熱性けいれんはてんかんの原因にはなりません。

救急外来で、子どもの熱性けいれんが無事に止まった後、こんな質問をよくされます。

「熱性けいれんの後遺症で、てんかんになりませんか?」

もし質問されなかったとしても、お父さん・お母さんは子どもの熱性けいれんの後遺症を心配しています。
私の経験上、「てんかんになるのではないか」というのは、熱性けいれんの後遺症の中でもっとも不安に思われています。

今回は、熱性けいれんとてんかんの関係について書きます。

熱性けいれんとてんかんの関係

先に、熱性けいれん診療ガイドライン2015に書かれている見解について書きます。

「熱性けいれんの繰り返し発症したとしても、それが原因でてんかんに進展・以降することはありません」

熱性けいれんを原因として、その結果てんかんを発症するという仮説は現在肯定されていません。

ですから、熱性けいれんの後遺症としててんかんを心配されているお母さん・お父さんに対する説明としては、「今回の熱性けいれんのせいでてんかんになるということはありませんよ」と答えて安心させてあげるのが、日本小児神経学会の見解に基づいた返答になります。

熱性けいれんをしたことがある子どものてんかん発症頻度

そもそも、子どもがてんかんを発症する確率は0.5%-1.0%とされています。

熱性けいれんをしたがある子どもは2.0-7.5%程度にてんかんを発症するとされます。
様々な報告がありますが、熱性けいれんをしたことがある子どもは、てんかんを認める確率が約10倍になります。

「え、さっき熱性けいれんはてんかんの原因にならないと言ってたじゃないですか」

そう思われるかもしれません。
確かに、熱性けいれんはてんかんの原因にはならないというのが現在の医学的な見解です。

「熱性けいれんの後遺症で、てんかんになりませんか?」という質問に対しては、「熱性けいれんの後遺症でてんかんになることはありませんよ」と答えるのが現在の医学で正しいとされます。

ですが、てんかんを発症する子どもの多くが、その初期症状として熱性けいれんを認めることはあります。

「熱性けいれんを起こすと、てんかんになりやすいんですか?」という質問に対しては「確かにてんかんの前兆として、熱性けいれんが見られることはあります」と答えるのも、医学的に正しい回答です。

ややこしいと思われるかもしれません。
熱性けいれんはてんかんの原因ではないものの、てんかんと関連はしています。
この難解さは、誤解を招く可能性を秘めていますので、説明の際に細やかな配慮が必要です。

てんかん発症関連因子

熱性けいれん診療ガイドライン2015には、熱性けいれん後のてんかん発症関連因子として次の4つを挙げています。

  • 熱性けいれん発症前の神経学的異常。
  • 両親・きょうだいにてんかんの者がいる。
  • 複雑型熱性けいれん(発作が非対称であったり、発作が15分以上続いたり、1つの発熱の中で2回以上けいれんしたりする)を認めた。
  • 発熱から1時間以内にけいれんする。

この4項目のいずれも認めない熱性けいれんでは、てんかん発症リスクは変わりません。
てんかんを発症する確率は1.0%です。

ですが1つ認めればてんかんの発症率は2倍に、複数認めれば10倍になるとされます。
10倍をどう評価するかは後述しますので、「10倍はかなり危険!」と早合点しないよう注意してください。

脳波検査はてんかんの予測に有用か

熱性けいれんの起こした後、てんかんにならないかが心配で、親から脳波検査を希望されることもあります。

脳波異常を認めるとてんかんになりやすいという報告と、脳波異常があってもてんかんになりやすいことはなかったとする報告の両方があり、現時点では結論が出ていません。

熱性けいれんを起こすとてんかんになりやすいのか

結局、熱性けいれんを起こすとてんかんになりやすいのでしょうか。

さきほど、てんかん発症関連因子について書きました。
たとえ前述のてんかん発症関連因子を複数認めたとしても、90%の確率でてんかんを発症しません。

そして、熱性けいれんはてんかんの原因とはなりませんので、熱性けいれん予防に躍起になりすぎる必要もありません。
たとえば少しでも微熱が出たらけいれん予防薬のダイアップを過剰に使うとか、副反応としての発熱が出ないように予防接種を打たないようにするとか、そういう行き過ぎた熱性けいれん対策は、子どもに有益ではありません。

「熱性けいれんは良性の疾患である」ということをお父さん・お母さんに理解してもらうことが大切です。

まとめ

  • 熱性けいれんはてんかんの原因にはならない。
  • 熱性けいれん発症後のてんかん発症関連因子はある。しかし関連因子を複数認めても、ほとんどの子どもがてんかんにはならない。
  • 熱性けいれんの予防に躍起になっても、てんかん発症とは関連しない。
  • 熱性けいれんは良性の疾患である。

私が後期研修医のころ、熱性けいれんを3回した子どもの脳波検査をしたことがあります。
脳波では、少し気になるspikeを認めました。
指導医に相談したところ、「確かに気になるけれど、正常な子どもの一部にも脳波異常は見られるし、それに熱があるときにしかけいれんしないのなら、それは熱性けいれんと考えるべき」と教えられました。
その教えは2012年のときでしたが、熱性けいれん診療ガイドライン2015のスタンスに沿っていて、指導医の臨床的知識に感心します。

てんかん発症を予防する方法は、現時点では確立していません。
てんかんを予測し、早期にから発症予防に努めるという姿勢に十分なエビデンスはありません。

てんかんとしての介入で大事なのは、熱が出ていないにも関わらずけいれんしたときでしょう。

熱が出ているときのけいれんに関しては、てんかん発症関連因子があっても、脳波異常があっても、良性な熱性けいれんであると考えます。
お父さん・お母さんに正しい説明をし、十分な理解を得て、必要以上な不安を与えないようにすべきです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。