卵アレルギーを「玉子アレルギー」と書かれると、なんだかぞわぞわします。
卵と玉子の違いって何なんでしょう。
こういう疑問は他にもあります。
コンソメとブイヨン。
いくらと筋子。
サイダーとソーダ。
そうめんと冷や麦。
違うはずなんですが、違いをうまく説明できません。
なすとなすびは同じですが、あじとしまあじは違います。
こうして、思考はぐるぐるし始めました。
口腔アレルギー症候群(OAS)と花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)もそうです。
総合アレルギー講習会や相模原臨床アレルギーセミナーで、これらの名称が意味する違いを何度も習ったはずなんですが、すぐに忘れてしまいます。
今回は、OASとPFASについて書きます。
このページの目次です。
口腔アレルギー症候群
口腔アレルギー症候群という言葉が誕生したのは今から30年以上前、1987年のことです。
Oral allergy syndrome (OAS): symptoms of IgE-mediated hypersensitivity to foods.(Clin Allergy. 1987; 17: 33-42.)でAmlotらが口腔アレルギーについて触れています。
抄録を確認したのみですが、要するに「食物アレルギーの一部に、口腔粘膜症状から始まって、やがてじんましん、喘息、アナフィラキシーに波及するものがある。これを口腔アレルギー症候群と呼ぼう」と書いてありました。
この時点では、花粉が関連するかどうかについては言及されていません。
また症状を起こす食品も卵、牛乳、ナッツ、魚が挙げられています。
現在、私たちが思い浮かべるだろう「口腔アレルギー症候群」とは違ったイメージです。
口腔アレルギー症候群の診断基準
厚生労働省研究班から、診断基準が一応あります。
- 特定の食物を接種時に口腔・咽頭粘膜の過敏症を示す。
- ①の食物によるプリックテストが陽性を示す。
- 血清中に①の食物特異的IgEが証明される。
①を必須として、②または③を満たす場合を口腔アレルギー症候群と診断します。
参考事項として、カバノキ科やイネ科、キク科の特異的IgEが証明されることが多いと書かれています。
とはいえ、上記の診断基準から見えるのはやはり「食物アレルギーの一部に、口腔粘膜症状から始まって、やがてじんましん、喘息、アナフィラキシーに波及するものがある。これを口腔アレルギー症候群と呼ぼう」というAmlotらの記述をそのまま受け継ぎました。
口腔内に症状が出る食物アレルギーをぜんぶ「口腔アレルギー症候群」とまとめてしまいました。
その背後には様々な原因があるのに、「口腔内に症状が出る」という共通の症状で一緒にしてしまいました。
そのため、口腔アレルギー症候群の原因がいろいろと明らかになるにつれ、全部を「口腔アレルギー症候群」とするのは無理が出てきました。
花粉-食物アレルギー症候群
Comparison of results of skin prick tests (with fresh foods and commercial food extracts) and RAST in 100 patients with oral allergy syndrome.(J Allergy Clin Immunol. 1989; 83: 683-90.)でOrtolaniらは口腔アレルギー症候群と花粉症の関連を報告しました。
この報告から「交差反応性」という言葉が注目されるようになります。
たとえばスギ花粉症の人がトマトを食べると口がかゆくなることがあります。
またイネ科の花粉症の人がメロンを食べると口がかゆくなることがあります。
つまり、花粉に含まれるたんぱく質と、食物に含まれるたんぱく質とで、構造がそっくりなものがあります。
これらは「交差反応性」を持ち、花粉に対してアレルギー反応が出る人は、それと似た構造のたんぱく質を含む食物を食べてもアレルギー反応が起きます。
花粉-食物アレルギー症候群の症状
食物摂取後15分以内に口腔内のかゆみや刺激感、咽頭の閉塞感を自覚し、口唇や口腔粘膜の腫脹を認める。
アレルギー・免疫 2017年 8号 p1027-1032
