「マンガで分かる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア」の読み方提案。3度楽しむ方法。

ほむほむ先生の「マンガで分かる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア」読了しました。

本書は3度楽しめる、とても深い本でした。
この味わい深さは、行列のできるラーメン屋さんに近いものを感じます。

今回は、「マンガで分かる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア」の読み方提案と、私の感想を書きます。

まずは、マンガだけ読もう

ラーメンを食べるとき、スープから飲むか、麺からいくか、議論しませんか?
私はまずスープから、続いて麺を勢いよくすすります。

ですが、本書ではぜひ麺からいってほしい。
立ち食いラーメンのように。
意味が分かりませんよね。

理由はきちんと後述しますから、まずはマンガの部分だけ読んでいくことを提案します。
すごいことに、この本はマンガ自体に十分な知識が凝縮されているのです。

ラーメンに例えるなら、インスタ映えを狙って、海苔を立体的に飾る手法があります。
本でも、最初の取っ付きやすさを狙って、気持ちだけマンガを載せることがあります。

「今回のマンガも、海苔くらいの存在かしら」と思っていたら、違いました。

このマンガは、ただの導入ではありません。
もはやです。
ラーメンの主役です。

マンガだけならおそらく20-30分で読めるのではないでしょうか。
このアニメ1番組にも満たない時間で、アトピー性皮膚炎のほとんどをあっさりと理解できているはずです。

楽しみ方なんて人それぞれなんて一般論、ちょっと置いておきましょう。
まずは麺をダイナミックに食べてほしいです。

複雑な「アトピー性皮膚炎」という疾患概念を「あっという間に理解できた」という感覚。
椅子に座る必要すら感じないほどの、圧倒的なまでにスピーディなパフォーマンスを、ぜひ堪能してほしいです。

続いて、解説を読もう

マンガのあとに、ほむほむ先生の解説が続きます。
これは、まさにスープです。
さあ、ゆっくりとスープを味わいましょう。

ラーメンの特徴、味、そして価値を決定的に方向づけるのがスープです。

スープにトッピングをするとき、私は少しずつ味を濃くしていきます。
まずはあっさり、これが私のおすすめです。

ほむほむ先生は、最後に出典を明示してくれています。
ちょこっと確認するくらいならいいと思いますが、出典の内容まで読み込むのはまだ気が早いです。

この本には、ストーリーがあります。
細かいところでストップしてしまって、流れを見失うのはもったいないというもの。

気になった出典にマーキングだけしておいて、どんどん読み進めていきましょう。
おそらく、1日かからず読めてしまうと思います。
なかなかマニアックな知識まで詰め込まれているのに、これほどコンパクトにまとめているのは、すごいとしか言いようがありません。

最後に、出典まで味わい尽くす

エビデンスを大事にするほむほむ先生にとって、おそらく出典こそがメインでしょう。
だから、この表現は本意ではないかもしれませんが、あえて書きます。

本書の出典は、具材です。

さまざまな具材がラーメンを彩っています。
本当にカラフルです。
じっくり味わい尽くしましょう。

PMIDを載せてくれるのが助かりますね。
pubmedから8桁の数字を入れるだけで、論文が検索できます。

論文まで読み込むと、おそらく数カ月は本書を楽しめると思います。

数か月も楽しめるラーメンなんて、もはやラーメンではありませんね。
最後の最後に、例えが間違っていることに気づきました。
発酵食品かブランデーかにしておけばよかったです。
でも、ここまで書いて、比喩を変えることもできませんし、私はやっぱりラーメンが大好きなので、このままラーメンでいきます。

感想など

最後に、私の感想を蛇足として。

登場人物について

ほむほむ先生の登場の仕方がじんわりツボに入ります。
突然飛び出てきます。
さすがウサギです。

さとう先生の存在が良いですね。
本の見せ方として、上手だと思いました。

おそらくですが、ほむほむ先生にとってここに打算などないのだと思います。
自身を主治医ではなく、アドバイザー的な感じにしたのは、プライマリ・ケアの先生に対するほむほむ先生のリスペクトから来るのだと思います。

