誰も理解してくれない!起立性調節障害に潜む4つの闇。

起立性調節障害という病気をご存知でしょうか。

「朝しんどくて起きられない……」

「頭が痛くて、吐き気もして、ご飯も食べられない……」

「立ち上がるとめまいがして、気を失いそうになる……」

症状は朝に強く、夕方から夜にかけてよくなってくることが多いです。
夜はむしろ興奮してしまい、全然眠くなりません。
眠れないので、テレビを見たり、インターネットをしたりして時間を潰します。
そして、朝になるとまた体調が悪くなります。

これが典型的な起立性調節障害です。
この病気の詳しい説明は起立性調節障害Support Groupを参照ください。
私が(勝手に)敬愛している田中英高先生が監修しているサイトですので、情報の信頼性は非常に高いです。

今回は、起立性調節障害を診療しながら、私がつねづね感じていることを書きます。

起立性調節障害にまつわる風評

風評被害。
誤った情報で何らかの被害を受けることです。

平成12年度の調べではありますが、起立性調節障害については、中学生男子の15%、中学生女子の25%がこの疾患にかかっていると言われています。
罹患者はとても多いのです。
ですが、一部の人(学校の先生や家族)に正しく認知されていないように思います。

  • 朝はしんどい?朝はみんなしんどいんだ。甘えるな。
  • 朝起きられないのは、心が弱い証拠です。これだからゆとり教育は……。
  • 学校を休んで、家で漫画を読んでるらしい。怠け病だな。
  • 夜は元気なんでしょう?仮病じゃないの?
  • 私も中学生のとき起立性調節障害だったけど、気合で治った。
  • 要するに根性なし。根性で起きて、根性でご飯食べて、根性で学校に行け。
  • うつ病じゃない?精神科行ったほうがいいですよ。
  • 反抗期をこじらせているだけ。家庭の問題じゃないのか?
  • 夜更かしするから朝起きられないんだ。テレビもゲームも漫画も没収だ。

以上の誤解が、本当に多いです。
起立性調節障害の子どもは、根性なしでも心が弱いわけでもありません。
決して怠けているわけではありません。
本当は学校に行きたいけれど、病気のせいでどうしても行けないのです。

解けない誤解

起立性調節障害の治療は、まずこの誤解を解くところから始まります。

長い時間をかけてお話していく中で、子どものお母さんは理解してくれるようになります。
起立性調節障害は家族性があり、お父さんかお母さんが同様の症状であることが多いのです。
「私も中学生の頃そうだった」というお母さんは、大抵子どもの苦しさを分かってくれます。

ですが、たまたま偶然なのかもしれませんし、地域柄なのかもしれませんが、どうも学校の先生の理解が得られません。

  • 「気合で治せ!」と毎日朝7時に電話してくる熱血体育教師。
  • 「学校に来ない根性なしはロクな大人になれません」と欠席を責める学年主任。
  • 「今日も遅刻です。遅刻ばかりして恥ずかしくないの?」と呆れる担任。
  • 「保健室はキミのベッドじゃないんだけど」とうんざりな養護教諭。
  • 「不登校はこの学校では責任とれないので転校してください」とすまし顔の校長。

本当に多いんです。

私は重症な起立性調節障害を診るときは、必ず学校の担任と学年主任と養護教諭の先生のうち2人以上と面談するようにしています。
病気の説明をします。
心の病気じゃないんです、心臓の病気なんですと説明します。
この子どもは重い心臓の病気なので、学校に行けないことがありますと説明します。
体育は実習ではなくレポートなどで代替してくださいとお願いします。
長時間立つような朝礼、音楽の授業などは座れるように配慮をお願いします。

それでも「もう少し気合を出せば、学校に来れると思うんですが……」とお考えになる学校の先生が一部います。
中には「欠席が続くと、卒業させません!」と子どもを脅迫しだす先生までいます。
そんなことされたら、子どもは学校が嫌いになります。

学校が嫌いになった子どもは、不登校になります。
ここでいう不登校とは、学校を長期に休むことではなく、「学校に行くことが精神的にとてもつらいと強く感じること」です。
起立性調節障害が原因で不登校になることを「二次障害」といいます。
不登校になってしまったときは、こちらの記事も参考にしてください。

不登校の対応。小児心身医学会ガイドラインによる家庭と学校の役割。

2017年2月13日
二次障害を起こしてしまうと厄介で、2~3年して起立性調節障害が完治しても、学校には二度と行けなくなってしまいます。

またお母さんは理解してくれてもお父さんが理解してくれなかったり、同居している祖父がかんかんに怒ったりするケースもあります。

どうして、起立性調節障害はなかなか理解してもらえないのでしょうか。

起立性調節障害に潜む闇

起立性調節障害は、周囲に理解されにくい要素を持っています。
この誤解されやすい性質を「闇」という言葉で私は表現します。
起立性調節障害は4つの闇を持ちます。

夕方は元気だという闇

朝から夜まで1日中しんどそうにしているなら、起立性調節障害がここまで誤解されることはなかったでしょう。

この病気の特徴は、朝はしんどそうでも、夕方になると元気になることです。
夜はむしろハイテンションで、テレビを見てゲラゲラ笑っています。
夜更かしもします。
そして、朝にはしんどうそうになっています。

