よく分かる川崎病。3歳児の典型的な経過。

2018年4月3日、補足を加えました。

注意事項:個人情報保護の観点から、この記事の症例提示は架空のものとなっております。ここに登場する患者の名前・年齢・性別・検査データ・臨床所見などは、科学的な矛盾が生じないように配慮されつつ、すべて架空のデータであることをご了承ください。

川崎病の具体的な症例提示。

たかし君は3歳の男の子です。

発熱1日目

ある日、39度の熱が出たため、近くの小児科を受診しました。

小児科専門医
「のどが少し赤いです。おそらくかぜでしょう。2日後に熱が下がらなければ来てくださいね」

小児科の先生にそう言われ、解熱薬を処方されました。

小児科専門医からのワンポイント

発熱初日に正しい診断を下すのはとても難しいことです。肺炎であろうとも、川崎病であろうとも、発熱初日の段階では熱以外の所見がまだ揃っていないことが多いからです。今回、小児科医は「かぜ」と診断していますが、これは考えられる病気の中でもっとも確率が高いのは「かぜ」と言っているのであって、決して誤診をしたわけではありません。そもそも発熱初日で川崎病を診断することはできません。

一般的に、病気を後から診た医者のほうが正しい診断ができます。これを「後医は名医」といいます。これについては、こちらの記事に書きました。

医療現場の格言・名言。「後医は名医」という言葉を知っていますか?

2018年4月3日

 

発熱3日目に首が腫れる

2日たちましたが、たかし君の熱は下がりません。
なんとか水分は摂れていますが、機嫌が悪く、夜もなかなか眠れません。
左の首が腫れてきて、痛そうです。

先生に言われた通り、小児科を受診しました。

小児科専門医
「今日で熱が3日目ですね。左首が腫れています。唇も赤く、舌も赤くてざらざらしています。これは苺舌といって、溶連菌感染や川崎病で見られる所見です。また首が腫れる病気として化膿性リンパ節炎も考えられます。溶連菌の検査と、血液検査をしてみましょう」

のどに綿棒をこすって溶連菌を検査します。
結果は陰性でした。
採血検査では、白血球が16000、CRPが7.0と言われました。

小児科専門医
「溶連菌ではなさそうですが、炎症反応が高いです。化膿性リンパ節炎かもしれませんが、これから川崎病の所見が出てくるかもしれません。どちらにせよ、入院が適切でしょう」

小児科の先生は紹介状を書いてくれました。

小児科専門医からのワンポイント
CRPは炎症反応を表すとても便利なマーカーです。感染症においてはCRP3以下はウイルス性の疾患またはマイコプラズマやクラミジアなどを疑います。CRP5以上は細菌性の疾患またはアデノウイルスを疑わせます。川崎病は原因が感染であってもなくてもCRPが5以上になることが多いです。ただし、CRPがそれほど上昇しない川崎病もあり、CRPだけで判断するのは危険です。

紹介状を持って、大きな病院を受診しました。

主治医
化膿性リンパ節炎であれば抗生剤で熱が下がります。川崎病では熱は下がりません。まずは点滴の抗生剤をしっかりやって、たかし君が元気になるか見てみましょう。もし熱が下がらずに、むしろ川崎病の所見が表れてくるときは、すぐに川崎病の治療に切り替えます。どちらの病気であってもたかし君は必ず元気になるから安心してください」

発熱5日目に川崎病と診断

さらに2日たちました。
熱は下がらず、首は大きく腫れたままです。
目がうっすら赤くなり、背中に赤い発疹が出てきました。
血液検査を再度受け、白血球18000、好中球75%、AST55、血小板26万、CRP7.5でした。

主治医
「熱は高く、依然として炎症反応も高いです。苺舌もありますし、指も少し赤く張っていますね。抗生剤も効いていませんし、これは川崎病でしょう。すぐに川崎病の治療をしますね」
お母さん
「川崎病って治るんですか?」
主治医
「心配はごもっともです。川崎病の目標は、後遺症を残すことなく体の炎症を鎮めることです。そのための治療法というのがいくつもあります」

