予防接種後に発熱しやすいワクチンと時期について。

0歳児と1歳児はとてもたくさんの予防接種を受けます。
予防接種のメリットは今までたくさん書いてきました。

私には「予防接種は受けるべきである」という基本姿勢があります。
予防接種には大きなメリットがあります。

いっぽうで、予防接種には副反応もあります。
予防接種をして、子どもに熱が出たという経験をした人は少なからずいるでしょう。

今回は予防接種後の発熱について書きます。
今回の要旨は以下です。

  • 発熱しやすいワクチンは何か
  • 予防接種後に発熱しやすい時期はいつか
  • 予防接種による発熱かどうか見分ける方法

この3点と、最後に私の経験を付け加えます。

発熱しやすいワクチンは何か

厚生労働省の「予防接種後副反応・健康状況調査検討会」が予防接種後の発熱についてまとめています。

平成23年度の報告書はこちらです。

リンク先を読んでもらってもいいのですが、かなりの分量です。
そして、明らかな記載ミスも見つけられます。
(たとえば32ページから34ページのMRワクチンの2期、3期、4期の接種時期がぜんぶ生後12か月から24か月になっています)

いろいろな意味で読むのが大変ですが、興味がある人はまず102ページを読んでみてください。
麻疹風疹ワクチンの1回目で、20%の子どもが発熱しています。

三種混合ワクチン(平成23年度の報告書なので、四種混合ではありません)については72ページに書いてあります。
三種混合ワクチン1回目では8.1%の子どもが発熱しています。

ちなみに、このデータでは本当に予防接種による発熱かどうかは分かりません。
プラセボ投与の対照群が存在しないからです。

それでも、麻疹風疹ワクチンは、比較的発熱しやすいワクチンだと言えるでしょう。
なお、この部分だけを強く取り上げて「麻疹風疹ワクチンは危険だ」と思わないでください。

後述しますが、予防接種で発熱しても1日で治まることが一般的であり、麻疹風疹ワクチンによって得られるメリットのほうがはるかに大きいからです。

予防接種後に発熱しやすい時期はいつか

前述の厚生労働省のデータでは、麻疹風疹ワクチンによる発熱は、接種後2週間以内にみられ、特に接種後7-10日に多いといえます。

肺炎球菌ワクチンやHibワクチン、四種混合ワクチンについては、前述のデータでは読み取れません。
(肺炎球菌ワクチンとHibワクチンについては集計データがなく、四種混合ワクチンについても三種混合ワクチンのデータで代用したとしても、接種後28日以内で適度に分散しているように見えます)

海外の報告をみるに、肺炎球菌ワクチンやHibワクチン、四種混合ワクチンは接種後0-2日に発熱するケースが多いです。

予防接種による発熱かどうかを見分ける方法

予防接種をした次の日に39度の熱が出たとします。
発熱だけで、咳や鼻汁も目立ちません。

本当に、予防接種による発熱なのでしょうか。

実は、小児科医でもこの問題は非常に頭を悩ませます。
なぜなら、熱だけで咳や鼻汁が目立たないとなると、尿路感染症(尿管や腎臓の感染症)が脳裏によぎるからです。

尿路感染も熱以外の症状が乏しいことで有名です。

尿検査をすればすぐに分かるでしょうか?
そんなことはありません。
初期の尿路感染は膿尿を認めないことも多いです。
ネルソン小児科学にも書かれていますが、尿路感染において尿中に白血球を認めないケースは多々あります。

採血検査によるCRPは参考になるでしょうか?

私は、最終的に予防接種の副反応と診断した発熱でも、CRP5mg/dLくらいまでの症例を複数経験しています。

CRPは予防接種の副反応と尿路感染を見分けるのに役に立たないのではないかと思っていました。

そんなことを思っていたところ、この前(2017年4月)参加した小児科学会学術集会で、面白い演題を見つけました。

「血清CRPで予防接種後発熱と尿路感染症は鑑別できるか?」

まさに私が考えていたクリニカルクエスチョンだったので、同じようなことを考えて、しかも調査した先生を非常に尊敬します。

気になるその結果は、「尿路感染のほうがCRPは優位に高いものの、CRP2.0mg/dLをカットオフ値にした場合の陽性的中立31.3%、陰性的中率37.8%であり、CRPは予防接種後発熱と尿路感染症の鑑別には有用ではない」という結論でした。

私が普段から感じていた内容と同じ結果であり、腑に落ちました。

なお、予防接種による発熱はほとんどが24時間以内に解熱するので、発熱の経過は両者の鑑別に有用かもしれないという考察もありました。

こういうリサーチマインドに溢れた演題をみると、強く感化されます。
学会に行ってよかったなあと感じました。
学会の記録についてはこちらに書きました。

日本小児科学会学術集会で学んだこと。

2017年4月17日

私の個人的な印象

肺炎球菌ワクチンやHibワクチン、四種混合ワクチンについては接種した次の日に発熱しているケースとよく出くわします。

「きっと予防接種による副反応だろう」

と思いつつも、子どもがあまり元気ではないときは採血や尿検査をすることもあります。

すると、CRP5mg/dL、プロカルシトニン4ng/mL、カテーテルによる尿中白血球5-9/HPFだったことがありました。

「予防接種後の発熱でCRPが上がることはあるけれど、プロカルシトニンまで上がるなんてことはあるのかな?」

そんなことを考えていると、後日尿培養から大腸菌が検出され、やはり尿路感染だったという経験をしたことがあります。

予防接種後の発熱でもっとも難しいのは、「本当に予防接種後の発熱なのか」ということでしょう。
本当に予防接種による発熱であればほとんど1日で熱が下がるので心配いらないことが多いです。

まとめ

  • 接種後に発熱しやすいワクチンは、麻疹風疹ワクチンである。
  • 麻疹風疹ワクチンは接種後7-10日の発熱に注意。
  • 肺炎球菌、Hib、四種混合は接種後0-2日の発熱に注意。
  • 予防接種後の発熱なのか尿路感染なのかは採血では分からない。
  • 予防接種後の発熱なのかどうかを知るのに、1日様子をみるというのも有用かもしれない。

予防接種の副反応か尿路感染かを見極める検査として、プロカルシトニンが有用なのではないかという個人的な思いはあります。

余談ですが、こういうクリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンに直す過程で、先行研究がないかどうかを調べる段階が私はすごく苦手です。
(先行研究がないことの証明って、悪魔の証明に似てませんか?)

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。