この様子を見れば、「夜更かしするから朝起きられないんだ!」とか「朝しんどそうなのは学校に行きたくないだけで、仮病じゃないのか!」とか言いたくなる気持ちは分かります。

1日のうちに、元気な時間(むしろ過興奮の時間)があるのが、起立性調節障害が誤解されてしまう原因なのでしょう。

自律神経の病気という闇

「自律神経の……」という表現は、極めて非科学的な表現です。
はっきりとした身体の異常はないが、どうも調子が悪くなるとき、「自律神経失調」という便利な言葉で片づけられがちだからです。

死に至る病気でないことも、この病気が軽んじられる原因です。
また、精神的なストレスの影響を受けやすいのもこの病気の特徴です。

したがって、起立性調節障害は「特に体に原因がなく、ストレスで悪化する、危険のない病気」と評価され、その結果「根性で治せるのでは?」という誤解を招くのです。

私は「自律神経の病気」と学校の先生に説明すると、大抵誤解されてしまうので、「起立性調節障害は心臓の病気です」と説明しています。
実際に治療薬も循環器疾患の薬を使いますので、心臓の病気という認識で正しいと思っています。

軽症が多いという闇

中学生の約20%がこの起立性調節障害だと言われます。
ですが、そのうちの90%以上が軽症です。
軽症の起立性調節障害は、朝はしんどいですが、なんとか起きられ、しんどいながらも学校に行けるのです。

そういう軽症の経験をしたことがある大人や、そういう軽症を見たことがある大人は「起立性調節障害は根性でなんとかなる」と考えてしまいます。
そして、なんとかならない子どもをみると「根性なしだ」と決めつけるのです。

重症の起立性調節障害は、ヘッドアップティルト試験という、臥位から頭を起こすテストをすると、失神することがあります。
脳血流が途絶して、意識を失うのです。
失神するほどの重症な循環障害が「根性で治る」と本当にお考えなのでしょうか。

起立性調節障害にも様々な重症度があるというところが、誤解されやすい原因となっています。

薬物療法でもすぐには軽快しない闇

病気であれば、薬で治ると多くの人が考えています。
起立性調節障害も、病院で薬をもらえばすぐに治るはずと考えている人がいます。
この病気が、薬であっという間に治って、すぐに学校に行けるようになっていれば、ここまで誤解されることはなかったでしょう。

残念ながら、重症な起立性調節障害は半年や1年では治りません。
2年、3年と月日が必要となります。
季節によってよくなってり、悪くなったりという変動もあります。

通院して半年たっても学校に来ないということは、やはり精神的な病気で、学校に行きたくないと甘えてるだけのでは、と考えられてしまいます。
もしくは、病気じゃなくて、不登校なのでは?と誤解されてしまいます。

治るのに時間がかかるというところが、誤解につながっています。

まとめ

私は、この病気を診ていて、とても辛い思いをします。
子どもは必死に病気と戦っているのに、子どものその頑張りを全く理解しようとしない人たちをたくさん見ているからです。

この病気のせいで3か月学校を休み、久しぶりになんとか頑張って3時間目から学校に行ったのに、「遅刻ですよ」と言った担任の先生もいます。
もちろん、その子どもは次の日からまた学校に行けなくなりました。

起立性調節障害サポートグループのホームページの資料や新聞記事をそろえたものをセットにして、学校が変わるたびに先生に見せています。起立性調節障害の場合、親にも”学校と闘う”くらいの気持ちが絶対に必要です。学校はなかなか分かってくれませんから。

ある患者さんの母親の言葉
田中英高著「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」

学校と闘わなければならないという状況は、非常に悲しいものです。
ですが、学校を責めてはいけないと思います。
彼らがこの病気を誤解してしまうのは、私たち小児科医のせいだからです。

起立性調節障害は、治るのに2~3年かかりますが、必ず治ります。
大切なことは、「治ったときに、元気に通える学校があること」です。
二次障害を起こさないことが大切です。
二次障害を起こして不登校になってしまうと、学校に行きたくなくなります。
病気がたとえ治っても、学校に行くことが精神的につらいのです。

起立性調節障害に対する誤解は、二次障害を加速させます。
ですから、起立性調節障害の治療の第一歩は、家庭にも学校にも、この病気のことを正しく知ってもらうことです。

子どもが被害を受けないように、我々は正しい知識を広めていかなければなりません。
そして、親と病院と学校とが三位一体となって協力して子どもを支えていくことが理想です。

なお、私はアレルギー専門医を目指していますが、起立性調節障害にもとても興味を持っています。
というのは、起立性調節障害の外来と、アレルギー外来では、共通する立ち振る舞いがあるように感じるからです。

起立性調節障害とアレルギーに共通する意外な7項目。

2017年2月10日
こちらの記事に、両者の共通点を書いていますので、よろしければ一読ください。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。