小児の急性糸球体腎炎の症状・検査・治療。

溶連菌にかかったことはありますか?

もしあれば、溶連菌が治った2週間後に「おしっこの検査を受けに来てください」と指示されたことがあるかもしれません。

以前に溶連菌の症例を書きました。
その記事に登場するたかし君も、溶連菌が治った後におしっこの検査を受けています。

溶連菌性咽頭炎の症例提示。発症から完治まで小児科専門医が徹底解説。

2017.02.26

どうして、溶連菌のあとにおしっこの検査をするのでしょう。

実は、「急性糸球体腎炎」という病気になっていないか確認しているのです。
溶連菌のあとにやってくる糸球体腎炎のことを「溶連菌感染後糸球体腎炎」と言います。
そのまんまですね。

今日は、感染後糸球体腎炎(急性糸球体腎炎)について書きます。

感染後糸球体腎炎(急性糸球体腎炎)の症状

  • 紅茶やコーラ色の尿
  • 顔面または全身の浮腫(むくみ)
  • 高血圧
  • おしっこの量が少なくなる

この4つが糸球体腎炎の大きな特徴です。

1つずつ見ていきましょう。

紅茶やコーラ色の尿

血液って、時間がたつと黒っぽくなっていくのは知っていると思います。

たとえば、生理の経血。
きちんと排卵されて、生理のときにすぐに出てくる経血は真っ赤であうことが多いです。
いっぽうで、子宮内膜がはがれるのに時間がかかって、生理から3-5日ほどして出てくる経血は茶色から黒色をしています。

他にも、血便もそうです。
食道や胃で出血した場合、その血は胃酸で酸化され、赤血球が壊れます。
すると、黒っぽい色になります。
つまり、「黒色便」と言えば、食道や胃の出血になります。
ちなみに、大腸の出血は「鮮血便」という赤色の便になりやすいです。

赤血球は壊れてくると黒っぽい色になります。

これは、血尿でも同じです。

糸球体腎炎での血尿は、糸球体という血液のろ過装置の異常で起きます。

糸球体とは血液のろ過装置です。
血液中の血球や、分子の大きいたんぱく質は、このろ過装置にひっかかり、尿にはなりません。

ですから、糸球体がしっかり機能していれば、おしっこの中に赤血球が行くことはありません。

ですが、糸球体腎炎はこのろ過機能が悪くなってしまいます。
コーヒーのフィルターに穴が開いてしまった感じです。

フィルターに穴が開いてしまえば、コーヒーの中にコーヒーの粉が混じってしまいますよね。
それと同じで、糸球体が悪くなると、おしっこの中に赤血球が混じってしまいます。

赤血球は糸球体の破れた穴から出てきてしまうわけですが、そのとき狭い穴から出てくるので、赤血球は変形してしまいます。

また、糸球体で作られた「原尿」はその後「尿細管」というところを通って、尿になります。
糸球体から漏れ出て、原尿に混じった赤血球は、尿として体外に出るまでに時間がかかります。

変形を受けたり、時間がかかったりすることで、赤血球の色は黒っぽくなります。

したがって、糸球体からの血尿は、黒っぽくなるのです。
茶色やコーラ尿、紅茶色、ワイン色とも表現されます。

ちなみに、出血性膀胱炎や尿管結石などでの血尿は、鮮やかな赤色をしています。
これは、出血がすぐに尿とともに出てくるからです。

顔面または全身の浮腫(むくみ)

腎臓の機能が弱まり、おしっこが出にくくなるため、体に水がたまります。

体にたまった水は「むくみ」という形で症状になります。

感染後の糸球体腎炎で小児科を受診する子どものほとんどが「むくみ」を主訴に受診します。
(血尿や高血圧で受診する子どもはほとんどいません)

むくんでいることで、体重増加もあります。
多くの子どもが「普段の体重+4kg」くらいになったと言ってやってきます。
体に4Lの余分な水が溜まっているということです。

