解熱薬は熱性けいれんを予防しますか?

現在私は、初期研修医の先生や、総合診療医の先生が、子どもを診るときに役立つ本を作っています。

熱性けいれんは子どもの救急で非常によく出会いますから、熱性けいれんに関する知識は大切です。
そのため、熱性けいれんに関する記載はできるだけ詳細に書くように努めています。

今日は、解熱薬が熱性けいれんを予防するかについて書きます。

今までの認識:解熱薬が熱性けいれんを予防するエビデンスは乏しい

Antipyretic effectiveness of acetaminophen in febrile seizures: ongoing prophylaxis versus sporadic usage.(Eur J Pediatr. 1993 Sep;152(9):747-9.)

  • 単純型熱性けいれんをきたした104人の子どもを、53人のアセトアミノフェン4時間おき投与群と、51人の発熱時アセトアミノフェン頓用群とに分け、比較しました。
  • 結果、アセトアミノフェン4時間おき投与群では53人中4人が再けいれんし、発熱時アセトアミノフェン頓用群では51人中4人が再けいれんしました(有意差なし)。

Randomized, controlled trial of ibuprofen syrup administered during febrile illnesses to prevent febrile seizure recurrences.(Pediatrics. 1998 Nov;102(5):E51.)

  • 無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。
  • 熱性けいれん再発リスクを持つ子ども230人を、111人の発熱時には6時間おきに24時間イブプロェン投与する群(イブプロフェン群)と、119人の発熱時にはプラセボ投与群(プラセボ群)とに分け、比較しました。
  • 両群とも約1年フォローされ、イブプロフェン群は31人、プラセボ群は36人が熱性けいれんを再発しました(有意差なし)。

Antipyretic agents for preventing recurrences of febrile seizures: randomized controlled trial.(Arch Pediatr Adolesc Med. 2009 Sep;163(9):799-804.)

  • これも無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。
  • 熱性けいれん既往ある子ども231人を、解熱薬積極投与群(発熱時にはまずジクロフェナクが使用され、その後イブプロフェンかアセトアミノフェンが使用される)197人とプラセボ群34人とに分け、比較しました。
  • 2年間フォローされ、解熱薬積極投与群197人中54人、プラセボ群34人中8人が熱性けいれんを再発しました(有意差なし)。

Do antipyretics prevent the recurrence of febrile seizures in children? A systematic review of randomized controlled trials and meta-analysis.(Eur J Paediatr Neurol. 2013 Nov;17(6):585-8.)

  • メタアナリシスで、解熱薬は熱性けいれん予防には無効であると結論付けられました。

今までの研究の問題点と新しい着眼点

解熱薬が熱性けいれんを予防するかに関しては、無作為化二重盲検プラセボ対照試験がすでに複数あることもあり、もはや覆らない真実だと私は思っていました。
しかし、今までの研究には小さな隙間がありました。

  • 熱性けいれん後の同一発熱期間中の再発に関しては、対照群で解熱薬の頓用を許可してしまっている。
  • 無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、同一発熱期間を対象としていない。

つまり、熱性けいれん発生後の同一発熱期間を対象として、解熱薬を使う群と、解熱薬を一切使わない群との比較は存在しなかったのです。

そこで、この論文です。
Acetaminophen and Febrile Seizure Recurrences During the Same Fever Episode.(Pediatrics. 2018 Nov;142(5). pii: e20181009.)

この論文は、熱性けいれんに引き続く同一発熱期間に解熱薬を積極的に使用することで、全く使用しない場合と比較して、熱性けいれんが予防されるかどうかを評価する世界で最初のランダム化比較試験です。

研究の方法:アセトアミノフェン群219人と非解熱薬群204人

熱性けいれんで受診した生後6か月から60か月までの児が対象です。

次の人たちは研究から除外されます。

  • 同一発熱期間中にすでに2回以上の熱性けいれんをした。
  • 15分以上けいれんした。
  • てんかん、染色体異常、先天性代謝異常、脳腫瘍、頭蓋内出血、水頭症、頭蓋内手術歴を有する。
  • ジアゼパム坐剤(ダイアップ®)がすでに投与されている。
  • 抗ヒスタミン薬を服用している。
  • 下痢がある。

これらは純粋な熱性けいれんを抽出する意図があります。

熱性けいれんで受診した子どもはランダムで2つの群に分けられます。

アセトアミノフェン群は、診断後ただちにアセトアミノフェンが使用され、以降38℃以上の熱があれば、24時間後までは6時間おきにアセトアミノフェンが投与されます。

非解熱薬群は、24時間は解熱薬を使用しません。

アセトアミノフェン群219人と非解熱薬群204人が集まりました。

研究の結果:解熱薬は再けいれん率を23.5%から9.1%に減らす

アセトアミノフェン群219人中20人が24時間以内に再けいれんしました。
非解熱薬群204人中48人が24時間以内に再けいれんしました。

これは有意差があり、解熱薬は再けいれん率を23.5%から9.1%に減らしました。

論文の限界と結論

アセトアミノフェンによって解熱が得られていたかどうかは、この論文では不明です。
そのため、アセトアミノフェンがどうして熱性けいれんを予防できたのかは不明です。

ダイアップ®との併用効果についても不明です。

熱性けいれん自体が予後良好であるという事実は変わりません。
熱が出ればとにかく解熱薬を使いましょう!というスタンスは推奨されません。

熱性けいれんに対して解熱薬を使用する際に大切なことは、保護者の不安を和らげ、個々の条件に基づいて適切な使用法を説明することです。

本論文の結果は、わが子が熱性けいれんで受診し不安でいっぱいのお父さん・お母さんの不安を和らげるのに、場合によっては有用かもしれません。

私の感想

わが子が熱性けいれんで受診したとき、多くの保護者が動転しています。
場合によっては、そこから24時間は解熱薬をしっかり使ってもいいかもしれません。
このアドバイスは、保護者の不安を取り除くには有効でしょう。

ただ、本論文が示したのは、あくまで熱性けいれんに続く同一発熱期間内の再けいれんについてのみです。

元気になった後、また熱が出たときに解熱薬がけいれんを予防するのかどうかは分かりません。

私はアセトアミノフェンは安全な薬だと認識しています。
いっぽうで、熱性けいれんの予後も良好です。

熱性けいれんを恐れて、熱が少しでも上がれば解熱薬を投与し続けるというスタンスは賛成できません。
解熱薬使用はケースバイケースだと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。