PFAPAにステロイド。発熱間隔が短縮するエビデンスは?

PFAPA。
毎月のように高熱が出るのが特徴で、小児科医であればおそらく全員が知っている病気です。

「周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頚部リンパ節炎症候群」とも言いますが、すごく長いので略してPFAPAと呼びます。
Periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis, and adenitisの頭文字ですね。
川崎病のことを「急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群」を略してMCLSと呼んだりします、それと似てます。

以前もPFAPAについては1回書いたんです。

PFAPA症候群と他の遺伝性自己炎症症候群を鑑別するスコア。

2018年5月15日
PFAPAにはガイドラインもあるし、1回書いたら十分だなーって思ったんです。
でも、ガイドラインがあるにも関わらず、よく分からないことがちょこちょこあるんです。

たとえば、PFAPAに対するステロイド投与。
発熱間隔が短縮するケースもあるとガイドラインには書かれていますが、その根拠は十分なのでしょうか。

今回は、PFAPAについて私が知りたいこと・分からないことをまとめておきます。

そもそも読み方が分からない

「ピーエフエーピーエー」と私は読んでました。
そのまんまです。

でも、別の医師は「ぷふぁぱ」と読んでました。
あまりに「ぷふぁぱぷふぁぱ」と連呼するので、横で「じゅげむじゅげむ」と対抗しました。
そのうち「ぷふぁぱぷふぁぱごこうのすりきれ」となってしまって、敗北しました。

「ぷふぁーぱ」と読んでいる医師もいました。
「魔封波魔封波」と対抗しましたけど、そのうち「フバーハ」というドラクエ呪文になってしまって、敗北しました。

今のところ、読み方分からない言葉ランキング1位だと思います。

頻度が分からない

PFAPAについて、日本小児リウマチ学会がとても分かりやすいガイドラインを出してくれているんです。
しかも、無料で読めるという優しさ。

でも困ったことに、頻度についてはガイドラインを読んでも分かりません。

周期性発熱症候群の中では最も頻度が高いと推定されるが、わが国における疫学は明らかになっていない。

自己炎症性疾患診療ガイドライン2017

「すごくありふれた疾患」ではないと思うんです。
内科の先生はPFAPAなんて知らないと思いますし。
私も、すべての医師が必ず知っておくべき疾患ではないと考え、「初期研修医は知らなくてもよい」小児科ファーストタッチに書きました。

実際にはどれくらいの頻度なのでしょうか。
たとえば、海外ではこんな報告があります。

Incidence, clinical characteristics and outcome in Norwegian children with periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and cervical adenitis syndrome; a population-based study. Acta Paediatr. 2013; 102: 187-92.

上記の論文によれば、ノルウェーでは1万人あたり2-3人の頻度だそうです。
でも私の体感としては、1/1000くらいのような。
年間600人出生の丹波市で、1-2年に1人のペースで診ますし。
ダウン症やクレチン症と同じくらいの頻度で診ますし。

小児科ファーストタッチを改定するとき、PFAPAを載せるかどうか少し迷ってます。

ステロイドの量が分からない

PFAPAの特徴として、0.5-1.0mg/kgのプレドニゾロンを1-2回投与すれば解熱するという点が挙げられます。

ちなみに、上記は日本のガイドライン量です。
Up to dateには1-2mg/kgのプレドニゾロンと記載されており、もし1mg/kgを選択して12-48時間後に再発熱した場合は、さらに1mg/kgを投与し、次の発熱発作のときは最初から2mg/kgを投与するようにアドバイスされています。

プレドニゾロンの量は0.5mg/kgがいいのか、2mg/kgがいいのかを検討した論文はあります。
Comparison of conventional and low dose steroid in the treatment of PFAPA syndrome: preliminary study. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2012; 76: 1588-90.
2mg/kg投与であれば、20人中20人解熱しました。
0.5mg/kg投与であれば、21人中19人解熱しました。
統計学的有意差はありませんでした。
でも、参加者数が少ないですよね、これ。
大規模研究が必要という結論で終わっていました。

大規模研究が存在しないためでしょうが、コクランレビューではPFAPAに対するステロイド投与の検討はされていません。(PFAPAに対する扁桃摘出の効果についてはコクランにあるんですけどね)

個人的な経験としては、ほとんどのケースで1mg/kgのプレドニゾロンで解熱しますが、稀に翌日再発熱するケースがあります。
だからといって、次の発熱発作時に1mg/kgを投与して、今度は再発熱しないことも多いので、2mg/kgにするメリットについては分かりません。

日本のガイドラインとUp to dateとで共通する1mg/kgあたりが無難なのかなと思います。

ステロイドで発熱間隔は短くなるのか

ステロイドを使うことで発熱発作がより頻繁になるのではないかという懸念があります。

発熱発作時の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)は発作を頓挫する効果があるとされているが、発作間隔が短縮する症例もある。

自己炎症性疾患診療ガイドライン2017

ただ、その根拠となった論文を読んでみると、印象は変わります。

発熱時にプレドニゾロンを使用されたPFAPA患者50人中25人が、発熱の頻度が7-14日短くなった。
患者の家族は、プレドニゾロンの投与によって発熱の周期がたとえば28日間隔から14-21日間隔になったと感じるかもしれない。
しかし我々の経験では、発熱時のステロイド対応を続けていれば、短くなった発熱間隔はまた元に戻る。

A clinical review of 105 patients with PFAPA (a periodic fever syndrome). Acta Paediatr. 2010; 99: 178-84.

私も、10例程度の経験で申し訳ありませんが、PFAPAに対してステロイド投与をすると、最初の数回ほどは発熱周期が短くなったような感じがするケースにときどき遭遇します。
でも、すぐに発熱間隔は開いていき、「ステロイド投与しないほうがよかった」と感じたケースは1度もありません。
50%の症例で本当に発熱間隔が短くなるのなら1/1024の確率で起きた幸運なのかもしれませんが。

元論文の著者らの印象、私の経験などを踏まえると「ステロイドでPFAPAの発熱がより頻繁になる」というのは、もしあっても一時的なのではないかと思います。

ちなみに、Up to dateでは、ステロイドの副作用は、落ち着きがなくなったり、夜眠れなくなったりすることが書かれていますが、発熱発作がより頻繁になるという記載はありません。
ステロイドによって発熱頻度がどうなるかについては、もう少し知見が必要なのでしょう。

まとめ

PFAPAのガイドラインを読んで、私がさらに知りたいことをまとめました。

  • なんと読めばいいですか?
  • 頻度はどうですか? 1万人に2-3人ですか? 実際はもっと多く感じます。
  • プレドニゾロンの量を0.5mg/kgとする根拠は十分ですか?
  • 「発作間隔が短縮する症例もある」という記載は適切ですか? 「発作間隔が一時的に短縮する症例もある」がより適切な印象です。

PFAPAはまだまだ知られていない点が多いわりに、比較的小児科医は遭遇しやすいので、研究のしがいがあるんじゃないかなと思いました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。