重症度について

重症度の共有は大切です。
私も喘息であればJPACというスコアを必ずつけてます。

アトピーでSCORADはつけてないですね。
本当はつけた方がいいのですが。
PO-SCORADアプリ使ってみようかな。

代わりに、私はよく写真を撮って電子カルテに入れています。
あと、湿疹の面積はしっかりシェーマに入れています。
とにかく重症度の推移を視覚化することが大事です。
モチベーションに繋がりますから!

外用薬を塗る大変さについて

モチベーションといえば、ほむほむ先生は褒めるのが上手です。
外用薬を続けるのって大変ですからね。
ほむほむ先生に褒められたら「続けよう!」と思えるから不思議です。

毎日のスキンケアは大変だからこそ、朝はお父さんが塗ってくださると嬉しいですよね。

これ、研修医や専攻医にもぜひ知っていてほしいのです。
私は診察室で外用剤を子どもに塗ることがあります。
全身に塗ると、こんなにたくさんの軟膏がなくなるんだと実感します。

とにかく、塗ってみて。
体験してみて。
なかなか大変ですよ。

食生活について

アトピー性皮膚炎の原因は食べ物なんだと考えている保護者、そして医療者までもが非常に多いです。
特に私の地域には多いです。
卵除去、小麦除去、砂糖除去、などなど。

食物アレルギーの起因する乳児アトピーというのは確かにあります。
ありますが、やたらめったら疑うものではありません。
そして診断には除去試験と負荷試験の両方が大切です。
明確な診断をすることなく、ただひたすら食事制限を強要する医師の多いこと。

砂糖については、どこからの情報なんでしょう。
私は信仰を否定しませんが、砂糖に関しては現時点では科学を超えた概念と認識しています。
他人に強要するレベルのものではありません。

本書の「バランスのいい食事を心がけていれば大丈夫です」には、救われる保護者が多いと思います。

メカニズムについて

「そもそもアトピーってどうして起こるんですか」
この質問、鋭いです。

環境と遺伝の両要素から、皮膚のバリア機能が壊された状態ととても簡潔にまとめています。

表皮肥厚の説明から「早めに治療を始めることが大切」に繋げる、この流れエクセレントです。
爪に薬を塗っても、内側の皮膚には届かないという例えも素敵です。

自然派について

アトピー性皮膚炎は自然に7割治ります。
でも、残りの3割は?

優しいほむほむ先生ですが、ここだけマンガのトーンが少し違う印象を持ちました。
もっと言いたいことがあったのではないかと愚考してしまいます。

「もっと治る確率を高めませんか?」と治療のモチベーションに変えてしまうところが、さすがです。

個人的には、適切なスキンケアをすれば治る確率がどう変わるのかは、ぜひ知りたいです。
アレルギー専門医としての日々の診療の努力が、どれくらい報われているのかを知りたいです。

ですが、アトピーの子どもを治療する群としない群とに分けることは倫理的にできません。
背景がそろわないと、なかなか比較できないのですが、ぜひこのクリニカルクエスチョンは解決したいです。
うまく観察研究できれば、と考えてしまいます。

洗い方について

顔とか目の周りの洗い方の指導!
私は自己流で、自分の子どもを実験台にして洗い方を習得しましたが……。
ほむほむ先生の指導と全く同じです!
すごく安心しました。

目は上から下へ、瞼を閉じるように洗うんです。

外用剤の塗り方について

幼児だと小さじ2杯、8gほどを使います。
1日2回塗布するとして、1カ月で480gも使う計算になります。
多くの保護者さんが「こんなに使うの?」と思ったことでしょう。
そうです、こんなに使うんです。

容器を素手で取ってはいけない問題。
チューブやボトル内で細菌が繁殖したという論文はLETTERなので、すぐに読めます。
Creams Used by Hand Eczema Patients are often Contaminated with Staphylococcus

