川崎病の臨床経過はバラエティ豊かです。
「川崎病の典型的な経過」というものはもちろんありますが、多くの川崎病が典型例とは少し異なった、どこか非典型な経過を持っています。
たとえば、こんな経過は川崎病として非典型でしょう。
(非典型ではありますが、それほど珍しくもありません)
- 1歳の川崎病だが、BCGの痕が腫れていない。
- 6歳の川崎病で、診断基準を満たすが、熱のわりに元気。
- 3歳の典型的な川崎病だが、CRPがあまり高くない。
- 第3病日にいったん解熱し、翌日再発熱している。
川崎病をたくさん診療すればするほど、多種多様な川崎病と出会います。
川崎病にはあまりにもバリエーションが多いため、「同じ川崎病患者はいない」という格言ができるほどです。
今回は非典型な経過の例として、川崎病を治療し、いったん元気になったあとすぐに再発熱したケースについて書きます。
このページの目次です。
川崎病の再燃
先日、私は川崎病を診療しました。
川崎病徴候6項目すべて満たし、ガンマグロブリン療法もよく効きました。
冠動脈瘤も作ることなく、無事退院しました。
しかし退院して数日後、また発熱したのです。
「カゼでもひいたのだろうか」
ガンマグロブリン治療後でも、カゼをひいてしまう子どもは時々います。
「カゼなら2-3日で熱が下がるはず」
そう思って様子を見たのですが、熱は下がらず、発疹や口唇発赤は出現しました。
川崎病の再燃です。
ガンマグロブリンを再投与し、すぐに解熱しました。
川崎病の再燃を経験して思った5つの疑問
私は川崎病に関してはかなりたくさんの症例を診てきたと自負しているのですが、このような再燃を経験したのは初めてでした。
(ステロイドを併用したときは、いったん解熱した数日後に再発熱することはよく経験しました。ですが、ステロイドを使わずに約10日の解熱期間をはさんで再発熱する例は初めてです)
再燃を経験したとき、私には5つの疑問が頭によぎりました。
- 本症例は再発か再燃か?
- 川崎病再燃は年間何人いるか?
- 家族歴は再燃に影響するか?
- 再燃は冠動脈瘤を合併しやすいか?
- 再燃を予測する所見はあるか?
川崎病は、日本を中心としてとても研究がさかんな分野です。
調べればこの5つの疑問はすぐに解決するだろうと思っていました。
しかし、この調査は意外と難渋することになります。
川崎病の再発と再燃の定義
再発なのか、再燃なのか。
それを考えるには、再発と再燃の定義をしっかりしなければなりません。
再発の定義
南里月見先生が小児科1983年で川崎病の再発について定義しています。
- 川崎病の診断の手引きを再度満足すること。
- 初発時より少なくても2か月以上(病理学的血管炎の炎症の消失)を経過していること。
- 前回の発症時の臨床的炎症所見が完全に正常化した後であること。
- 再燃(二峰性発熱、二峰性発疹など)を否定できること。
私が経験した症例は、初発時から2か月も経っていません。
本症例は、再発とは言えません。
再燃の定義
再燃の定義については、明確なものがありません。
小児科医であれば知らない人はいないであろうRAISE studyでは、再燃について次のように定義されています。
RAISE studyとは重症川崎病患者に対するガンマグロブリン+ステロイド併用療法を検討した研究です。
RAISE studyの英語版プロトコールは自由に読めますので、リンクします。
そこでは、再燃についてRelapseという言葉で書かれています。
Relapse: fever initially resolves, but then returns, and is accompanied by other symptoms of KD, in the absence of other causes of fever (eg, bacterial or viral infections)
RAISE study
「再燃とは、熱はいったん下がるが、その後再発熱し、他の川崎病徴候を伴い、感染症のような他の原因がないもの」と書かれています。
私が経験した症例は、まさにこのrelapseに当てはまります。
本症例は、再燃だと言えそうです。
再燃の人数
川崎病患者のうち、どれだけが再燃という経過をとるのでしょうか。
川崎病全国調査を見てみましょう。
第23回調査(2013-2014年)では、すべての川崎病の子どものうち、初回IVIG不応は17.1%、追加IVIGは19.2%でした。
IVIGとはガンマグロブリン投与のことです。
初回IVIG不応とは、ガンマグロブリン投与終了から24時間経った時点で、まだ発熱いている子どものことです。
こういうケースでは、もう一度ガンマグロブリンを投与することが多いです。
さて、この計算だと初回IVIG不応と追加IVIGは同じ数になるはずです。
しかし、追加IVIGのほうが2.1%(595人/2年)多いことになっています。
この差2.1%は、再燃であると私は推定します。
初回IVIG不応ではなかったものの、その後再発熱し、再燃と診断され追加IVIGを受けるのではないでしょうか。
ステロイド併用治療が現在よりも少なかった第21回調査(2009-2010年)では初回IVIG不応は16.6%、追加IVIGは19.1%でした。
少なくても2.5%(517人/2年)は再燃であると推定します。
つまり、毎年250人以上の再燃が発生していると私は推定しています。
家族歴と川崎病再燃
私が経験した再燃例は、実は家族にも川崎病の人がいました。
家族歴と川崎病再燃は関係しているのでしょうか?
