小児科医の必殺技!華麗な手技こそ信頼のカギ。

「小児科研修医 必殺技」でGoogle検索してみましょう。

2017年1月現在では、仮面ライダーエグゼイドがヒットします。
後にも先にも、小児科医が正義のヒーローになれる物語はもうないでしょうから、放送しているこの時期にできるだけこのネタで子どもたちと仲良くなりたいものです。

ちなみに、エグゼイドの「患者の運命は俺が変える!」というキャッチフレーズについて、私の運命に対する考え方を書いた記事もあります(医学とはまったく関係ない記事です)。

患者の運命は俺が変える!予定運命説と小児科専門医の姿勢。

2017年3月1日

とにかく、仮面ライダーエグゼイドは小児科医にとって大きな意味を持つヒーローです。
エグゼイドはクリティカルストライクという必殺技を使います。
昔の仮面ライダーといえば「ライダーキック」でしたが、最近の仮面ライダーは必殺技すらおしゃれになったようです。

いっぽうで、なんと小児科医にも必殺技があります。
今回は、小児科医の必殺技について書きます。

 

こどもの点滴

小児科医の必殺技の一つが、「どんな小さな赤ちゃんでも点滴できる」という手技です。
小児科医は子どもの手の甲から細い留置針を使って点滴ルートを確保し、あざやかにシーネ固定します。

小児科医は手背(手の甲の部分)で採血したり、点滴を取ったりします。
おとなは採血するときは肘の内側でします。
点滴の場合は前腕(手首から肘までの部分)でします。
手背の血管を狙うのも、小児科医特有の技です。

どうして子どもは腕ではなくて手背でするかと言うと、そちらのほうが安全だからです。
手背は固定しやすく、どうしても暴れてしまう子どもに対しても安全に採血・点滴ができます。
血管が見えやすいのも利点です。

ただし、手背は前腕に比べて敏感なことが多く、おそらく痛みは強いかもしれません。
小学校に入った以降の子どもで、じっとしていられるなら前腕で点滴するのもいいと思いますし、それより小さい子どもでもしっかり押さえれば肘で採血できます。

小児科医は子どもの年齢や性格に合わせて、採血や点滴の場所を変えています。
生後10か月未満で、まだ歩き回らない子どもであれば、くるぶしのやや前方を走る「小伏在静脈」という足の血管から点滴を取ることもあります。

腸重積の整復

点滴以外に小児科の必殺技である手技が、腸重積の整復です。

腸重積というのは、生後6か月から3歳くらいまでのお子さんに多い病気で、腸が腸の中にぎゅっとはまりこんでしまう病気です。
強い腹痛が起きますが、生後6か月から3歳までの子どもは「お腹が痛い」と言えないことが多いので、腸重積に気づけるという能力も小児科医の技といえるかもしれません。

腸重積は、お腹のエコーで診断します。
そして診断がついたら、高圧浣腸という処置で腸を整復します。

このエコーも高圧浣腸も小児科医が行うことが多いです。

腸重積は診断から治療まですべて小児科医で行えます。
そのため、小児科医にとって「一人で全部できた」という達成感が得られる病気です。
その一方で、最初から最後まで自分ひとりの力で、という強い責任感も伴います。

もしエコーをしながら「腸重積かもしれないし、そうじゃないかもしれません……。あまりエコーは得意じゃなくて……。高圧浣腸で整復してみますが、正直やったことがなくて……」などとお母さんに説明していては、信頼されるはずがありません。

したがって、小児科医は「腸重積の診断も整復は得意なんです」と胸を張って言えるくらい日々トレーニングしています。
腸重積の診断・治療は小児科医の必殺技です!

手技が上手いと信頼されやすい

上手な診察、上手な説明、これらはもちろん大切なのですが、上手な手技ができると、お父さん・お母さんの信頼が得られやすいものです。
親が見ている前で点滴できるとさらに効果的です。
親からの信頼を得られるという面に加えて、親がついていることで点滴時の子どもの不安を和らげることもできます。

それでも泣くのは泣いてしまうんですけどね。

ちなみに、採血や点滴の時に、親がそばについているべきか、離れるべきかについては、こちらの記事に書きました。

子どもの採血時に親を引き離す4つの理由とその反論。

2017年2月17日

手技は日々の努力で成長します。
必殺技と自信をもって言えるくらいに、小児科医は日々努力を積み重ねています。

このような、小児科医独特の考え方に興味がある人には、この本をお勧めします。

値段は税込み400円と安いのですが、内容は小児科医のロリフェッショナリズムが熱く込められています。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。