AHA心肺蘇生と救急心血管治療に関するガイドライン2020まとめ

アメリカ心臓協会(AHA)は最新の科学をもとに適切な救命処置法を提供しています。
その内容は5年ごとに改訂されています。

小児の二次救命処置で、2010年から2015年に変更された点はこちらにまとめました。

PALSプロバイダーマニュアル2015変更点まとめ。

2018年2月5日

2020年に新しい『心肺蘇生と救急心血管治療に関するガイドライン』が公開されました。
そのハイライトはこちらです。

今回は、2020年版ハイライト(主に子どもについて。おとなも少しだけ)をさらにまとめてみました。

一般市民(非医療従事者)はもっと積極的に救助を

心停止していない人に対して胸骨圧迫(心臓マッサージ)をしても、危害のリスクは低いことが分かりました。
したがって、「心停止しているかも」と思ったら、自信がなくても救急車を呼んで、人も呼んで、AED取ってきてもらって、そしてあなたは胸骨圧迫してください。

この変更は、心停止で人が倒れても、市民救助者が胸骨圧迫してくれたケースは 40 %未満だったためだと考えられます。
心配蘇生に不慣れな人でも、もっと胸骨圧迫をしやすくするために、「心停止じゃなかったとしても大丈夫だからね」というメッセージを送ってくれているのだと思います。

2020年版新しい推奨
患者が心停止していない場合は患者への危害のリスクは低いため、心停止が疑われるときに市民救助者がCPRを開始することが推奨される。
今までの推奨
市民救助者は、成人が突然倒れた場合や、反応のない傷病者が正常に呼吸していない場合には、脈拍チェックを行うのではなく心停止の状態であると仮定する必要がある。

小児の人工呼吸の速さが変更

小児の人工呼吸は、今までよりももっと速い速度で換気した方が蘇生率や生存率が高まることが分かりました。

脈拍が触知でき、呼吸補助としてバックバルブマスクなどで人工呼吸をする場合は、2-3秒に1回の割合で換気します。
今までは3-5秒に1回でしたから、今までのペースよりも2倍速くなりました。

心停止に対して気管挿管をした場合も、2-3秒に1回の割合で換気します。
今までは6秒に1回でしたから、今までのペースよりも3倍速くなりました。

もともと心停止に対して気管挿管をした場合の6秒に1回ペースは、成人と小児とを混同しないように統一したと聞いています。
ですが、成人と小児の蘇生は違うところがたくさんありますので、「挿管中の人工呼吸速度だけ大人と同じにしておきましたよ、これで分かりやすいでしょ」と言われても、「いやいや、それ以前に15対2だったり、呼吸が大事だったりするじゃない! ここだけ統一してもらっても!」という気持ちでした私は。

いくら心停止中は換気血流比不均等が起きるとはいえ、乳児に6秒に1回はさすがに少ないんじゃないかと思ってましたので、適切な変更だと感じました。

2020年版新しい推奨
脈拍はあるが呼吸努力がないか不十分な乳児および小児に対して、2~3秒ごとに人工呼吸を1回(20~30回/分)行うことが妥当である。

高度な気道確保器具を用いて乳児および小児のCPRを実施する場合は、年齢および臨床状態に応じて、2~3秒ごとに1回(20~30回/分)の呼吸数を目標とすることを妥当としてよい。

今までの推奨
脈拍(60回以上/分)を触知できたが、十分な呼吸を確認できなかった場合は、自発呼吸が再開するまで約12~20回/分(3 ~5秒ごとに1回)のテンポで人工呼吸を行う。

心停止に対して乳児や小児に挿管した場合は、胸骨圧迫を中断せずに、換気を6秒ごとに1回程度(10 回/分)行う。

小児の挿管もカフ付き推奨

子どもの挿管ってカフなしが基本だったんです。
おそらく、多くの小児科医が気管挿管手技を新生児で練習するからです。
新生児の気道は狭いため、カフがないほうが好まれるのです。

