7歳の女の子の胸が大きくなったとき。乳房腫大の症例提示。

注意事項:個人情報保護の観点から、この記事の症例提示は架空のものとなっております。ここに登場する患者の名前・年齢・性別・検査データ・臨床所見などは、科学的な矛盾が生じないように配慮されつつ、すべて架空のデータであることをご了承ください。

乳房腫大で外来を受診されるケースは時々経験します。
このケースは4パターンに分けられます。

  • 生まれたばかりの赤ちゃん
  • 生後6か月から3歳までの女の子
  • 6歳から8歳までの女の子
  • 10歳から15歳の男の子

疾患の詳しい知識については以前記事を書きましたので、こちらも併せてお読みください。

子どもの胸が大きくなったとき。乳房腫大の鑑別。

2017年1月27日

今回は7歳の女の子のケースについて具体的な症例提示をします。

乳房腫大の症例提示

さきちゃんは7歳の女の子です。
生来健康で、背の高さもクラスで真ん中くらいです。

胸が膨らんできた?

さきちゃんのお母さんは、さきちゃんと毎日一緒にお風呂に入ります。
最近、さきちゃんの胸が少し膨らんできたような気がします。

お母さん
「うーん。私は小学校の4年生くらいから胸が膨らみ始めたような気がするけれど……」

さきちゃんはまだ小学校の1年生です。
まだ胸が大きくなるには早い気がします。

お母さん
「病院に行くほどのことでもないかな」

お母さんは少し様子を見ることにしました。

小児科専門医からのワンポイント
女性の乳房腫大は平均で10歳から始まります。個人差がありますので8歳、9歳で胸が大きくなっても異常とは言えません。ただし、7歳6か月までに胸が大きくなるときは、思春期早発の可能性があるので小児科に相談すべきでしょう。

 

半年後

さきちゃんの胸は大きくなったままです。
どんどん大きくなるわけではありませんが、左胸だけ膨らんでいます。
乳首を触ると、しこりも触れます。

インターネットで調べると「思春期早発」という病気を見つけました。
思春期が早く始まって、背がぐっと伸びたあとに成長が止まり、結果的に低身長になってしまうようです。
そして、脳腫瘍が原因となりうると書いてありました。

お母さん
「脳腫瘍だったらどうしよう……」

お母さんは不安になって、さきちゃんを小児科に連れていきました。

小児科を受診

小児科専門医
「なるほど、確かに胸が大きくなるには少し早いですね。お母さんは脳腫瘍を心配されているのですね」

小児科の先生は、母子手帳とお薬手帳を確認しました。

小児科専門医からのワンポイント
小児科を受診するときは、母子手帳とお薬手帳をを是非持ってきてください。この2つから得られる情報はとても大事です。乳房腫大のときは、幼稚園と小学校の成長の記録があればなおよいです。
小児科専門医
「ホルモンに影響しそうな薬は使っていませんね。成長曲線を書いてみましょう。3歳までの身長は母子手帳で分かります。幼稚園と小学校の成長の記録を今度持ってきてください。この胸は、どんどん大きくなっていますか?」
お母さん
「いえ、半年前に気づいたのですが、それからは特に大きくなっていません」
小児科専門医
「もう生理は来ていますか?」
お母さん
「いえ、まだおりものはまだです」
小児科専門医
「笑うような場面ではないのに、突然笑うことはありますか?」
お母さん
「ピコ太郎のPPAP、私は全然面白くないと思うんですけれど、娘はケラケラ笑ってます」
小児科専門医からのワンポイント
ここで医者が聞きたかったのは、笑い発作の有無についてです。ニヤリとするものから大笑いするものまで色々あります。急に沈み込んだあと、ニヤリとするときは笑い発作かもしれませんが、意味もなく笑うことは大人でも子どもでもありますので、本当に笑い発作かどうかは脳波検査が必要です。ただ、脳波をとってもそのときに発作が出なければ分かりませんので、笑い発作の診断はなかなか難しいです。ただ、PPAPで笑うのは笑い発作ではありません。
小児科専門医
「分かりました。では診察をしますね」

小児科の先生は全身の皮膚を観察した後、胸と陰部の状態を診察しました。

小児科専門医
「体にあざはありませんし、乳頭の色も普通です。恥毛もまだですね。さきちゃんは、早発乳房か思春期早発のどちらかだ考えられます。早発乳房は何も心配することはありません。胸だけが少し早く成長しただけで、正常な発育のパターンだと思ってください。いっぽうで思春期早発は、成長の伸び始める時期が早くなります。ですが、成長が止まる時期も早くなり、結果的に背が低くなります。また小学校の4年生までに生理が来てしまい、まだ心の成長が追いついてないお子さんにはショックを受けることになるかもしれません。さきちゃんは身長の伸びが曲線に従ってますので、おそらく早発乳房だと思います。ただし、これからぐっと背が伸び始め、実は思春期早発だったということもありますので、6か月おきに外来で身長を測っていきましょう」
お母さん
「あの、検査はしなくていいんですか? 脳腫瘍が心配なんです」

お母さんは不安な気持ちを小児科の先生に伝えました。

小児科専門医
「思春期早発を起こす脳腫瘍として、視床下部過誤腫が有名です。この腫瘍は手術で取り除くことはできませんし、無症状であることも多いですので、早期発見が大切というものではありません。ですが、お母さんの心配もよく分かります。頭のMRIを撮影するという選択肢もありますし、血の検査でホルモンが異常に出ていないかを調べることもできます。血の検査ならこの病院でもできますよ」
お母さん
「よろしくお願いします」

検査結果

1週間後、採血検査を聞きに小児科に訪れました。

小児科専門医
「E2という卵巣のホルモンが上がっていませんので、思春期早発の可能性は低いと思います。早発乳房であれば脳の腫瘍の心配はしなくて大丈夫ですよ」

先生の説明に、お母さんは安心しました。

小児科専門医
「念のため、6か月後に身長を測りに来てくださいね」
お母さん
「はい!」

症例のまとめ

  • 7歳で胸が膨らみ始めたため小児科を受診した。
  • 診察上、胸が膨らんでいる以外の異常がなく、おそらく早発乳房だろうと診断された。
  • 医師からは成長の経過観察をすると言われた。
  • 念のため採血検査を受けたが、異常はなかった。

補足

検査の結果、早発乳房ではなく思春期早発であったとしても、7歳の早発乳房は必ずしも治療が必要というわけではありません。
正常の思春期が少し早まったもの、という解釈もできます。

治療をすることで、身長を少しだけ大きくできますが、その効果は小さく、強く奨められているわけではありません。
いっぽうで、体の変化に心がついていけないときは、精神的な動揺を防ぐために治療することもあります。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。