2017年6月4日更新。
(正しいQT時間の求め方について、別記事で詳細な説明を追加しました)
学校心臓健診、というのがあります。
平成6年12月から小学校1年生、中学校1年生、高等学校1年生全員に心電図検査が義務付けられました。
心電図検査で、不整脈を指摘されることは結構あります。
上室性期外収縮や心室性期外収縮、右脚ブロック、WPW症候群が多いです。
そして、時々やってくるのが「QT延長」という心電図所見です。
QT延長というのは、QT延長症候群を示唆する所見です。
QT延長症候群とは、突然死をきたすことがある遺伝性不整脈の代表です。
こう聞くと、とても怖い病気です。
ですから「本当にQT延長症候群なのか」というところが大切です。
実はQT延長はしていなかったということが多々あるからです。
心臓健診でQT延長症候群を疑われた子どもが小児科に来たとき、私は最初に3つの確認をします。
今回は、学校健診で「QT延長」と言われたら私が最初に何をするのかを書きます。
QT延長とは何か
このページの冒頭の心電図を見てください。
一番左の丸く上がったところがP波、次に下がったところがQ波、ぐっと高くなった頂上がR波、また下がったところがS波、そして一番右の丸く上がったところがT波です。
QT延長とは、Q波とT波の間隔が大きくなったものを言います。
QT延長症候群の疫学
ネルソン小児科には10000人に1人がQT延長症候群で、50%が家族性だと書かれてあります。
遺伝性が明らかなRomano-Ward症候群やJervell-Lange Nielsen症候群もありますが、遺伝関係が不明なものも多いです。
学校健診が発達した今は、無症状のQT延長症候群も見つかっています。
中学校1年生の健診で診断される頻度は、1200人に1人という報告もあります。
QT延長症候群の症状
QT延長の何が怖いかといいますと、こういう心電図の人は、多形性心室頻拍や心室細動を起こしやすくなるのです。
めまい、失神などの症状を引き起こし、突然死を起こすこともあります。
ただし、QTが延長していれば、必ず失神したり、突然死したりするというわけではありません。
循環器病の診断と治療に関するガイドライン2011にはこのように書かれています。
日本における調査報告として197例の小児例の報告がある。初診時、すでに症状がある場合、症状が再出現する頻度は47%、初診時までに症状がない場合、新しく症状が出現する頻度は5%であった。初診時、すでに症状がある患児(平均観察年7.2 年) の症状再出現のリスクファクターは、低年齢から症状があること(p<0.05)と怠薬(p<0.005)であった。初診時までに症状がない患児では、SchwartzらのQT延長症候群ポイントが4点未満であると、平均観察期間4.5 年で症状出現者はいなかった。現在、日本小児循環器学会で症状出現に関するQT 延長症候群患児の前向き試験が始まっており、無症状で検出されるQT延長症候群患児の予後が検討できると考えられる。
循環器病の診断と治療に関するガイドライン2011
SchwartzのスコアはQT時間や、多形性心室頻拍の有無、T波の形、徐脈、失神の有無、難聴の有無、家族歴の有無などで評価されるスコアです。
3.5点以上だとQT延長症候群と診断されます。
ですが、上記のガイドラインをみると、Schwartzのスコアが3.5点でQT延長症候群と診断されても、症状がなければ、その後も症状が出ない可能性が高いといえます。
学校健診でQT延長症候群を疑われたケースは、大抵今までに症状がなかったでしょうから、突然死のリスクは低い可能性があります。
修正したQT時間が500m秒未満で、遺伝子診断で1型や2型と診断された男児であれば、比較的危険度が低いと同ガイドラインにあります。
QT延長症候群にも、注意が必要なタイプと、あまり注意が必要でないタイプがありますので、全てが危険というわけではありません。
学校心臓健診の実際でも、中等度の運動を禁止するケースから、水泳してもいいケースまでいろいろです。
QT延長症候群の診断
Schwartzのスコアで診断がされます。
確定できないけれど疑わしいときは、運動負荷検査や遺伝子検査もされます。
ですが、QT延長症候群を疑われて病院に来る子どもの中でもっとも多いのは、「全く疑わしくないけれど、学校健診の心電図の機械がQT延長と診断したから、精査目的に病院に来ました」というパターンです。
Schwartzのスコアだと0点です。
運動負荷検査はされていないでしょうけれど、運動負荷検査の適応すらありません。
(運動負荷検査は、QT時間の延長か、失神などの症状のいずれかがないと適応と言えません)
どうして、Schwartzのスコアが0点のような子どもが、QT延長症候群を疑われて病院に来てしまうのでしょうか。
正しいQT時間の求め方
子どもは脈が速いので、単純にQT時間を求めることができません。
そこで補正が必要なのですが、おとなでよく用いるBazettの補正では、過剰に補正してしまいます。
高校1年生までは、Fridericia補正をするのがよいと、日本小児循環器学会でも勧められています。
Fridericia補正はQT時間をRR時間の1/3乗したもので割ります。
関数電卓が必要ですが、最近は電子カルテが主流ですので、Windowsのアクセサリの電卓でも十分計算できます。
また、正しいQT時間を求めることも大切です。
T波の下行脚の変曲点(上に凸と下に凸のはざま。接線の傾きがもっとも急になったところ)での接線と基線との交点がT波の終点です。
小児科診療2013年11号のP1782に詳しく書いてありました。
恥ずかしながら、私は接線法の正確な方法を今回初めて知りました。
正しいQT時間の計測について書くと長くなりましたので、別記事にしました。
機械の自動検出ではなく、医師自らが接線法とFridericia補正で正しいQT時間を求めてみましょう。
おそらく、大抵の症例が「実はQT延長ではなかった」ということになります。
まとめ
以上の流れで分かるように、私が最初に行う3つの確認はこれです。
- 今まで失神して倒れたことがありますか?
- 親戚にQT延長症候群や、30歳未満で突然死した人がいますか?
- 本当にQTは延長していますか?接線法でFridericia補正していますか?
QT延長症候群の家族はいるかQT延長症候群は怖い病気です。
頻度も1200人に1人であれば、それほど稀な病気ではありません。
家族歴は大事ですが、家族歴がないケースもあります。
ですが、今までにめまいや失神などの症状がなくて、心臓で若くして亡くなった親戚もいなくて、たまたま学校健診でQT延長と言われた子どもの場合、本当にそのQTは延長しているのか調べるのがまず第一です。
実はQT延長していなかったということがあります。
もし残念ながらQTが延長していても、Schwartzのスコアが低くて、予後良好なケースもあります。
こういうケースは、運動制限の必要がないこともあります。
家族歴があったり、すでに症状があったり、Schwartzのスコアが高かったりしても、予防法がありますので、きっちりとしたフォローを受けていきましょう。