でも、やっぱりそれは新生児の話。
乳児期以降はカフ付きのほうがチューブ交換や再挿管の必要性が減じることが証明されました。
カフ付きのチューブによって、誤嚥のリスクも低減されます。
安全性の高さも証明されました。

2020年版新しい推奨
乳児および小児への挿管において、カフなしの挿管チューブよりもカフ付きを選択するほうが妥当である。
今までの推奨
乳児と小児の挿管には、カフ付き、カフなしのどちらの挿管チューブも使用できる。特定の状況(肺コンプライアンスが低い、気道抵抗が大きい、声門の空気漏れの量が多いなど)では、挿管チューブのサイズ、位置、カフの膨張圧に注意が払われるならば、カフ付きの挿管チューブのほうがカフなしよりも望ましい。

小児の敗血症性ショックに対する急速輸液がさらに慎重に

敗血症性ショックの小児にガンガン水分を入れると、かえって予後が悪くなる可能性が示されました。
これにより2015年から、「20mL/kgの急速輸液をしていいんだけど、そのあとに呼吸状態や右心不全兆候が悪くなっていないか注意してね」と注意事項がつきました。

根拠となった論文はこれです。
Mortality after Fluid Bolus in African Children with Severe Infection(N Engl J Med. 2011; 364: 2483-95)

2020年ではさらに注意を促す方針となったようで、「10mL/kgまたは20mL/kg」すなわち、「今までの半分の量でもいいんじゃない?」という姿勢に変更されました。

2020年版新しい推奨
敗血症性ショックの患者において、10mL/kgまたは20mL/kgで輸液を投与しながら頻回の再評価をすることが妥当である。
今までの推奨
2010:「20ml/kgのボーラス投与は最大3-4回行い、ラ音、呼吸窮迫、または肝腫大が発生しなければ繰り返す」

2015:「20ml/kg(新生児や心血管系障害が先行する場合は10ml/kg)をボーラス投与する。ボーラス投与を実施するたびに、慎重に評価を行う。ショックを治療するため、必要に応じて繰り返す。ラ音、呼吸窮迫、または肝腫大を発症した場合は中止する」

新生児の蘇生をあきらめるタイミングが10分から20分に

悲しい話ですが、生まれてきた赤ちゃんがまったく産声を上げないままに亡くなってしまうことがあります。
以前は10分心拍がなければ蘇生を中止することを検討していましたが、今回は20分に延長されました。
変更の理由は記載されていなかったので分かりません。

ただ、個人的には10分で蘇生中止するのは、親も医療従事者も納得ができず、20分のほうが私の感覚に近い印象はあります。

2020年版新しい推奨
蘇生中の新生児の心拍数を検知できず、蘇生の全手順を実施した場合は、蘇生努力の中止について医療
チームおよび家族と協議する。このような治療目標の変更を行うのに妥当な時間は、出生後約 20 分である。
今までの推奨
心拍数を検出できない新生児では、10 分間心拍数を検出できないままの場合、蘇生の中止を考慮するのが適切である。

その他

  • 小児の心停止に対するアドレナリン投与を「5分以内に!」という目標が設定されました。
  • 敗血症性ショックに対するドパミンの推奨がなくなっています。
  • 出血性ショックに対する輸血の価値が大きくなりました。

小児の換気の回数が変わったことが個人的には大きな変更でした。

気管挿管をしていない状況での胸骨圧迫と人工呼吸の比率は15対2です。
このペースだと、1分間におおむね12回人工呼吸できます。
挿管後の人工呼吸のペース20~30回/分ですから、挿管前と挿管後とで、人工呼吸の回数が大きく変わります。

今後、小児の心停止に対して「優れたプロバイダーはカフ付きチューブでまず気管挿管をすることが推奨される」という記載が追加されてもいいように、素早い挿管の練習をしておきます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。