インフルエンザで熱性けいれん!?症例提示part1。

注意事項:個人情報保護の観点から、この記事の症例提示は架空のものとなっております。ここに登場する患者の名前・年齢・性別・検査データ・臨床所見などは、科学的な矛盾が生じないように配慮されつつ、すべて架空のデータであることをご了承ください。

熱性けいれんに関する部分だけを読みたい場合は、part2から読み始めてください。

インフルエンザの症例提示

高熱と咳と鼻水

みくちゃんは3歳の女の子です。
年末にインフルエンザの予防接種を予定していましたが、かぜをひいてしまい接種できませんでした。

今は2月。
みくちゃんの保育園ではインフルエンザが流行っています。

ある日の夜、みくちゃんは突然不機嫌になりました。
寝かそうとしても、嫌がってなかなか寝てくれません。
抱っこすると、体がすごく熱いのに気づきます。
熱を測ると、39.5℃でした。

そういえば、今朝から咳が多くて、鼻水も出ていました。

お母さん
「インフルエンザかな……」

お母さんは心配になり、すぐに夜間応急診療所に連れていきました。

応急診療所を受診

応急診療所の先生は胸を聴診し、口の丁寧に診ました。

応急診療所の先生
「肺炎ではなさそうです。のどが赤いので、おそらく咽頭炎でしょう。インフルエンザが流行っていますので、インフルエンザの検査をしましょう。あと溶連菌も念のために見ておきますね」
小児科専門医からのワンポイント
インフルエンザは76%以上に悪寒が見られ、51~75%に咳や頭痛、のどの痛みがそれぞれ見られ、26~50%に鼻汁が見られるとネルソン小児科学に書かれています。のどに白くてぶつぶつとしたイクラみたいなものが見えると、インフルエンザの可能性が高まります。いっぽうで、溶連菌はあまり咳がでず、のどは燃えるような赤で、霜降り肉のような白いサシが見えることもあります。こうしてみるとインフルエンザと溶連菌を間違えることはないように思うかもしれません。しかし、溶連菌は非常に取り扱いの難しい感染症です。ここで小児科の先生が溶連菌もチェックした理由は、この記事で書いています。

溶連菌感染症の再発では発疹が出ない。診断に苦慮する多彩な症状。

2017年2月25日

 
インフルエンザの綿棒を鼻にぐりぐりと入れられます。
のどの奥のこするのが大事だそうので、かなり奥深くまで綿棒が入ります。

溶連菌の綿棒は、口から入れていました。

小児科専門医からのワンポイント
鼻水やのどの粘膜、便を綿棒で取ることですぐに分かる検査を迅速検査と呼びます。迅速検査で分かるのはインフルエンザ、溶連菌、アデノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、マイコプラズマ、ロタウイルス、ノロウイルスです。このうち特異的な治療法があるのがインフルエンザと溶連菌とマイコプラズマです。この3つの迅速検査はうまく使って正しく診断できると治療に役立てることができます。

ネルソン小児科学によると、「インフルエンザにはいくつかの顕著な特徴があるにも関わらず、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどと区別できないことが多い」とされます。ここで小児科医がアデノウイルスをチェックしなかったのは、まずは治療できる病気の鑑別を優先したからです。またRSウイルスは1歳以上には基本的に保険適応がありませんので、みくちゃんには検査できません。

 

最初の検査結果は陰性

待つこと20分。
インフルエンザと溶連菌の結果が出ました。

結果はどちらも陰性です。

応急診療所の先生
熱が出てからまだ間もないので、インフルエンザは否定できません。明日必ず近くの小児科を受診してください」

応急診療所の先生にそう言われ、解熱薬を処方されました。

みくちゃんは不機嫌でしたが、解熱薬を使うと熱が37.8℃まで下がり、すやすやと眠りました。

翌朝近くの小児科へ

朝になって、みくちゃんの熱は39度です。
解熱薬の効果は切れてしまったようです。
りんごジュースは少し飲めましたが、朝ご飯は全然食べません。

指示された通り、近くの小児科を受診しました。

小児科専門医
「確かに熱が高くて、のども赤いです。扁桃も腫れています。咳や鼻もつらそうです。もう一度インフルエンザの検査をしましょう」

2回目の結果は陽性!

待つこと20分。
インフルエンザの検査結果は陽性でした。

小児科専門医
インフルエンザは熱が出てから12時間から24時間くらいたたないと、正しく検査できないことがあります。インフルエンザの薬を出しますね」

インフルエンザの薬?
それってまさかタミフル?

タミフルと聞くと異常行動で危険といううわさを聞いたことがあります。

タミフルは危険な薬?

みくちゃんのお母さんはあわてて先生に相談しました。

お母さん
「あの、インフルエンザの薬ってタミフルですか?」
小児科専門医
「そうですね。タミフルを処方しようと思っています。タミフルに何か不安や疑問がありますか?」

先生の返答に、みくちゃんのお母さんはタミフルの異常行動についての不安を質問しました。

小児科専門医
「なるほど、タミフルで異常行動を起こすかもしれないと不安なのですね。実はこういうデータがあるんです」
小児科専門医
「これは、インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動に関する研究です。2010年~2014年に国内すべての内科・小児科で重度の異常行動を認めた患者の使用薬剤報告をグラフにまとめました。インフルエンザで異常行動を起こした207人のうち、タミフルを飲んでいたのは58人です。3割弱がタミフルを飲んでいたということですね」

それを聞いたみくちゃんのお母さんは不安になりました。

お母さん
「タミフルはやはり危険ということですか?」

小児科の先生は落ち着いてこう答えました。

小児科専門医
イナビルでもリレンザでもラピアクタでも異常行動を起こした子どもはいます。タミフルで異常行動を起こす子どもが多いのは、それだけタミフルを使っている子どもが多いということです。そして、数だけでいえば、インフルエンザの薬を使われなかった子どもが一番異常行動を認めています。念のため、10歳代の人にはタミフル以外の薬が奨められていますけれどね」

先生の話を聞いて、少し不安が楽になりました。

お母さん
「やはり、インフルエンザの薬を服用したほうがいいのでしょうか?」
小児科専門医
「インフルエンザは薬を飲まなくても自然に治ります。ですが、薬を飲んだ方が早く治ります。脳症や脳炎なども防げるかもしれません。薬を飲まなくても異常行動を起こす子どもが多いことから、タミフルによる異常行動のリスクは特別高くないと考えるのが妥当です。みくちゃんは3歳ですので、リレンザやイナビルのような吸入薬は難しいでしょう。水分が摂れていますので、ラピアクタの点滴もまだ必要ありません。私は、タミフルの使用をおすすめします」

先生の説明に、みくちゃんのお母さんは納得しました。

小児科専門医からのワンポイント
インフルエンザの薬にはタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタの4種類があります。いずれにも特徴があります。詳しくはこちらの記事を参照にしてください。

 

症例のまとめ

  • 高熱、咳、鼻水ですぐに受診したが、最初の検査はインフルエンザ陰性だった。
  • 12時間経過して、再度検査するとインフルエンザ陽性だった。
  • インフルエンザの治療薬には内服薬のタミフル、吸入薬のリレンザ・イナビル、点滴薬のラピアクタがある。
  • 抗インフルエンザ薬で異常行動が増えてるかどうかは明らかにされていない。
  • 3歳のみくちゃんにはタミフルが推奨される。

次回予告

このあと、タミフルの処方箋が渡され、薬局で薬をもらうのですが……。
みくちゃんは薬局でけいれんを起こしてしまいます。

インフルエンザで熱性けいれん!? 症例提示part2に続きます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。