「秋に喘息発作が多い」というのは多くの人が知っていることでしょう。
当院も、この10月11月は喘息発作で入院するお子さんが多くいました。
「どうして秋に喘息発作が多いのか」については、ほむほむ先生が分かりやすく解説してくださっています。
秋はライノウイルスという鼻かぜのウイルスが流行します。
その鼻かぜをきっかけに、喘息発作が起こることがあります。
保育園に通っていれば、よく鼻かぜにかかります。
ここで、こんなことを思いつきます。
「保育園に通っていると、喘息になりやすいのではないか?」
今回は、保育園が喘息と関係するのか考えてみます。
保育園は喘息のリスクになるか
スペインの論文です。
タイトルは「保育園と喘息のリスク-システマティックレビュー」という直球です。
この論文は、当院の研修医が抄読会で発表してくれました。
さっそく読んでみましょう。
背景
喘息は小児においてありふれています。
家族や社会にとって大きな関心ごとです。
保育園に通っている子どもは感染症にかかる機会が多く、より早期に喘鳴(ぜーぜーすること)を起こします。
いっぽう、衛生仮説に基づくと、早期の抗原暴露は免疫システムの発達をもたらす可能性があります。
以上から、保育園に通うことが喘息発症を増やすのか減らすのか結論が出ていません。
本論文ではシステマティックレビューを用いて、3歳以下の保育園が喘息のリスクになるか調べます。
方法
Pubmedなどのデータベースを使って、0-3歳で保育園に通った群と、そうでない群とで、喘息の有無を比較しました。
3歳までの喘鳴再発の有無、6歳までの喘息の有無、6歳以降の喘息の有無をを調べました。
18の研究、80135人の小児が研究に参加しました。
結果
3歳までの喘鳴再発や、6歳までの喘息発症については、保育園に通っている子どものほうが有意に多いという結果でした。
いっぽう、6歳以降で喘息が続いているかについては、保育園に通ってても通っていなくても変わらないという結果でした。
(正確には「差があるとはいえない」という結果でした)
感想
「保育園に通うと、6歳までの喘息発症は増えたが、6歳以降の喘息の有病率は変わらなかった」という結果にどう向き合うか考えてみましょう。
喘息管理において大切なのは、早期診断と発作予防対策です。
喘息における早期診断は二次予防といい、発作予防対策は三次予防といいます。
この二次予防、三次予防は、リモデリングという気道の変化を防ぎ、喘息の寛解に繋がると考えられています。
(寛解というのは、薬物療法をすることなく発作が出ない状態を指します)
「保育園に通うと、6歳までの喘息発症は増えたが、6歳以降の喘息の有病率は変わらなかった」という結果は、二次予防、三次予防が奏功した結果なのだとも考えられなくはありません。
もしそうであれば、現在の小児医療は乳幼児喘息に対して奏功しているといえるでしょう。
これは「医療の発展によって、保育園のリスクを軽減できた」という解釈です。
いっぽうで、6歳までの喘息は「真の意味での喘息」ではない可能性があります。
というのは、この年齢では「息を大きく吸ったあと、思いっきり吐き出す」という検査(スパイロメトリー)が通常できないからです。
そのため、5歳以下の喘息は「喘息の可能性が高ければ、喘息として早期からしっかりコントロールする」というスタンスがとられています。
日本では5歳以下の乳幼児では次のように診断しています。
JPGL2017では、5歳以下の反復性喘鳴のうち、明らかな24時間以上続く呼気性喘鳴を3エピソード以上繰り返し、β2刺激薬吸入後に呼気性喘鳴や努力性呼吸・SpO2の改善を認められる場合に「乳幼児喘息」と診断する。
小児気管支喘息 治療・管理ガイドライン2017 p168
この診断基準では、本当は喘息ではない乳幼児も「喘息」と診断されることがあります。
もちろんこれは、漏れのない二次予防、三次予防のために、ある程度は仕方がないと考えられます。
ですがこのために「保育園に通うと、6歳までの喘息発症は増えたが、6歳以降の喘息の有病率は変わらなかった」という結果を「保育園に通うとウイルス性一過性喘鳴が増えるために喘息と診断されがちだが、真の意味での喘息は増えなかった」と解釈することもできます。
以上から、6歳までの喘息については保育園に通うことで本当に増えたかどうかは言及できません。
今回の論文が明らかにしたのは、「保育園に通っても、6歳以降の喘息は増えなかった」ということだと私は思います。
結論
小さいときから保育園に通っても、将来の喘息には影響しないと考えられます。