百日咳の検査。小児呼吸器感染症ガイドライン2017と百日咳LAMP法。

2016年11月に、百日咳LAMP検査が保険診療で可能になりました。
それに伴って、小児呼吸器感染症ガイドライン2017で、百日咳の診断方法が変更されました。

今回は百日咳診断の変更点と、それによって臨床の現場がどう変わるかを書きます。

百日咳LAMP法の保険適応

2016年11月1日から、「百日咳菌核酸検出」が保険点数360点で収載されました。

保険適応は「本検査は、関連学会が定めるガイドラインの百日咳診断基準における臨床診断例の定義を満たす患者に対して、LAMP法により測定した場合に算定できる」とあります。

関連学会が定めるガイドラインは、2017年3月時点での最新版は小児呼吸器感染症ガイドライン2017です。

臨床診断例の定義は以下となります。

  1. 咳がある(1歳未満では期間の限定はなし。1歳以上では1週間以上)。
  2. 吸気性笛声(息を吸う時に笛のようなヒューという音が出る:whooping)。
  3. 発作性の連続性の咳き込み(スタッカート様咳嗽)。
  4. 咳き込み後の嘔吐。
  5. 無呼吸発作(チアノーゼの有無は問わない)。

1があり、かつ2~5のうちの1つがあれば、百日咳の臨床診断となります。
つまり、百日咳LAMP検査の保険適応となります。

乳児が咳き込み嘔吐するだけで臨床的百日咳となるため、小児呼吸器感染症ガイドライン2017の臨床診断は非常に緩くなったといえます。

これは、早期診断・早期治療のために、ほんの少しでも疑わしい場合には積極的に百日咳LAMP検査ができるように配慮されたためです。

百日咳菌検出試薬キット

Loopamp®百日咳菌検出試薬キットDは2015年12月21日から販売されていました。
2016年11月1日に保険収載され、使用しやすくなりました。

添付文書に記載されている、Loopamp®の成績を引用します。

Loopamp®陰性・臨床診断陽性の13例のうち7例は、発症から4週間以上経過して検体中の菌量が極めて少量であったと考えられています。
したがって、発症から4週間以内に検査をすれば、感度は大きく上昇すると考えられます。

柔らかい綿が付いたスワブを後鼻腔まで挿入し、10秒間留置して採取します。
血液検査ではありませんので、採血が難しい子どもでも簡単に検査することができます。

検査時間はたったの1時間です。
外注機関に依頼しても、3日で結果が出ます。

百日咳LAMP法Loopamp®で現場はどう変わるか

今まで、百日咳の診断は百日咳毒素(PT)に対する抗体を測定するのが一般的でした。
しかしPT抗体は少なくても発症から2週間以上経過しないと陽性になりません。
そして検査結果が出るには約1週間かかりました。
さらに、四種混合ワクチンの影響を受けるため、検査結果を信頼するには、2週間空けて2回検査する必要がありました。

2016年10月までの百日咳診断の難しさについてはこの記事を参考にしてください。
このときは早期診断・早期治療ができませんでしたので、「予防が大切だ」という結論で終わっています。

百日咳の4つのステージ。新ガイドラインによる百日咳診断の変遷。

2017年1月13日

しかし、百日咳LAMP検査によって、この診療スタイルは大きく変わりました。

早期診断が可能になった

発症から4週間以内であれば、Loopamp®は非常に高い感度・特異度を持ちます。
PT抗体とは違って、発症2週間以内では偽陰性(本当は百日咳なのに、検査結果が陰性と出ること)に悩まされません。
検査結果も3日で出ますので、すぐに治療に移れます。
(または、検査結果が出るまでは治療しておき、検査結果陰性を受けて治療を中止するという流れのほうが妥当でしょう)
四種混合ワクチンの影響もありません。

百日咳LAMP検査によって、早期診断・早期治療が可能になったのです。

これを受けて、ガイドラインが変わりました。
小児呼吸器感染症ガイドライン2017では、今まで咳の長さを「2週間以上」としていましたが、LAMP検査の登場によって「1歳未満は咳の期間に制限なし」、「1歳以上は咳の期間は1週間以上」に短縮されました。

この変更は、百日咳LAMP検査によって、百日咳の早期診断が可能になったためです。

早期診断できれば、早期治療ができます。
百日咳はカタル期と呼ばれる発症から2週間以内のときに治療できれば、百日咳毒素の増加を抑えられ、症状の期間が減るのではないかと言われています。
百日咳は百日咳毒素が体中に増えてしまうともう治療ができませんので、早期診断・治療が大切です。

発症早期の百日咳患者の確実な診断と早期治療が日常診療で可能になった。

福岡歯科大学総合医学講座小児科学分野教授 岡田賢司

小児呼吸器感染症ガイドライン2017を紹介しておきます。
小児科医であれば一読をお勧めします。

おとなの百日咳も診断しやすくなった

百日咳はおとなでもかかります。
おとなの百日咳はあまり重症化しませんが、逆に言うと重症化しないため、百日咳を疑われず、治療もされないため、百日咳菌をいろいろな人にうつしてしまいます。

四種混合ワクチンで子どもに百日咳の抗体を備えさせても、なかなか子どもの百日咳が減らないのは、おとなが百日咳を蔓延させているからだという説もあります。

今回、百日咳LAMP法の登場と、ガイドラインに変更によって、1週間以上の咳と発作性の連続性の咳き込みがあれば百日咳LAMP検査を受けることができます。
百日咳LAMP検査によって、おとなの百日咳も早期に診断できるようになり、早期に治療することで、子どもに百日咳がうつるのを防げるかもしれません。

まとめ

  • 小児呼吸器感染症ガイドライン2017では、百日咳の臨床診断は非常に緩くなった。
  • 百日咳LAMP法は早期診断につながり、百日咳の予後を大きく変える可能性がある。
  • おとなの百日咳も百日咳LAMPによって診断しやすくなり、おとなも適切に治療されることで百日咳の蔓延を抑えられる可能性がある。

2016年10月までの古い基準で百日咳を診断していたときの百日咳の症例はここに書きました。
小児呼吸器感染症ガイドライン2017によって、早期診断・早期治療ができたかもしれない症例です。

百日咳の症例提示。乳児のしつこい咳と百日咳を疑う4つの症状。

2017年1月12日

百日咳LAMP法の登場によって、百日咳の病態がもっと明らかになるはずです。
これをきっかけに、百日咳ワクチンのおとなへの接種なども検討され、百日咳撲滅へ向かうといいなあと思いました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。