卵アレルギーでも多くの場合インフルエンザの予防接種は可能です。

11月。

仕事が終わって家に向かうときには、もう外は真っ暗です。
日が暮れるのが早くなり、朝晩は冷え込んできました。
今まで温暖な瀬戸内に住んでいたものとしては、丹波篠山はとても寒く、先日石油ファンヒーターを 買いました。

季節の移り変わりを感じるとき、小児科でも病気の移り変わりを感じます。
近隣の中学校で、インフルエンザによる学級閉鎖があったと報告を受けました。
インフルエンザのシーズンの到来です。

インフルエンザにかかりたくない、または自分の子どもにかからせたくないと思うでしょう。
インフルエンザの予防のために、ワクチン接種をすることは有効です。
生後6か月以上の子どもであれば、インフルエンザの予防接種をすることができます。

インフルエンザの予防接種の有効性や、接種スケジュール、副反応など一般的によく頂く質問はこちらにまとめました。

インフルエンザワクチンの有用性と安全性。予防接種は受けるべき?

2017年1月5日

インフルエンザの予防接種で一番よく頂くのが「卵アレルギーでも接種できますか?」という質問です。
今回は、卵アレルギーでもインフルエンザの予防接種はできるかどうかを書きます。

インフルエンザワクチンの添付文書

薬が使えるかどうかを確認するのに、もっとも基本的な行動は「添付文書を読むこと」です。

ただし、添付文書がすべてでありません。たとえば妊娠中や授乳中の薬に対して添付文書があまり役に立たないことは、こちらの記事に書きました。

授乳中や妊娠中に使える薬のアドバイス。

2017年9月23日

接種不適当者

インフルエンザワクチンはたくさんのメーカーがいろいろ作ってますが、その添付文書はほぼ同じです。
インフルエンザのワクチンを接種できない「接種不適当者」についてはどう書いてあるでしょうか。

接種不適当者(次の患者には投与しないこと)

(予防接種を受けることが適当でない者)
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合には、接種を行ってはならない。
(1) 明らかな発熱を呈している者
(2) 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
(3) 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
(4) 上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

インフルエンザワクチンの添付文書

ここに卵アレルギーに関する記載はありません。
ですが、インフルエンザワクチンには卵白蛋白が数ng(1ngとは0.000000001gです)混入している可能性があります。
(3)を広く解釈すれば卵はインフルエンザワクチンの成分であると言うことが可能ですので、卵でアナフィラキシーを呈した人は接種不適当者となります。

接種要注意者

接種できるんだけど、注意が必要な人を「接種要注意者」といいます。
接種要注意者についても添付文書で確認してみましょう。

接種要注意者(次の患者には慎重に投与すること)

(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態及び体質を勘案し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。

(中略)

本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈するおそれのある者

インフルエンザワクチンの添付文書

卵アレルギーの子どもに対して、「インフルエンザワクチンは注意が必要だけど接種することはできるよ」と書かれています。

以上をまとめると「卵でアナフィラキシーを起こしたことがある人は接種できませんが、卵でじんましんが出たとか全身に発疹が出たとか(つまり、アナフィラキシーを起こしたことがない卵アレルギー)であれば注意して接種できます」と解釈できそうです。

予防接種に関するQ&A集の見解

日本ワクチン産業協会が、インフルエンザワクチンに対する注意点についても解説してくれています。

鶏卵接種後にアナフィラキシーを起こした病歴がある者等は接種不適当者に該当するため、接種はできません。

(中略)

鶏卵アレルギーがあったり、卵白特異的IgE抗体が陽性でも、卵加工食品を食べて無症状である場合や、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎があるというだけの場合は、重篤な副反応の報告はなく、通常接種は可能です。

予防接種に関するQ&A集 2016年版

これは、添付文書で私がした解釈とまったく同じです。
さらにいうなら、卵加工品を食べられる軽症の卵アレルギーであるならば、通常の接種が可能とあります。

つまり、「卵でアナフィラキシーを起こしたことがある人は接種できませんが、卵でじんましんが出たとか全身に発疹が出たとか(つまり、アナフィラキシーを起こしたことがない卵アレルギー)であれば注意して接種でますし、卵加工品が食べられる人であれば通常の接種で問題ありません」となります。

アメリカ小児科学会の見解

アメリカ小児科学会は、卵アレルギーに対するインフルエンザワクチンをどのように考えているでしょうか。

アメリカでは卵アレルギーにインフルエンザワクチンを接種できますか?