55%のクリームから細菌が検出されたが、その菌量は少なかった。
正確なCFUが測れないほどに少なかった。
少なくても、1000CFU/gを越えなかった。
繁殖した細菌のうち、黄色ブドウ球菌の割合は30%だった。

この論文は確かにへらやスプーンでクリームを取ることを薦めています。
ですが、私はこの論文の臨床的な意味はさらに研究が必要ではないかなと思います。

日々のスキンケアは大変です。
スプーンのケアまで必要なのかどうかは、もう少し根拠が欲しいです。
クリーム塗る前に、まず自分の手を洗えくらいに落ち着けば、少しはスキンケアが楽になってくれるのですが。

お風呂について

入浴剤は楽しめばいい。
エビデンスがないから「絶対に必要はない」とか「意味がない」というわけではないので、極端に高価でお財布にダメージを与えるようなものでさえなければ、適度に取り入れて生活を楽しくしてもらえればというメッセージは、安心される保護者も多いのではないでしょうか。

「洗ってはいけない」も、「洗わないとダメ」も両極端です。
どちらでも大丈夫というエビデンスを示しつつ、普段の生活と同じようにTPOで使い分ける。
良い表現だなあと感心しました。

ステロイドについて

ステロイドのランク表は、私も指導中によくお見せします。
「今日出すステロイドはこの強さですよー」と。

最強のステロイド、デルモベートを説明するとき、私は「ハリーポッターに出てくる悪い魔法使いみたいな名前ですね」ということがあります。
あまりうけないジョークです。

ゴールを共有も大切です。
ステロイドをやめるために、ステロイドを使いましょう。
どうしてステロイドを使うとステロイドがやめられるのかは、1章4項の「アトピー性皮膚炎のメカニズムの話」を読むといいでしょう。

副作用の皮膚線状を「妊娠線と同じもの」という説明すると、実際のお母さんには分かりやすいと感じています。
ちなみに、お父さんには「え?」と言われます。

ママたちのコミュニケーションについて

p130-135の漫画の流れ、好きです。
正しい情報が、ママコミュニケーションで広がっていく。
幸せの連鎖ですね。

ただ、ママコミュニケーションは同時に正しくない情報も広げます。
不幸の連鎖です。

p175に釘を刺すシーンがあるところなど、細かいところに配慮されています。

逆境をポジティブにとらえる

「ストレスがない世界なんてありません。だから、できることから始めましょう」

名言です。
逆境をポジティブにとらえるコツが、意外と本書には多いです。

余談ですが、「何もない人生より、何かある人生の方が良い」とこども病院の笠井先生に先週教えられました。

自慢

私の持っている本は、ほむほむ先生のサイン付きです。

マニアックだと思った点

やわらかい入り口と、なかなかマニアックな補足が本書の特徴でしょう。
虫よけスプレーや洗剤の成分、衣服の原材料にまで及んだ解説は、アトピー性皮膚炎に関するガイドラインにも医学書にすらほとんど書かれていません。

柔軟剤で皮膚症状が改善したという報告、知りませんでした。
2011年にすでに報告があったのですね。
参考文献をしっかり載せているところが、ほむほむ先生のすごいところです。

余談ですが、私もミトンは使いません。
かゆくなくなれば、かかなくなるんです。
ミトンをつけてかけなくするというのは、いくら子どものためとはいえ、やはり身体拘束の一種ですから、あまり推奨したくありません。

手湿疹に対する軍手を使った方法は、さっそくやってみようと思います。
手湿疹はとにかく難渋します。

まとめ

ほむほむ先生の「マンガで分かる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア」は、3度楽しめる良書でした。

一般向けではありますが、医療者が読んでも十分に読みごたえがあります。
私は2周読み、今は気になった参考文献を少しずつ読み込んでいる段階です。
この3度目の味わいが、またとんでもなく深いです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。