薬物中毒に対する活性炭投与のエビデンス。

薬物中毒に対する活性炭投与
この効果をめぐって、挑発的とさえ思えるほど強いインパクトで書かれたレビューがあります。

Sometimes mistakenly characterized as a ‘universal antidote,’ activated charcoal (AC) is the most frequently employed method of gastrointestinal decontamination in the developed world.

時として「万能な解毒薬」と誤解されている「活性炭」は、先進国でもっともありふれた中毒治療である、という冒頭でこのレビューは書かれています。

今回は活性炭投与のエビデンスについて書きます。

活性炭の効果が限定的だとするエビデンス

活性炭投与が臨床的転帰を改善するという大規模な臨床対照研究はない。

小児内科2008 2月号 P446

日本中毒学会は、禁忌例および活性炭に吸着しない物質以外のすべての中毒で、活性炭治療を推奨しています。
ですが、活性炭の効果を証明するエビデンスはそれほど強くありません。
(少なくても私はそう認識しています)

LANCETにも、Multiple-dose activated charcoal in acute self-poisoning: a randomised controlled trial(LANCET2008)という論文で、「活性炭は急性中毒に効果がない」と報告されました。
4500人の急性中毒患者をランダム化して試験したという大規模な研究です。

これはスリランカの論文で、入院は服毒から平均4時間経過しています。
対象は「有機リン酸系農薬」または「キバナキョウチクトウの種子」による自殺企図者です。

参考:wikipedia

参考:wikipedia

キョウチクトウには、オレアンドリンなど様々な強心配糖体が含まれており、強心作用がある。ヒトの場合、オレアンドリンの致死量は0.30mg/kgで、青酸カリをも上回る。

wikipedia

wikipedia情報で申し訳ありません。
キバナキョウチクトウの種子の毒は、活性炭に吸着はされるようです。
しかし、死亡率というアウトカムにおいて、活性炭の有用性は確認できなかったという報告でした。

他にも、Activated Charcoal Does Not Reduce Duration of Phenytoin Toxicity in Hospitalized Patients.(Am J Ther. 2016;23:e773-7)では、フェニトイン中毒患者への活性炭投与は入院期間や血中濃度に影響しなかったと報告しています。

Use and knowledge of single dose activated charcoal: A survey of Australian doctors.(Emerg Med Australas. 2016;28:578-85)では、オーストラリアでは活性炭投与はあまりされなくなってきており、中毒専門医に比べ救急専門医はより活性炭を投与しない傾向にあると報告しています。

活性炭が有効だとするエビデンス

逆に「活性炭は効果的なんだ!」という論文を探して、PubMedをうろうろしてみましたが、なかなか良い論文が見つからず(ケースレポートではいくつか見かけるのですが大規模な研究は見つかりません)、最新のレビュー(論文をまとめた論文です)を読んでみることにしました。

Activated charcoal for acute overdose: a reappraisal.(Br J Clin Pharmacol. 2016; 81: 482–487)

「急性中毒に対する活性炭:再考」というタイトルです。
無料で全文読める、素敵な論文です。
この論文は、冒頭で紹介したように強いインパクトで始まります。

このレビューの中でもスリランカのキバナキョウチクトウや農薬による中毒の評価が記載されています。
そして「should not be overinterpreted(過度に解釈すべきではない)」という評価をしています。

In spite of their negative findings, it must be emphasized that no randomized controlled trial has evaluated the efficacy of SDAC when given promptly (within 1–2 h) following ingestions likely to result in serious toxicity or death.

否定的な報告はありますが、重大な毒性または死に至る可能性がある薬物を摂取したすぐあとの(1〜2時間以内の)活性炭投与の有効性を評価したランダム化比較試験はないことが強調されなければならない、とあります。

確かに、スリランカの論文は平均4時間経過してからの活性炭投与でした。
ランダム化比較試験は、割り付けやインフォームドコンセントに時間がかかります。
ランダム化比較試験で、速やかに活性炭を投与することはできないでしょう。

続けて、このレビューでは活性炭が有用だった報告を挙げています。

For example, in patients who have taken large overdoses of citalopram, SDAC reduced the chance of high‐risk QT‐RR combinations by approximately 60%, and, when given within 2 h of promethazine overdose, reduced the risk of delirium by more than half. In another study involving paracetamol, SDAC reduced the likelihood of a concentration above the N‐acetylcysteine treatment line on the Rumack–Matthew nomogram.