古い論文ですが、第16回、17回の川崎病全数調査を解析しています。
親が川崎病であると、追加治療を要するオッズ比は2.83とあります。
「追加治療を要する」とは不応と再燃の和です。
つまり、家族歴がある川崎病は不応または再燃を2.83倍で起こしやすくなるといえるでしょう。
しかし、再燃だけのデータはありませんでした。
家族歴が川崎病再燃に影響するのかどうかは不明です。
川崎病再燃と冠動脈瘤
再燃例では追加治療が遅れますから、冠動脈瘤のリスクが高い可能性が考えられます。
川崎病再燃と冠動脈瘤には関連があるのでしょうか。
川崎病調査(第19回)の冠動脈瘤形成率は、初回治療反応群で2.2%、追加治療を要した群(不応と再燃を併せた群)で16.6%でした。
不応と再燃は冠動脈瘤のリスクを上昇させるのは間違いありません。
ですが、不応と再燃とで冠動脈瘤リスクに差があるのかどうかは検討した論文が存在せず、不明でした。
川崎病再燃を予測する所見
第118回日本小児科学会学術集会(2015年)でこのような発表がありました。
急性期川崎病における初期治療後の再燃の予測因子について検討されています。
川崎病再燃20例(ガンマグロブリン単独療法が14例、ガンマグロブリン+ステロイド併用療法が6例)では、治療前と比較し治療24時間後の血中アルブミン値が21.6%減少したそうです。
初回治療反応例では血中アルブミン減少は11.2%であり、有意差があったようです。
また、再燃例における頸部リンパ節腫脹は16例(80%)で、有意に多かったとのことでした。
再燃の予測因子として、治療後のAlb低下とリンパ節腫脹が有効かもしれないという結論をしています。
もちろん、再燃20例という少ない症例数での検討であり、さらに本症例での初回IVIG前後のAlb低下は著明ではありませんでした。
有効な再燃予測因子とするには、まだエビデンスが十分ではありません。
まとめ
川崎病の再燃に関して、5つの疑問とそれについて調べたことを書きました。
- 本症例は再発か再燃か?
→再燃と考えるが、明確な定義がないのも事実。 - 川崎病再燃は年間何人いるか?
→年間250人と推定するが、詳細は不明。 - 家族歴は再燃に影響するか?
→再燃に関するデータは見つけられず。 - 再燃は冠動脈瘤を合併しやすいか?
→再燃に関するデータは見つけられず。 - 再燃を予測する所見はあるか?
→アルブミン値が有用との報告はあるがエビデンスは低い。
調べたものの、明らかにされていないことが多かったです。
pubmedで再燃について調べても、そもそも再燃を意味する言葉すら明確ではありません。RAISE sutudyではrelapseという言葉を使っていましたが、pubmedで kawasaki diseaseのrelapseについて調べると、残念なことになりました。
A case of relapsing Kawasaki disease and review of the literature. という論文では生後3か月の川崎病患者が17年後にrelapseしていますし、Relapse of Kawasaki disease: a case report. という論文では生後15か月の川崎病患者が9か月後にrelapseしています。
Recurrenceを使うべきところをrelapseと表記する論文が多いんです。
国外でのrelapseの定義はあいまいでした。
再燃の定義を明確にした上で、川崎病全国調査で再燃にもスポットを当てると、川崎病再燃の臨床像が見えてくるのではないかと思いました。
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