母乳のほうがいいって本当?小児科専門医が母乳を推奨する理由。

母乳と粉ミルク、どちらのほうが赤ちゃんにとってよいのでしょうか。

おそらくほとんどのお母さんが、母乳のほうが赤ちゃんにはいいだろうと思ってるはずです。
厚生労働省の「平成17年度乳幼児栄養調査」でも、「粉ミルクで育てたい」と答えたお母さんは1%です。
43.1%のお母さんが「ぜひ母乳で育てたい」、52.9%のお母さんが「母乳が出れば母乳で育てたい」と考えています。

「母乳は赤ちゃんに有益です」とアメリカ小児科学会も日本小児科学会も推進しています。

では、どうして母乳が大切なのか、その理由を知っていますか?

「母乳のほうが赤ちゃんの免疫力が上がるんですよね?」

まさにその通りです。
ですが、母乳には他にも優れた点があるのはご存知でしょうか。
科学的根拠に基づいた母乳の利点を説明します。

母乳で育つとLDLコレステロールが減る

2004年のLANCET誌にBreastmilk feeding and lipoprotein profile in adolescents born preterm: follow-up of a prospective randomised study.という論文があります。

216人の早産児が、母乳で育てるか人工乳で育てるかランダムに分けられています。
13歳から16歳に採血してみると、母乳のほうがLDLコレステロールの割合が低いという結果でした。

母乳は長期にわたってコレステロールに影響を与えます。
もしかしたら母乳栄養のほうが動脈硬化を防げるかもしれません。

母乳で育つとIQが高い

2008年のArch Gen Psychiatry誌にBreastfeeding and child cognitive development: new evidence from a large randomized trial.という論文があります。

13889人の赤ちゃんが、「母乳育児を成功させるための10か条を守る産院」で生まれるか、「普通の産院」で生まれるかランダムに分けられます。

「母乳育児を成功させるための10か条を守る産院」で生まれた赤ちゃんは生後3か月の完全母乳率は43.3%、「普通の産院」で生まれた赤ちゃんは生後3か月の完全母乳率は6.4%でした。

「母乳育児を成功させるための10か条を守る産院」で生まれた子どものほうが、6.5歳のときの言語性IQが7.5、動作性IQが2.9、全IQが5.9と高く、特に読み書きが上手でした。

母乳で育てるとお母さんの2型糖尿病が減る

2005年のJAMAにDuration of lactation and incidence of type 2 diabetes.という論文があります。

83585人のお母さんを対象とした大規模な研究で、1年間授乳するごとにお母さんが2型糖尿病になる確率が15%減るという結果でした。

その他

赤ちゃんに、次の疾患を減らす可能性があります。

  • 乳幼児突然死症候群
  • 糖尿病
  • クローン病
  • 潰瘍性大腸炎
  • リンパ腫
  • 白血病
  • アレルギー疾患

お母さんに次の利点があります。

  • 子宮復古を速める
  • 月経による出血を減らす
  • 適正体重に戻りやすい
  • 分娩間隔が自然に広がる
  • 大体骨頚部骨折が減る
  • 卵巣がんと閉経後の乳がんが減る

母乳育児を成功させるにはどうすればいいか

ユニセフとWHOが「母乳育児を成功させるための10か条」という声明を出しています。

  1. 母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
  2. 全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
  3. 全ての妊婦に母乳育児の良い点とその方法を良く知らせること
  4. 母親が分娩後30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること
  5. 母親に授乳の指導を充分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母乳の分泌を維持する方法を教えてあげること
  6. 医学的な必要がないのに母乳以外のもの水分、糖水、人工乳を与えないこと
  7. 母子同室にすること。赤ちゃんと母親が1日中24時間、一緒にいられるようにすること
  8. 赤ちゃんが欲しがるときは、欲しがるままの授乳をすすめること
  9. 母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
  10. 母乳育児のための支援グル−プ作って援助し、退院する母親に、このようなグル−プを紹介すること

この10か条を推進する病院を「赤ちゃんにやさしい病院(baby friendly hospital:略してBFH)」といいます。
BFHの病院は日本母乳の会のサイトで調べられます。

分娩を予定している施設がBFHでなくても心配いりません。
すべての助産師、産科医、小児科医が母乳の大切さを知っています。

「できるだけ母乳で育てたいんです」と産院の先生に伝えてください。
その病院でできるだけの母乳育児支援をしてくれます。

ただし、母乳が簡単に出るお母さんならよいですが、なかなか出にくいお母さんもいます。
赤ちゃんがどうしても浅く乳首をくわえてしまって、乳首が切れてしまって血が出てしまうこともあります。

BFHは母乳育児の成功率を増やしますが、お母さんには少ししんどい・つらい経験をさせるかもしれません。
母乳育児に必要なのは「覚悟」です。
母乳のよさを理解しつつ、「ぜったい母乳でがんばるぞ!」という強い覚悟がないと成功しません。

BFHは赤ちゃんに優しい病院ですが、お母さんには厳しい病院です。

まとめ

母乳には子どもにもお母さんにもメリットがあります。
母乳育児を成功させるための10か条というものがあります。
母乳の利点を理解して、強い覚悟をもって、母乳育児をがんばりましょう。

補足

どうしても母乳が出ない場合や、低血糖や黄疸のためどうしても人工乳を使う必要がある場合もあるでしょう。

母乳のメリットが叫ばれすぎて、母乳育児がどうしてもできないお母さんを精神的に追い詰めるようなことになってはいないか、私はときどき心配になります。

母乳育児を成功させるための10か条の6つ目に「医学的な必要がないのに母乳以外のもの水分、糖水、人工乳を与えないこと」とあります。
これは裏を返せば、医学的な必要があれば粉ミルクをあげてよいということです。

母乳でLDLコレステロールが下がるとか、IQが高くなるとか、そういうのは「そうなった子が多かった」というだけであり、全員に当てはまるわけではありません。
母乳育児でもLDLコレステロールが高かったり、IQが低かったりします。
粉ミルクでもLDLコレステロールが低かったり、IQが高かったりします。

母乳不足のために1か月健診で赤ちゃんの体重が全然増えていない場合は、粉ミルクを併用しても私はよいと考えています。
赤ちゃんの栄養不良が続くことも、発達には悪影響だと思うからです。

母乳がどうしても出ない時は、気持ちを切り替えて、粉ミルクでも愛情をもって育てれば大丈夫と考えましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。