高血圧

子どもが自宅で血圧を測ることはありません。
したがって、高血圧と言うのは「小児科医が急性腎炎症候群を疑って検査した場合」に判明する所見です。

血圧の基準値は、多くの小児科医が以下の表を使っていると思います。

95%タイルを超える場合が高血圧です。

感染後の急性糸球体腎炎でもっとも怖いのは、むくみや乏尿よりも、この「高血圧」です。
(うっ血性心不全からの呼吸障害も怖いですけれど、それよりも私は高血圧性脳症のほうが頻度・介入の難しさから厄介だと感じます)

ネルソン小児科学によると、高血圧は感染後の急性糸球体腎炎のうちの60%にみられるとされます。
ですが、私が経験した急性糸球体腎炎では、高血圧は100%ありました。
(おそらく、見逃されてしまっている軽症例があるのでしょう)

そのうち10%が高血圧性脳症になると言われています。

この高血圧性脳症(MRI所見も併せて、通称PRESと言います)が本当に怖いのです。

高血圧性脳症は、霧視(ものがかすんで見えます)、重度の頭痛、精神状態の変化、けいれんなどを起こします。
MRIではT2強調で可逆性後白質脳症症候群を認めます。

頭痛が症状として大事でしょう。
しっかり血圧を下げてあげないと、最悪けいれんしてしまいます。
こうなると、いわゆる高血圧性脳症として、予後は悪くなってしまいます。

糸球体腎炎の管理は、血圧をしっかりコントロールして、高血圧性脳症を起こさないための管理と言えるでしょう。

乏尿

血尿の項目で、「糸球体とは血液のろ過装置」と書きました。
コーヒーでいうところの、フィルターの異常だと書きました。

フィルターに穴が空けば、そこからコーヒー粉がこぼれてしまいます。
それが血尿です。
糸球体に空いた穴から、赤血球がこぼれています。

いっぽうで、ろ過装置の異常とは、穴が空くだけではありません。
フィルターの網の目が詰まってしまう異常もあります。

もしコーヒーのフィルターが目詰まりしたらどうなるでしょう。

お湯を注いで、いつまで経っても、コーヒーが出てきません。

糸球体腎炎でも同じことが起きます。
糸球体の網の目が目詰まりすると、血液がこしとられず、尿が作られないのです。

尿が作られないと、体の中にいっぱい水がたまってしまいます。
そうなると体がむくみ、血圧も上がります。

糸球体腎炎は、部分的には穴が空いていて血尿となり、部分的には目詰まりして乏尿になるという病気なのです。

その他の症状

体に水がたまりすぎて、心臓に負担がかかることがあります。
うっ血性心不全です。

呼吸音の減弱、ラ音、低酸素血症、ギャロップ音などが見られます。
胸部レントゲン検査がうっ血性心不全の評価に有用です。
(個人的にもそう思いますし、ネルソン小児科学にもそう書いてあります)

感染後糸球体腎炎(急性糸球体腎炎)の診断

3つのステップで診断に至ります。

  1. 尿検査と症状で疑う
  2. 補体、抗核抗体、ASO、溶連菌抗原を調べる。
  3. 感染後糸球体腎炎以外の疾患が想定されたときは腎生検。

尿検査と症状で疑う

まずは尿検査と症状で疑います。

血尿があることは必須です。
(テステープによる簡易検査はスクリーニングとして大事ですが、陽性だったときは尿沈渣で実際に尿中の赤血球を観察するのが大事です。破砕赤血球や変形赤血球という情報も得られますし、もし赤血球が尿中になければヘモグロビン尿・ミオグロビン尿ということになりますので、強い運動をしていないか、血管内溶血がないかを念頭に置きます)

血尿単独であれば、無症候性血尿として経過観察になるでしょう。

血尿に加え、高血圧や浮腫(むくみ)があれば、急性腎炎症候群です。

感染後の急性糸球体腎炎は「急性腎炎症候群」の一種です。
「急性腎炎症候群」には、急性糸球体腎炎の他に、IgA腎症、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎などが含まれます。

補体、抗核抗体、ASO、溶連菌抗原を調べる

次に行う検査は、本当に「感染後の糸球体腎炎」なのかどうかを見極めることです。

補体、抗核抗体、ASO、溶連菌抗原は、「溶連菌感染後糸球体腎炎」なのかどうかを判断するのに有効です。

感染後糸球体腎炎以外の疾患が想定されたときは腎生検

血液検査で「補体(C3やCH50)」や「抗核抗体」を調べてみます。

抗核抗体が陽性であれば、ループス腎炎かもしれません。
補体が下がっていない場合も、IgA腎症をはじめとする慢性腎炎かもしれません。

こういうときは腎生検をして、診断を確定させるすべきでしょう。

補体が低ければ、まずは感染後の糸球体腎炎と考えられます。
「ASO」が高値であったり、咽頭の溶連菌抗原が陽性だったりすれば、さらに感染後の糸球体腎炎だと考えられます。

あとは、 感染後糸球体腎炎として治療し、経過が思わしくないときは膜性増殖性糸球体腎炎を疑って腎生検をします。

腎生検の基準は具体的には以下になります。

  • 2週間で蛋白尿が改善傾向にない。(完全に消失する必要はない)
  • ネフローゼ症候群に至る。
  • 補体低値が2か月以上続く。

ネルソン小児科学には腎生検の適応として「溶連菌感染の証拠の欠如」も腎生検の適応にしていますが、溶連菌感染後糸球体腎炎のうちASOが上昇するのは70%にとどまり、溶連菌感染の証拠をつかまえられないことも多いです。

溶連菌の証拠がなかっただけでは、腎生検にはしません。

腎生検はやはり大量出血のリスクがあり、リスクのある検査に位置づけられます。
しなくていいのなら、回避すべきでしょう。

急性腎炎症候群のほとんどが「溶連菌感染後の糸球体腎炎」ですから、まずは保存的に治療し、膜性増殖性糸球体腎炎が疑われる経過の場合には腎生検をするというスタンスがよいでしょう。

感染後糸球体腎炎(急性糸球体腎炎)の治療

血圧をしっかり管理しておけば、そのうち治ります。
ただ、2-3日では治りません。
4週間くらいの入院を覚悟しましょう。

血圧を安定させるために、水分制限、塩分制限、利尿薬、降圧薬、安静などの治療がされます。

腎機能の低下でカリウムが増加することもありますので、カリウム制限食(漬物や生野菜、果物を食べさせない)をすることもあります。

のどから溶連菌が検出されたら、一応抗生剤で除菌します。
しかし、抗菌薬投与は糸球体腎炎の予防にも治療にもならないことが知られています。

95%以上が完全に回復します。

いっぽうでネルソン小児科が国よると、2%未満が慢性腎疾患になるとされています。

血圧が安定するまで約4週間入院します。
血圧が安定すれば退院します。

2%未満と頻度は少ないですが慢性腎疾患の報告がありますので、退院後も血尿がなくなるまで約6か月間フォローが必要です。

まとめ

急性糸球体腎炎の症状と診断、治療について書きました。

私は感染後糸球体腎炎を今まで5人診ましたが、やはり一番最初の気づきは「むくみ」であることがほとんどです。
むくむ場所は、足であることもありますが、多くの場合は「顔や目の周りなどのむくみ」です。
私が経験した5人の経過をここに書きます。

急性糸球体腎炎の様々な経過を5つ紹介。

2017.04.04

溶連菌後の尿検査でたまたま見つけた無症候性の糸球体腎炎は見たことがありません。
血尿を主訴に受診した急性糸球体腎炎も見たことがありません。

それほど多い疾患ではありませんが、子どもの顔がむくんできたときは、小児科にご相談ください。
おしっこの検査は痛みもないですし、排尿が自立している子どもなら気軽にできます。