オゼックスという抗生剤が、マイコプラズマに対して処方できるようになりました。
これにより、マイコプラズマの治療がどう変わるのかを考察します。
このページの目次です。
マイコプラズマ肺炎の治療
マイコプラズマといえば、肺炎を起こす細菌です。
マイコプラズマにはクラリスロマイシンやアジスロマイシンなど、いわゆる「マクロライド系抗生剤」が第一選択となっています。
ですが、近年のマイコプラズマはマクロライド系抗生剤に対する耐性を持ち始めています。
日本においても、約50%のマイコプラズマがマクロライド耐性と報告されています。
マイコプラズマ肺炎に対してマクロライドを48時間投与しても解熱しない時、マクロライド耐性と判断されます。
マクロライド耐性の場合、次の選択肢として8歳未満にはオゼックス(一般名トスフロキサシン)が投与されます。
ちなみに8歳以上ではミノサイクリンが使われます。
マイコプラズマ肺炎の治療経過を詳しく知りたい場合は、こちらの記事も参考にしてください。
2017年2月までのオゼックスの適応
「ちょっと待ってください。オゼックスはマイコプラズマには使用できないんじゃないんですか?」
そうなんです。
オゼックスは8歳未満のマイコプラズマ肺炎の第二選択薬であるにも関わらず、保険診療上は適応外だったのです。
2017年2月までのオゼックスの適応はこちらです。
- 〈適応菌種〉
トスフロキサシンに感性の肺炎球菌(ペニシリン耐性肺炎球菌を含む)、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、炭疽菌、コレラ菌、インフルエンザ菌 -
〈適応症〉
肺炎、コレラ、中耳炎、炭疽
以上のように、「肺炎」は適応症にあるものの、適応菌種にマイコプラズマが記載されていません。
したがって「マイコプラズマ肺炎」にオゼックスを処方すると、保険診療外となってしまう可能性がありました。
肺炎マイコプラズマにおけるオゼックスの適応拡大
オゼックスはマイコプラズマの治療に大きな役割を持っているにも関わらず、適応菌種に含まれないために保険診療ができないというのは問題です。
日本小児感染症学会、日本感染症学会および日本小児科学会は、オゼックスが子どものマイコプラズマ感染に使えるように、要望を出していました。
オゼックスのメーカーも、この動きから適応拡大に向けて動きました。
マイコプラズマ肺炎の治療には、マクロライド系抗菌薬が一般的に使用されていますが、近年、マクロライド系抗菌薬への耐性菌が増加しています。そのため、日本小児感染症学会、日本感染症学会および日本小児科学会より、厚生労働大臣等に対して、「小児の肺炎マイコプラズマ感染症におけるキノロン系抗菌薬の適応拡大に関する要望書」が提出されています。また「オゼックス®細粒小児用15%」は、「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011追補」において、マクロライド系抗菌薬への耐性を持った「肺炎マイコプラズマ」感染時の治療の選択肢とされています。これらの状況を受けて、富山化学は適応菌種追加のための開発を進め、この度、一部変更承認申請を行いました。
2016年5月23日
富山化学工業株式会社
https://www.toyama-chemical.co.jp/news/detail/160523.html
それから約9か月経ちました。
ニューキノロン系経口抗菌製剤「オゼックス®細粒小児用15%」(一般名:トスフロキサシントシル酸塩水和物)について、適応菌種に「肺炎マイコプラズマ」を追加する承認を3月2日付で取得しました。
2017年3月2日
富山化学工業株式会社
https://www.toyama-chemical.co.jp/news/detail/170302.html
ついに、マイコプラズマ肺炎に対して、オゼックスを処方できるようになりました。
2017年3月からのオゼックスの適応
2017年3月からのオゼックスの適応はこちらです。
- 〈適応菌種〉
トスフロキサシンに感性の肺炎球菌(ペニシリン耐性肺炎球菌を含む)、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、炭疽菌、コレラ菌、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ -
〈適応症〉
肺炎、コレラ、中耳炎、炭疽
マイコプラズマ肺炎と言ったり、肺炎マイコプラズマと言ったり、どっちが正しいの?と思われるかもしれません。
細菌自体の名前が「肺炎マイコプラズマ」で、肺炎マイコプラズマによって引き起こされる肺炎のことを「マイコプラズマ肺炎」と言います。
ともあれ、マイコプラズマに対して大手を振ってオゼックスを処方できるようになりました。
臨床現場はどう変わるか
「マイコプラズマにオゼックスが出せるようになって、臨床現場はさぞかし変わったのでしょうね!」
それが……。
変わっていないわけではありませんが、それほど変わっていません。
というのは、今までもマイコプラズマ肺炎に対してオゼックスを処方していたのです。
「えっ、適応菌種外なのに、どうやってオゼックスを出していたんですか?」
抜け道、というと聞こえが悪いのですが、保険診療に沿う形でつじつまを合わせる方法があったのです。
マイコプラズマで肺炎になっている子どもにオゼックスを処方するときは「肺炎」という病名と「マイコプラズマ感染症」という病名の2つをつけていました。
肺炎は肺炎で、レントゲン検査で診断した病名です。
マイコプラズマはマイコプラズマで、咽頭検査や抗体検査で診断した病名です。
肺炎とマイコプラズマ感染症を同一の病態とは考えず、別個のものと考えて、肺炎に対してオゼックスを処方するという方法で保険診療に適応させていました。
ですが、2017年3月からはこんな抜け道をしなくてよくなったのですごく嬉しいです。
しいているなら、病名を誠実につけられるようになったという点が変わったところです。
臨床現場は何も変わっていないのか
補足しておきますが、今回の適応拡大で、臨床現場が何も変わっていないわけでは決してありません。
肺炎マイコプラズマは肺炎以外にもいろいろな症状を起こします。
- マイコプラズマ気管支炎
- マイコプラズマ関節炎
- マイコプラズマによる多形紅斑
- マイコプラズマ精巣炎
これらは、2017年2月まではオゼックスが使用できませんでした。
(マイコプラズマ気管支炎は、レントゲンをよくみれば肺炎であることもあるので、なんとかなっていましたが)
肺炎マイコプラズマが適応菌種となったことで、あらゆるマイコプラズマ感染症に対応できるようになりました。
まとめ
オゼックスは便利な薬です。
マイコプラズマ中耳炎にも効いてしまいます。
子どもの発熱への万能薬となりえる薬です。
ですが、便利だからこそ、安易に使ってはいけません。
オゼックスを使いすぎて、耐性菌ができてしまったら、代わりとなる薬がないのです。
(ミノサイクリンが代わりとなりますが、歯牙黄染の副作用から8歳未満ではやはり躊躇します)
肺炎マイコプラズマに対する第一選択は、やはりマクロライドです。
効くときはマクロライドは本当に切れ味よく効きます。
適応が拡大されたからといって、安易に使ってもよいようになったわけではありません。
オゼックスはもろ刃の剣と考えて、どうしても困ったときにだけ使うようにしましょう。