大晦日ですね。
今年1年の締めくくりは、気管支喘息の話題にしたいと思います。
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017が2017年11月に発行されました。
以前のガイドラインは2012ですので、5年ぶりの改定です。
今回は小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017で、私が個人的に「大きく変わった」と感じた変更点を書きます。
このページの目次です。
静脈投与ステロイドの若干の変更
喘息発作が起きたとき、ステロイドを投与することがあります。
このときの投与量が2012と2017で若干変更されました。
まず、2012年のガイドラインでは、2歳未満と2歳以上で投与量が異なりましたが、2017年のガイドラインでは年齢に関係なく一律になっています。
このとき、2歳未満の量で統一されたことで、結果的にプレドニゾロンもメチルプレドニゾロンも同じ投与量になりました。
すなわち、プレドニゾロンもメチルプレドニゾロンも0.5-1mg/kg/回を6-12時間ごとに静脈内投与します。
これにより、複雑だったステロイド投与量がとてもシンプルになりました。
私はメチルプレドニゾロンをよく1.5mg/kg/回で投与していましたが、今回の2017年のガイドライン改定で私の処方は少し多いということになります。
なお、ヒドロコルチゾンに関しては、5mg/kg/回を6-8時間ごとです。
経口投与ステロイドの若干の変更
経口投与によるステロイド量も若干の変更がありました。
2012年度版ではプレドニゾロン0.5-1mg/kg/dayでしたが、2017年度版では1-2mg/kg/dayとなりました。
2012年度版では経口ステロイド量が静注ステロイド量に比べてとても少ないという現象が起きていて、「ステロイドは内服のほうがよく効くんだな」と解釈していたのですが、今回の改定で経口ステロイドも静注ステロイドもほぼ同一量となりました。
さらに、「静脈内投与と経口投与で効果に差はない」という文面が追加されました。
静脈注射によるステロイド投与はコハク酸エステルによる喘息悪化の可能性もありますし、何より静脈路確保は痛いです。
強い啼泣が気道に乱流を生み、気道抵抗が増し、呼吸不全が進行するのはPALSでおなじみの知識です。
内服が可能なのであればステロイドは内服が望ましいということを暗示させているのではないかと個人的に思っています。
新しくできた「乳幼児喘息」というカテゴリー
喘息の診断には呼吸機能検査や可逆性試験、気道過敏性検査や気道炎症の確認などが重要です。
ですが、小さな子どもにこれらの検査をすることは通常不可能です。
したがって、2012のガイドラインでは「乳児喘息」という言葉がありました。
乳児喘息とは、「2歳未満の子どもが3回ぜーぜーしたら、乳児喘息と診断する」というとても簡単な定義でした。
これは、発症早期から適切な治療を行うべきであり、ある程度疑わしい子どもには「乳児喘息」と診断して治療しておきましょう、という考え方でした。
では、2歳~5歳までの子どもはどうでしょうか。
確かに4歳くらいから一部の子どもは呼気中一酸化窒素測定ができます。
気道炎症の確認を間接的に測れるかもしれません。
しかし、スパイロメトリー検査を十分に行うことは難しいでしょう。
2歳未満の喘息と、2歳~5歳までの喘息で、診断の難しさは大きく変わりません。
そして喘息の管理にも大きな違いはありません。
そのため、5歳以下の喘息は「乳幼児喘息」と一括りにすることになりました。
これにより5歳以下の喘息が診断しやすくなりました。
ただし、5歳以下の喘息が診断しやすくなったことで、吸入ステロイドの過剰投与になる危険性があり、同時に「診断的治療」に関する文言も追加されています。
急性増悪時のβ2刺激薬吸入量が一律0.3mlに
喘息発作の子どもが外来にきたとき、まずβ2刺激薬を吸入させるでしょう。
そのときの吸入量は今まで0.1ml-0.3mlとされていました。
たとえば2歳未満は0.1ml、2-5歳は0.2ml、6歳以上は0.3mlと量を調節していた施設は多かったと思います。
