先生もおられます。
ここで、ようやくアレルギーセミナーオンライン研修会2017の内容が出てきます。
Viewアレルギー39は吸入抗原に適している
まず国立病院機構三重病院の長尾先生は、viewアレルギー39は食物抗原には誤差が見られるが、吸入抗原はイムノキャップとかなり高い確率で一致するというデータを示されました。
Viewアレルギー39は、19種類の吸入系抗原を調べることができます。
食物は「小麦を食べました」というのはある程度問診で分かりますが、吸入系に関しては「ハンノキの花粉を吸いこみました」とか「カモガヤの花粉を吸いこみました」とかはなかなか分かりません。
住んでいる地域、季節などである程度推測できても、なかなか確定には至りません。
こういうとき、Viewアレルギー39は便利です。
測ってみると意外とヨモギが原因だと分かったりしたこともあったようです。
吸入系抗原はイムノキャップとの相関性が高いのですから、結果をある程度信頼することもできます。
つまり、Viewアレルギー39は食物アレルギーのスクリーニングとしては使いにくいですが、アレルギー性鼻炎のスクリーニングには適していると言えます。
Viewアレルギー39はアレルギーマーチの進展予測に適している
子どものアレルギーの多くが、アトピー性皮膚炎から始まり、食物アレルギーや気管支喘息があとに続き、そして最後にアレルギー性鼻炎が登場します。
4つのアレルギー疾患が順々にやってくる様子はまるで行進しているように見えるため、「アレルギーマーチ」と呼びます。
Viewアレルギー39はアレルギーマーチの進展、特に喘息の予測に有用だと長尾先生はおっしゃっていました。
たとえばアトピー性皮膚炎の子どもにViewアレルギー39を検査してみます。
すると、ペットとダニと食物に感作を認めました。
食物については負荷試験でも陽性を確認しました。
こういう「ペットの感作+ダニの感作+確定した食物アレルギー」のセットがあると、喘息の発症率が大きく上がるということです。
子どもはなかなかピークフロー検査ができず、喘息の診断も難しいですから、こういう予測因子はうまく使いこなしたいところです。
Viewアレルギー39はPFASの診断に適している
花粉-食物アレルギー症候群をご存知でしょうか。
pollen-food allergy syndrome、略してPFAS(ピーファスと読むことが多いです)です。
簡単に言うと、花粉症から食物アレルギーに至ることをPFASと言います。
PFASと口腔アレルギー症候群(OAS)は非常に近しい概念です。
OASは症状に着目した表現で、PFASは感作源との関連性に着目した表現で、PFASのほうが疾患として明確なので、今後OASはPFASという用語に変わってくると思います。
兵庫県はオオバヤシャブシというハンノキが多く、この花粉症の患者さんの20-40%にバラ科の植物に対するPFASを合併します。
バラ科というのは、リンゴ、西洋ナシ、サクランボ、スモモ、アンズ、アーモンドなどです。
PFASを診断するには、食物から迫るという方法もありますが、花粉から迫るという方法もあります。
花粉から迫るのであれば、Viewアレルギー39は有用です。
島根大学の千貫先生の講演はたいへん面白く、Viewアレルギー39によって分かったヨモギの花粉症から、コリアンダーやクミンの食物アレルギーを見つけた話は本当に興味深かったです。
どの花粉がどの食べ物に対応しているかは、サーモフィッシャーのサイトに詳しく書かれています。
他にも、うどんで眼瞼浮腫を起こした例ではイネ科の花粉症があったり、豆乳やモモでアナフィラキシーを起こした例ではハンノキの花粉症があったり、アレルギーの世界はとても奥深かったです。
PFASのアナフィラキシーは眼瞼浮腫など目に症状が出やすいというのも、実臨床に沿ったアドバイスでした。
話が脱線しましたが、PFASを花粉症から迫る場合、Viewアレルギー39は有用であるということでした。
まとめ
Viewアレルギー39を上手く使う方法について書きました。
食物アレルギーのスクリーニングとしては、Viewアレルギー39を上手く使うのは難しいかもしれません。
いっぽうで、Viewアレルギー39は吸入抗原の感作に向いているため、アレルギー性鼻炎や喘息、PFASのスクリーニングには適しているようです。