  • シタロプラム(SSRI系の抗うつ薬)の中毒では、活性炭は高リスクQT-RRコンビネーション(突然死の原因となる危険な不整脈)の可能性を約60%低下させました。
  • プロメタジン(抗ヒスタミン薬)の過剰投与から2時間以内に活性炭を投与すると、せん妄のリスクを半分以上低下させました。
  • アセトアミノフェンを含んだ別の研究では、活性炭はN-アセチルシステイン(アセトアミノフェンの解毒薬)より血中濃度を低減しました。

活性炭の危険性

活性炭投与にはリスクがあるはずです。
リスクがあるからこそ、活性炭投与に躊躇するオーストラリアの救急医がいるのです。

Although generally safe, SDAC is not free of risk. The most widely cited concern associated with SDAC is pulmonary aspiration, although the risk of this complication is low. Indeed, in a cohort study of more than 4500 overdose patients, 71 (1.6%) developed aspiration pneumonitis. Emesis, seizure and altered mental status were among the independent predictors of aspiration but the administration of AC was not.

Nevertheless, aspiration following SDAC is well documented in isolated case reports, some of them dramatic. In one case, a young child died following aspiration of SDAC given to treat the ingestion of an unknown liquid from a chemistry set. In another, a 34‐year‐old woman was given SDAC by nasogastric tube after a mixed drug overdose while intubated. The immediate appearance of AC in the endotracheal tube was followed by the development of acute respiratory distress syndrome and persistent parenchymal disease. This case reflects suboptimal airway management but also illustrates the rare potential for harm resulting from aspiration of AC. Chronic lung disease, obstructive laryngitis with glottic oedema, granulomatous lung mass, charcoal empyema and bronchiolitis obliterans have also been reported as pulmonary complications of SDAC.

活性炭による誤嚥性肺炎は有名な合併症ではありますが、その確率はずいぶん低いようです。
中毒患者4500人中71人(1.6%)に誤嚥性肺炎がありましたが、炭投与が原因ではありませんでした。

にもかかわらず、活性炭投与による誤嚥性肺炎は劇的であるという報告がいくつかあります。
活性炭治療を受けた幼児が誤嚥性肺炎で死亡しました。
34歳の女性のケースでは、挿管中であったにも関わらず活性炭で誤嚥性肺炎になりました。
慢性肺疾患、声門浮腫を伴う閉塞性喉頭炎、肉芽腫性肺腫瘍、炭膿瘍および閉塞性細気管支炎も、活性炭投与の肺合併症として報告されています。

結論

毒薬物中毒に対する活性炭投与は有効性と無効性を表す論文の両方があります。

無効性を示す論文は大規模なランダム化比較試験ではありますが、薬毒物の服薬から活性炭投与までの時間が長く、上記のレビューでは「過度に解釈すべきではない」と評価されています。

有用性を示す論文が複数あるため、上記の論文では以下のように結論づけています。

In patients with acute overdose, SDAC remains an important therapeutic option, and recent studies involving real‐world patients have reinforced the long‐held belief that it can significantly reduce systemic drug absorption when given shortly after overdose.

薬物中毒において、活性炭投与は重要な治療選択肢のままです。
毒薬物を内服した直後に活性炭を投与すれば、毒薬物の吸収を有意に減らせるという期待が高まっています。

感想

活性炭を挑発するような冒頭文のレビューを読みましたが、結局「活性炭は重要だよ」という結論で終わっていて、ほっとしたような拍子抜けしたような複雑な気持ちです。

論文にある通り、活性炭投与による副作用は懸念されますが、その頻度はかなり低いと考えるべきでしょう。
それでも、意識状態が悪いケース、嘔吐反射がないケースでは、カフ付き挿管チューブで気道をしっかり確保することを怠ってはいけません。

活性炭の実際の投与方法については、こちらの記事に書きました。

急性薬物中毒における活性炭投与の実際。

2017年12月4日

活性炭の禁忌を含めたいくつかの注意点さえ守れば、活性炭投与は安全です。
そして、薬毒物内服から1-2時間であれば、効果を期待できる治療法だと思いました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。