2017年のガイドラインでは、β2刺激薬吸入(サルブタモールやプロカテロール)は一律0.3mlになりました。
(本当は6歳以上では0.3ml-0.5mが推奨されていますが、保険適応から現状は0.3mlとなっています)
私も以前から、小さい子どもは泣いたり嫌がったりしてあまり吸入できないし、しっかり吸えても一回吸気量がそもそも少ないので、あまり吸入できないのに、どうして吸入量を減らすのか疑問でした。
今回の改定で、吸入量が一律になったことで現場での指示伝達がシンプルになり、また年少児の過小投与の可能性が考慮されることになりました。
なお、ネブライザーではなく、スペーサーでメプチンエアーを吸入させてもよいことが2017年のガイドラインではあらためて記載されました。
(これはクリニカルクエスチョンとしても取り上げられ、強調されています)
個人的には2017年の喘息ガイドラインからスペーサーがネブライザーに劣らないというメッセージが感じられます。
スペーサーに関してはこちらの記事でも書きました。
6歳以上の長期管理にオマリズマブが追加
抗IgE抗体製剤であるオマリズマブの臨床研究データが増えてきています。
高用量のステロイド吸入でも発作を抑えられない重症な気管支喘息に対して、オマリズマブの追加治療がガイドライン上にも記載されました。
「急性増悪発作」という言葉
気管支喘息の子どもは、その重症度とコントロールによって、呼吸がしんどくなるときがあります。
咳が強くなり、ぜーぜーとした呼吸になります。
これを今までは「急性発作」と呼んでいました。
ですが、喘息というのは発作時だけに突如現れるものではありません。
喘息症状がないときにも喘息は存在しています。
喘息というのは気道の慢性的な炎症です。
つねに、じわっと気道に存在し、気道を荒らしているのです。
「急性発作」という言葉だと、発作がないときは喘息が消えているように思われる可能性があります。
したがって、「喘息はつねに存在し、ときどき悪化して症状が顕在化するんだよ」というメッセージをこめて、「急性増悪」または「急性増悪発作」と呼ぶようにしました。
ただ、ガイドライン中もすべてが「急性増悪発作」という言葉に変わったわけではなく、「喘息発作」という言葉も使われています。
喘息コントロールが発作時対応より前に移動
喘息コントロールのページが発作時対応のページよりもガイドラインの先に書かれるようになりました。
これはひとえに、「喘息は長期管理が大切だ」というメッセージを伝えるためでしょう。
シンプルで分かりやすくなった
2017年のガイドラインはクリニカルクエスチョン形式で推奨を書くなど、最近のガイドラインの模範であるMindsに沿っています。
クリニカルクエスチョン形式は分かりやすい反面、文章が冗長になる可能性があります。
にも関わらず、2017年のガイドラインは全部で234ページです。
2012年のガイドラインは296ページであり、2割ほど薄くなりました。
治療や管理がシンプルになり、文章が洗練され、分かりやすくシンプルになった結果でしょう。
(図表をwebに移動させたことも一因です)
まとめ
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017で私が重要だと感じた変更点8つを書きました。
他にもたくさんの変更点があり、ガイドラインは一読することをお勧めします。
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017は、単なるマニュアルではなく、気管支喘息が現在の医学でどの程度解明されているのかまで書かれた、非常に教育的な本です。
Mindsに従った書き方は分かりやすく、洗練されています。
近年、喘息死や長期入院患者数が激減したが、これほど短期間に予後が改善した疾患は他にないといわれるほど、これまでのガイドラインが果たしてきた貢献は多大であり、その後に刊行された他のガイドラインの範にもなったのではないかと自負しているが、さらなる社会への貢献を目指して作成した。
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017 序文
範となるガイドラインだと序文に書かれていますが、過剰表現ではないと感じました。