小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017の変更点から見る医学の進歩。

医学は日進月歩です。

新しい検査法や、新しい抗生剤が開発され、細菌の抗生剤耐性株の比率も変化し、そのたびにガイドラインが変更されます。

今回は、小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017の変更点を書きます。
そして、そこから見える医学の進歩についても触れます。

小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017の変更点

おおざっぱに書いてしまうと、変更点は3つあります。

肺炎に対する合成ペニシリン(サワシリン、パセトシン、ビクシリン)が大きく見直され、治療の第1選択になりました。
それにともなって、メイアクトやフロモックスのような経口セフェムの立ち位置が後退しました。
マイコプラズマ肺炎については、変わっていません。

百日咳の診療が大きく変わりました。

Mindsというガイドライン作成手引きに沿った、新しい形になりました。

Mindsに関しては別記事にするとして、残りの2つについて、細かく見ていきます。

細菌性肺炎に対する経口抗生剤の変更

軽症の細菌性肺炎に対する経口抗菌薬の第一選択がAMPCになりました。

小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011では経口セフェムも第一選択でした。
しかし、以下の4点を理由に、経口セフェムは第2選択薬になりました。

  • 経口セフェムは意外と血中濃度が上昇しない。
  • AMPCはCFPN-PIやCDTR-PIと有効性に差がない。
  • 肺炎球菌ワクチンのおかげで、ペニシリン耐性肺炎球菌は減少している。
  • 効果が同じなら、狭域抗生剤のほうが耐性株を作りにくい。

BLNARを想定するなら第2選択薬である経口セフェムもよいですが、その場合もガイドラインで推奨されているのは広域セフェム増量投与です。
通常量の広域セフェムは、ガイドラインから姿を消しました。

分かりやすく言うなら、「細菌性肺炎を外来で治療するなら、サワシリンやパセトシンを処方するように」というようになりました。
メイアクトやフロモックスを出す機会が減ったと私は感じました。

なお、サワシリンやパセトシンが無効であった場合は、マイコプラズマをカバーするか、BLNARを狙ってTBPM-PIやTFLXを推奨しています。

細菌性肺炎に対する注射抗生剤の変更

中等症の細菌性肺炎に対する注射抗菌薬の第一選択がABPCになりました。

ABPC/SBTや注射セフェム(CTXやCTRX)は第2選択薬となりました。

この理由も、先ほどサワシリンやパセトシンが第一選択となったのと同じです。

スルバシリン(ユナシン)やセフォタックス(クラフォラン)を使う機会はぐっと減るのではないでしょうか。
代わりに、ビクシリンをよく使うようになるでしょう。

ビクシリンが効かなかったときに、スルバシリン(ユナシン)やセフォタックス(クラフォラン)を使うというのが、ガイドラインでは推奨されています。

マイコプラズマ肺炎に対する変更

「ガイドライン2017」の刊行にあたり、というページの中に、マイコプラズマ肺炎のことがありましたので、何が変わったのかを考えていたのですが、結局第1選択薬はマクロライド系抗菌薬ということです。

ガイドライン2011と変わっていません。

ですが、2013年をピークに、マクロライド耐性マイコプラズマは減っているようです。
ガイドラインには書かれていませんが、よりいっそうマクロライドでの治療を第1にしましょうというメッセージを暗に感じさせる文章でした。

百日咳の診断に関する変更

百日咳LAMP法のおかげで、百日咳の診断が大きく変わりました。
詳しくは、こちらの記事を読んでください。

百日咳の検査。小児呼吸器感染症ガイドライン2017と百日咳LAMP法。

2017年3月7日
百日咳の診断が大きく変わったことで、治療スタイルも変わりました。
ある意味、この変更こそ小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017の最大のウリといっても過言ではありません。

医学の進歩について

2016年11月に小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017が刊行され、まだ4か月しかたっていない状況ですが、もう新たに変わってしまったこともあります。

たとえば、126ページにインフルエンザに対するタミフルの使用が書いてあります。
生後12か月未満には保健適応外となっていますが、現在は保健適応があります。
詳しくはこちらの記事に書きました。

タミフルが1歳未満で使用可能に!臨床現場で何が変わる?

2017年1月19日

また、75ページにはニューキノロン系に関しては肺炎マイコプラズマは適応菌種に含まれていないとありますが、現在は含まれています。
これもこちらの記事に書きました。

肺炎マイコプラズマにおけるオゼックスの適応拡大。現場はどう変わる?

2017年3月11日

新しいガイドラインが出るということは、それだけ医学が進歩したということですから、とても喜ばしいです。
ですが、出たばかりのガイドラインがもうすでに古いものになっていってしまうのは、勉強する側としてはとても大変です。

最新の医療を提供する難しさをひしひしと痛感します。

まとめ

時間は流れるので、現在は現在のままではいられません。
現在はあっという間に過去になります。

さわることはできない。
つかまえられもしない。
においみたいなものかな?
でも時間て、ちっともとまってないで、動いていく。
すると、どこからかやってくるにちがいない。
風みたいなものかしら?
いや、ちがう!
そうだ、わかった!
一種の音楽なのよ。
いつでもひびいているから、人間がとりたてて聞きもしない音楽。
でもあたしは、ときどき聞いていたような気がする。
とってもしずかな音楽よ。

ミヒャエル・エンデ
モモ

知識を更新するのは大変です。

ですが、医療が進歩するのも、医者が知識を更新するのも、音楽が流れるように、とても自然にできてこそ、プロフェッショナルな医者だと思いました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。