2017年10月18日

上記の記事で書いた通り、アメリカでは「卵アレルギーに対するインフルエンザワクチンは全く問題ない」という指針を出しています。
たとえ卵でアナフィラキシーを起こしたことがあっても、インフルエンザの予防接種で卵アレルギーが出ることはないという科学的根拠があるためです。

ウワサ情報サイトの見解

ウワサ情報サイト。
医療に詳しくない人が、世間のウワサを元に、もっともらしい書いた医療記事の集合を「ウワサ情報サイト」と私は呼んでいます。

ウワサ情報サイトのいいところは、「世間にはこういう誤解をしている人たちがいるんだな」ということが分かり、私がどういうことを気をつけて説明すればいいかを教えてくれる点です。

卵アレルギーの子は要注意!

インフルエンザのワクチンを作るのに鶏の卵が使われているということを耳にしたママもいると思います。
そのため卵アレルギーをおもちのお子さんはアレルギー症状にもよりますが、接種を控えた方がよいとされています。ママが無理に接種をさせる前にまずはかかりつけの先生に相談してみることをオススメします。
卵アレルギーがあるかどうか不明のお子さんは事前にアレルギー検査をしてみるとよいでしょう。

ちょっと待って!「卵」アレルギーの子が予防接種を避けたい理由

「接種を控えたほうがよいとされている」の部分がひっかかります。
おそらく文章の書き方だけの問題だと信じたいのですが、少なくても誤解を招きそうです。

「卵アレルギーがあるかどうか不明のお子さんは事前にアレルギー検査をしてみるとよいでしょう」の部分は、書き方だけの問題ではないように感じます。
もし卵アレルギーの本質を理解した上でこう書いたのであれば、ジョークのつもりで書いたのかもしれません。(なかなかのブラックジョークではありますが)

誤解を招かないように書くというのは、とても難しいことなのは分かっているんですけれどね。
私も自分の文章が誤解なく伝わっているとは思っていません。

ただ、以前に「肩こりの原因は幽霊のしわざ」というWELQ記事が問題になったように、「接種は控えたほうがよい」とか「事前にアレルギー検査をしてみるとよい」とか、言いきってしまうのは危険だと思います。

卵アレルギーのうち、接種を控えるべき人はごく少数です。
卵を食べたことがないために卵アレルギーかどうか分からないという人に、アレルギー検査を推奨する根拠は乏しいでしょう。

まとめ

卵アレルギーに対してインフルエンザの予防接種ができるかどうか考えてみました。

日本では「卵でアナフィラキシーを起こしたことがある人は接種できませんが、卵でじんましんが出たとか全身に発疹が出たとか(つまり、アナフィラキシーを起こしたことがない卵アレルギー)であれば注意して接種できますし、卵加工品が食べられる人であれば通常の接種で問題ありません」という方針です。

卵アレルギーの子どもは多いですが、卵でアナフィラキシーを経験したことがある子どもはそれほど多くありません。
したがって、卵アレルギーであっても、多くの場合インフルエンザの予防接種が可能です。

アメリカでは「卵アレルギーはその重症度を問わず、インフルエンザワクチンを安全に接種できる」という方針です。

ただ、日本のウワサ情報サイトでは、卵アレルギーではインフルエンザの予防接種を避けたほうがよいと考えている人もいます。

私個人の経験として、卵に起因したインフルエンザワクチンアレルギーは見たことがありません。
インフルエンザワクチンでアレルギー様症状が出現した経験はありますが、その子は卵アレルギーではありませんでした。

少なくても「卵アレルギーの人はインフルエンザの予防接種ができないんですよね?」という誤解をといてあげることが、小児科医の務めなのではないかなと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。