先生は、川崎病のこと、川崎病には心臓の血管にこぶができるという後遺症があること、すぐに治療を開始すれば後遺症が残る確率は3%未満であること、治療の根幹はガンマグロブリンという血液製剤であること、もしガンマグロブリンが効かなくても第2の手、第3の手があるということを丁寧に説明してくれました。

小児科専門医からのワンポイント
川崎病の治療および予後については、こちらの記事を参照してください。

川崎病を150人診た経験から診断、治療、予後を語る。

2017年1月4日

 

後遺症

お母さん
「後遺症が怖いです」

お母さんは主治医先生に不安を打ち明けました。

主治医
「後遺症は3%と言いましたが、たかしくんは血液検査の結果、おそらくガンマグロブリンがよく効きそうです。早く治れば、それだけ後遺症は残りにくいものです。今は心配ですが、きっと後遺症なく治ると思いますよ」

先生は落ち着いて説明してくれました。
おかげで、お母さんの不安は少し軽くなりました。

川崎病の治療

この日、たかし君にはガンマグロブリンの点滴がされ、アスピリンというお薬を飲み始めました。
翌日には熱が下がりました。
心臓のエコーを3日おきに受けましたが、心臓の血管にこぶはないようです。
入院8日目に元気に退院となりました。

退院後

退院後は減量したアスピリンを60日間飲むようです。
アスピリンはインフルエンザと水痘に相性が悪いそうです。
たかし君は水痘の予防接種は終わっていたので、水痘は心配しなくていいと言われました。

主治医
「インフルエンザはかかるかもしれないので、もし熱が37.5度以上あるときは、しっかり熱が下がるまではアスピリンは中止してくださいね。では、1か月後の心エコー検査でお会いしましょう」
お母さん
「分かりました!」
小児科専門医からのワンポイント
インフルエンザまたは水痘にかかっているときにアスピリンを飲むと、ライ症候群という脳症と肝障害を起こす病気になりやすくなると言われています。しかし、ほとんどのインフルエンザ患者はアスピリンを飲んでも問題ないのも事実です。アスピリンを飲んでいるときに熱が出たらアスピリンをいったん中止させるのは、「念のため」という意味で、間違って飲んでしまっても心配する必要はありません。

1か月後、3か月後、6か月後、1年後、2年後、3年後、4年後、5年後に心エコー検査があるようです。

最後に、川崎病カードをもらいました。
母子手帳に挟んでいます。
運動・食事にいっさいの制限はありません。
たかし君は翌日から元気に保育園に行きました。

症例のまとめ

  • たかし君は発熱5日目で川崎病と診断された。
  • ガンマグロブリンの点滴で、すぐに元気になった。
  • 後遺症として、心臓の血管にこぶができることがある。
  • 退院後は5年間心エコー検査があが、日常生活に制限はない。

補足

川崎病は発熱5日目頃から症状がそろい始めます。
逆に言うと、発熱4日目までに診断されることは稀です。

川崎病全国調査では、第5病日(発熱した日を第1病日とします)に川崎病と診断されて、ガンマグロブリン治療を行われるケースがもっとも多いことが分かっています。
(第5病日は正確に言うと発熱からまだ5日たっていませんが、治療によって解熱した場合も主要症状に加えてよいとされています)

ガンマグロブリンが無効な場合は、ステロイドや免疫抑制剤、血漿交換など他の治療もあります。

心臓にこぶができることを「冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)」といいます。
冠動脈瘤があると、将来の心筋梗塞のリスクが増します。
冠動脈瘤ができ、それが1か月以上残存する確率は3%と言われています。

不幸にも冠動脈瘤ができた場合は、予後を改善させるためのフォローが必要です。
冠動脈瘤ができだとしても「心筋梗塞でまもなく死んでしまう」とはなりませんので、できることをしっかりと継続して、お子さんを支えてあげましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。