小児救急における重症ロタウイルス腸炎。

2017年4月現在、ロタウイルス腸炎が流行しています。

私の子どももロタウイルスにかかりましたが、子どもが吐くととても心配になりますね。

脱水になってもすぐ点滴してもらえる先進国では、ロタウイルス腸炎で死亡することは滅多にありません。
アメリカのロタウイルス死亡者は年間20~40例です。
日本では年間5人以下とされています。

しかし、発展途上国ではロタウイルスによる乳幼児の死亡はとても多いです。

ネルソン小児科学によると、ロタウイルス性胃腸炎による死亡は世界中で年間約50万例です。
ロタウイルスは小さな子どもの命を1年に50万人も奪っているウイルスです。

今回は、前回に引き続いて小児救急がテーマです。
ロタウイルスによる重症例について書きます。

なお、一般的な軽症のロタウイルス腸炎の経過はこちらを参照ください。

ロタウイルス腸炎を罹患した2歳児の一般的な経過。

2017.01.08

ケース1:ロタウイルス腸炎でショックを起こした例

救急車の受け入れ要請がありました。

生後3か月の女児、主訴は嘔吐・下痢・哺乳力低下です。
かなりぐったりしているとのことです。
2歳の兄が先週からロタウイルス腸炎とのことでした。

受け入れを許可すると、まもなくその女児が搬送されてきました。

乳児はぐったりしており、ベッドに横たわり、両親の呼びかけに反応しない状態です。
呼吸は荒いものの、陥没呼吸(胸が凹むような呼吸)はありません。
皮膚にまだら模様が見られます。

小児科医はショックを考え、ただちに処置を開始しました。
ショックについてはこちらの記事を参照ください。

ショックとは何か。定義・原因・判定・治療について。

2017.04.23

高流量の酸素を与えながら、小児科医は乳児のバイタルサインを確認します。
乳児の脈拍は210回/分、呼吸数は50回/分、血圧は60/43mmHg、体温は36.1℃でした。
パルスオキシメーターを装着すると連続的に波形を拾わないものの、SpO2 99-100%を表示しています。

上腕と大腿動脈の拍動は弱く、末梢動脈の拍動を触れません。
心音は正常で、肘と膝より末梢は冷たいです。

指の毛細血管充満時間は5秒以上でした。

肺の音は清明です。

診察中ときどきうめき声をあげますが、それ以外は声掛けや刺激に反応しません。

小児科医は低血圧性ショックと判断し、その原因は嘔吐下痢による脱水と考えました。

小児科医は骨髄針で輸液路を確保したのち、すみやかに生理食塩水を20ml/kg投与します。
母によると体重は6kgでしたので、120mLの生理食塩水を10分間で投与しました。

同時に血液検査も行い、血糖値が40と低かったため、10%ブドウ糖液を30ml追加しました。

輸液後、乳児の末梢の拍動は強く触れるようになり、四肢は温かくなりました。
毛細血管再充満時間は迅速になりました。

静脈路も確保できたため維持輸液に変更し、小児病棟に入院としました。
のちに便からはロタウイルス抗原が検出され、ロタウイルス腸炎による循環血漿量減少性ショックであったと診断されました。

5日後、児は明らかな後遺症なく退院できました。
ですが、もう少し処置が遅ければ、低血圧ショックから心停止もありえた経過だったと小児科医は思いました。

ケース2:ロタウイルス腸炎で心停止した例

8か月の男児が、重症の下痢と脱水のため救急部に搬送されました。
普段は保育園に通っており、保育園ではロタウイルスが流行しているようです。
児はロタウイルスワクチンを接種していません。

救急車内では呼びかけなんとか反応はありましたが、病院に到着したときには意識がなくなっていました。
母によると体重は8kgとのことです。

パルスオキシメーターには波形が出ず、体の酸素を測れません。
酸素投与はされているものの、全身はチアノーゼ色で、呼吸をしていないように見えます。
小児科医は脈拍を探しますが、触知できません。

小児科医は心停止と判断し、すぐに支援を要請しました。
そして救急隊とともに胸骨圧迫を開始しました。

小児におけるCPRは、蘇生できる人が2人いる場合は15:2で行われます。
すなわち、胸骨圧迫を15回し、2回人工呼吸をします。
胸骨圧迫は100回/分のテンポで、胸郭の深さの1/3は沈み込むようにしっかり圧迫します。

看護師が心電図モニターをつけたところ、HR44で幅の広いQRSリズムを確認しました。

小児科医は無脈性PEA(心臓には電気信号はあるものの、有効な拍動はできていない状態)と判断しました。

心停止のアルゴリズムに基づいて、胸骨圧迫と人工呼吸を継続しつつ、骨髄針で輸液路を確保し、10倍希釈したアドレナリンを0.8ml投与しました。

胸骨圧迫を2分間実施し、再度心電図モニターを確認しましたが、HR50です。
相変わらず脈拍は触れません。

無脈性PEAの持続と考えた小児科医は、心停止のアルゴリズムに従って、治療可能な原因を考えます。

無脈性PEAで治療可能であるのは、Hypovolemia(循環血漿量減少)、Hypoxia(低酸素血症)、Hydrogen ion(アシドーシス)、Hypoglycemia(低血糖)、Hypo/Hyper kalemia(低/高カリウム血症)、Hypothermia(低体温)、Tension pneumothorax(緊張性気胸)、Tamponade(心タンポナーデ)、Toxins(中毒)、Thorombosis(肺塞栓、心筋梗塞)です。

嘔吐、下痢のエピソードから、循環血漿量減少をまずは考えた小児科医は、160mlの生理食塩水を10分間で点滴しました。

さらに小児科医は、酸素化をさらに有効とするため、気管挿管を行いました。
そして血液検査でアシドーシスやカリウム、血糖値を検索しました。

低血糖と高カリウム血症、重度の代謝性アシドーシスを認めたため、10%ブドウ糖液を40ml追加投与し、さらに炭酸水素ナトリウムを投与しました。

心停止から8分で、心拍が再開(Return of Spontaneous Circulation)し、脈拍を振れるようになりました。
小児科医はPICUに乳児を入院させ、蘇生後の管理に移行します。

一命はとりとめましたが、心停止のあいだに脳が低酸素性虚血性脳症をきたした可能性があります。
後遺症が残らないか危惧されます。

まとめ

日本におけるロタウイルスによる死亡はきわめて稀とはいえ、救急疾患は突然やってきます。

数分間の処置の迷いが予後に大きく影響します。

ロタウイルスによる心停止は、私は経験したことはありません。
ですがロタウイルスによるショックは経験したことが何度かあります。

ショックの一部は心停止に移行します。

小児科医である以上、ショックの管理、そして残念にも心停止に至った場合の管理は、常にシミュレートしておかなければなりません。