花粉-食物アレルギー症候群は口の中の症状だけで終わることも多いですが、じんましん、皮膚の徴候、顔面の主張、呼吸器症状、消化器症状、そしてアナフィラキシーショックに至る可能性についても上記には書かれています。
つまり、花粉-食物アレルギー症候群の症状は、口腔アレルギー症候群とまったく同じです。
花粉-食物アレルギー症候群の診断
口腔アレルギー症候群には診断基準がありましたが、花粉-食物アレルギー症候群には明確な基準はありません。
詳細な病歴および被疑食物の感作を参考に診断する。
確定診断は食物経口負荷試験を行う。食物アレルギー診療ガイドライン2016 p152
ガイドラインにおける口腔アレルギー症候群の記載はとても簡潔です。
食物アレルギーのクラスIとクラスII
食物アレルギーは、その原因によって「クラスI食物アレルギー」と「クラスII食物アレルギー」とに分けることがあります。
この違いをはっきりと定義している成書は見つけられませんでしたが、Food allergens: molecular and immunological aspects, allergen databases and cross-reactivity.(Chem Immunol Allergy. 2015; 101: 18-29)では次のように書かれています。
- クラスI食物アレルギーは食物抗原の感作によって引き起こされる。
- クラスII食物アレルギーは吸入抗原の感作によって引き起こされる。
ただ、この書き方だと「ラテックス-フルーツ症候群はどうなんだ」となってしまいます。
私の解釈としては、アレルギーの原因にそのアレルゲン自体が関与するものがクラスI、アレルギーの原因に「交差反応性」関与するものがクラスIIとしています。
ともあれ、花粉-食物アレルギー症候群はクラスII食物アレルギーです。
口腔アレルギー症候群と花粉-食物アレルギー症候群の関連
ここまでをまとめると、花粉-食物アレルギー症候群は口腔アレルギー症候群のクラスII食物アレルギーであると言えそうです。
口腔アレルギー症候群の中にはクラスI食物アレルギーももちろん存在します。
私は魚アレルギーの子どもやエビアレルギーの子どももたくさん診ていますが、これらの多くが「口の中から」症状が始まります。
牛乳アレルギーも、一部の子どもで口の中から症状が始まるように感じます。
口の中から症状が始まりますので、口腔アレルギー症候群ではありますが、魚アレルギーやエビアレルギーや牛乳アレルギーの子どもが花粉症であったことはあまりありません。
つまり、花粉-食物アレルギー症候群は口腔アレルギー症候群の部分集合と言えます。
口腔アレルギーのほうが大きな集合だという解釈です。
いっぽうで、次のような解釈もできます。
食物アレルギーのなかでOASという独立したアレルギー疾患が存在するのではなく、むしろ症候名としてとらえるべきものと考えている。
つまり、食物に対して口腔・咽頭にアレルギー症状をきたすとそれはOASとなるわけである。アレルギー・免疫 2017年 8号 p1013-1014
アレルギー・免疫 2017年8号は口腔アレルギー症候群を非常に分かりやすく具体的に説明してくれていますのでおすすめです。
上記にある通り、花粉-食物アレルギー症候群は原因からの分類であり、口腔アレルギー症候群は症候からの分類であるので、「どちらの集合のほうが大きいのか」と考えることはナンセンスであるかもしれません。
あくまで想像の話ですが、花粉が原因として発症した食物アレルギーであるにも関わらず、口腔内に症状が出ない疾患があったとしたら、それは「花粉-食物アレルギー症候群ではあるものの口腔アレルギー症候群ではない」となります。
「小児食物アレルギーQ&A」のp23にも、「花粉-食物アレルギー症候群ではあるものの口腔アレルギー症候群ではない」という集合が存在することが書かれています。
上記の本には、集合が図で表示されており、分かりやすいです。
花粉-食物アレルギー症候群は理論上は口腔アレルギー症候群と重なり合う別の集合であり、事実上は口腔アレルギー症候群の部分集合である、というのが私の解釈です。
まとめ
花粉-食物アレルギー症候群PFASは口腔アレルギー症候群OASの一部だと事実上言えそうです。
ただし、花粉-食物アレルギー症候群は原因からの分類であり、口腔アレルギー症候群は症候からの分類であることも留意しなければなりません。