医学部を志望する受験生へ。面接対策。

医学部に入ったときの話です。
1年生の、医学総論という授業でのことだったと思います。
「どうして医学部に入りましたか?」と、唐突に聞かれました。

そして授業が始まりました。
それは、医学部1年生の私にとって、鮮烈なものでした。

これから医学部を受験される人にとって、面接対策になるかもしれませんので、記事にします。

医学総論

医学を好きな受験生はいない

医学部を志望するあなたにまず問います。
高校時代にどの教科が好きでしたか?

物理学に魅せられたかもしれません。
英語が得意だったかもしれません。

しかし医学が大好きだったことはありえないでしょう。
日本国中で医学を教える学校はないからです。

なぜ医学の道を目指したのか

高校時代に物理学または英語が大好きだったら、なぜ理学部物理学科や文学部英文学科を志望しなかったのでしょうか。
物理学に魅せられたのなら、物理学科の授業は面白いに違いありません。

医学を選んだ責任

あなた自身が医学を好むか嫌いかを度外視して、あなたは医学を学ぼうとしているという事実を受容せねばなりません。
国語や社会は医学に関係ないと文句を言うことは許されません。
医学というものを全く知らずにあなたはこの道を選んだのだから、これはあなたの責任です。
ただあなたはひたすら勉強するしかありません。

あなたが医学を好きかどうかも分からないのに医学を志すのは、よほど何か大きな動機があるからでしょう?

医学を選んだ理由

次にあなたに問います。
人前で堂々と医学を選んだ理由を言えますか?

万一「将来、経済的社会的に恵まれそう」以外の本音の理由が想起できないなら、あなたはダンテの「神曲」を読破しなければなりません。

この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ。

神曲

ダンテは地獄を案内されます。
そこにいるのは、良いことも悪いこともせず、ただ無意味な人生を生きた人々が罰を受けています。

誉れもなく、そしりもなく、生涯を送った連中だ。
神に仕えるでもなく、背くでもなく、ただ自分たちのためにだけ存在した。
この本当に人生を生きたことがない馬鹿者ども。

神曲

医者は、漫然と医者であってはいけません。
強く目的意識を持って、人生と向かい続けなければなりません。

医学は神に仕える道かもしれません。
医学は神に背く道かもしれません。
どちらにせよ、神に対峙し続けなければなりません。

それが出来なければ、早々に志望学部の転向をお勧めします。

奉仕と犠牲

さらにあなたに問います。
奉仕と犠牲の精神はありますか?
医師の仕事はテレビドラマのような格好いいものではありません。

重症患者のために連夜泊まり込み、急患のため休日の予定の突然の取り消しなど日常茶飯事です。
死に至る病に泣く患者の心にあなたは添えますか?

よく学びよく学べ

あなたに強く求めます。
医師の知識不足は許されません。
知識不足のまま医師になると、罪のない患者を死なせます。

知らない病名の診断は不可能です。
知らない治療を行えるはずもありません。
そして自責の念のないままに「あらゆる手を尽くしましたが、残念でした」と言って恥じない医者になるのでしょう。

こんな医師になりたくなければ「よく学びよく遊べ」は許されません。
よく「大学に入ることが終点」と思っている受験生も多いと思いますが、
医学生は「よく学びよく学べ」しかないと覚悟しなければなりません。

私なりの答え

この授業を受けた当時の私は、「大変な学部に入ってしまったな……」と萎縮してしまった記憶があります。

医者になった今も、知識不足は許されないという姿勢は変わっていません。
ですが、知識不足以上に許されないのが、知ったかぶりです。
知らない時は調べる。
よく知っている人に相談する。
これを守れば、患者さんは救われます。
これを「よく分からないけれど、とりあえず大丈夫だろう」と知ったかぶりすると、患者さんの健康を損ねてしまうかもしれません。

「よく学びよく学べ」というストイックな姿勢も立派だと思います。
ですが、知識をインプットするだけの機械になってしまうと、命を重みや、人間らしく生活する大切さを忘れてしまうような気もします。

医者は人間らしさを失ってはいけないと思うのです。
そのために、遊ぶことも大事だと思っています。

少なくても、私は子どもと遊ぶのが好きです。
子どもと触れ合うと、日々の小児科診療の大切さも実感できます。
元気な子どもを見てるからこそ、病気の子どもを心配できます。

医学総論で習ったことは、医学の真理の一部であるのは間違いありません。
あとはそこに自分なりの矜持をくっつけて、オリジナルの道徳にできるといいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。