亜鉛は風邪に効きますか?一小児科医として思うこと。

車での通勤時間が長くなって、ラジオを聴く機会が増えました。
2020年12月28日の朝、ABCラジオで道場洋三さんの番組を聞いていましたら、「亜鉛で肌が潤う。牡蠣を食べるのがいい」という内容がありました。

亜鉛。
時々、医療界でも話題になります。
たとえば、亜鉛が下痢に有効かどうかは、ここに書きました。

亜鉛は子どもの下痢に有効ですか?

2021年1月5日

今日は、亜鉛が風邪に効くかについて書きます。

亜鉛は風邪に効くのか

厚生労働省の『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』「2011年の臨床試験の分析によると、症状が発現してから24時間以内に経口用亜鉛を取ると、風邪の症状を緩和したり期間を短くしたりするのに有効であることがわかりました」と書かれていました。

もともとは、アメリカのNational Center for Complementary and Integrative Health(NCCIH)からの引用のようです。
NCCIJは国立補完統合健康センターと訳されますが、通常の医療を補完する医療の研究をしています。
「ビタミンCは風邪に有効か」とか、そういう研究です。

亜鉛については、こう書いてありました。
「2015年の臨床試験の分析によると、風邪症状が出てから24時間以内に亜鉛を服用すると、風邪の期間を短縮することが分かっています」

2015年の臨床試験というのが、気になります。
コクランレビューなのかなーと考えて調べてみると。

このレビューは、2015年2月にHarri Hemilä先生のコメントの結果、撤回されました。
Hemilä先生は、このコクランレビューに複数の誤りがあることを指摘し、また以前にHemilä先生が発表したシステマティックレビューの文章とデータが盗用されたと申し立てをしました。

Zinc for the common cold

亜鉛が風邪に効くかを調べていたら、何やら事件に巻き込まれてしまいました。

一応、以前のバージョン(2013年)は読めます。
結論は厚生労働省の『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』と同じで、「風邪症状が出てから24時間以内に亜鉛を服用すると、風邪の期間が1日ほど短縮する」という内容でした。
でも、複数の誤りとか、データの盗用とか言われてしまってますから、結果をどう解釈すればいいのか分かりません。
このレビューのゆくえは少し遠くから眺めることにしましょう。

さて。
盗用されたと訴えたHemilä先生は、亜鉛についていくつもの論文を発表されています。

Zinc lozenges and the common cold: a meta-analysis comparing zinc acetate and zinc gluconate, and the role of zinc dosage. JRSM Open. 2017; 8: 2054270417694291.

冒頭に興味深いことが書いてあります。

白血病を患った3歳の少女が、治療用の亜鉛製剤をゆっくりと口の中で溶かしたところ、数時間以内に感冒症状が消失したことがきっかけで、感冒治療のための亜鉛トローチが注目されるようになりました。
この結果を受けて、少女の父親であるジョージ・エビー先生は、亜鉛トローチを用いた最初の無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施しました。
エビー先生は、1日あたり207mgの亜鉛を含有するグルコン酸亜鉛トローチを使用し、風邪の期間を有意に短縮しました。

亜鉛が風邪に効くかを調べていたら、今度は別のドラマが始まりました。
エビ―先生の論文が1984年ですから、亜鉛の歴史は約40年ほどなのでしょう。

過去の研究で1日75mg未満の亜鉛投与では風邪に効果がなかったことから、1日75mg以上の亜鉛を投与された研究を探したようです。
7件の論文が該当し、その投与量は1日80~207mgでした。
いずれもアメリカの論文です。

亜鉛投与によって、風邪症状の持続期間は33%減少しました。
亜鉛の投与量は100mgを超えても差は出ず、1日投与量は80mgで十分なのかもしれません。

さらには、1日75mg未満の投与でも効果はあるのかもしれません。
過去の研究では、1日75mg未満の亜鉛投与は風邪症状に無効とされていますが、トローチに亜鉛のイオン化を妨げるクエン酸や酒石酸、炭酸水素ナトリウムが含まれていたために、効果がなかった可能性があるとHemilä先生は述べています。

結論として、Hemilä先生は「亜鉛トローチは風邪症状の期間を33%短くするから、おすすめですよ!」と書いています。

小児科医として思うところ

小児科医として思うところは、まず「子どもにも亜鉛は効くの?」というところです。
上記の研究はいずれも大人の話です。

もちろん、子どもを対象とした研究もあります。

Zinc gluconate lozenges for treating the common cold in children: a randomized controlled trial. JAMA. 1998; 279: 1962-7.

オハイオ州の7歳から18歳の249人を対象としています。
亜鉛の量は7-12歳では1日50mg、13-18歳では1日60mgとしています。

この研究では、亜鉛が子どもの風邪を症状を短くすることはありませんでした。
亜鉛が効かなかった理由として「子どもはトローチをゆっくり舐めて食べることができなかったせいではないか」と考察されています。

ゆっくり舐めないと効果がないんですか?

こうなってくると、「亜鉛が多く含まれる牡蠣を食べればいい」という問題ではなくなります。
さらに、クエン酸や酒石酸、炭酸水素ナトリウムなどと同時に摂取すると効果が落ちるのであれば、「牡蠣にレモン汁を絞って食べる」というのでは、まったく効果がなくなってしまいます。
そもそも牡蠣は亜鉛が多いといっても、100gあたりに13mgです。
80mg摂取するには、600g以上食べなければなりません。
牡蠣1個20gだとすれば、牡蠣30個を毎日食べ続ける必要があります。

しかも、ただ食べるだけでは効果がないそうです。
牡蠣30個を口の中でずっとモグモグしてないと効果がないのかもしれません。

他にもココアに亜鉛が多いとか言いますけど、ココアは100gに亜鉛4.6mgとして、ココア1杯6gの中に、亜鉛は0.3mgほどです。
80mg摂ろうと思えば、ココアを290杯が必要です。
しかも、ただ飲めばいいのではなく、口の中に含んでないと効果がない可能性があります。

あと、亜鉛が風邪症状に効果がなかったという論文が多いのも気になります。
亜鉛が風邪に有効だとする論文は8個ありますが、無効だとする論文は12個あります。

人種や、普段の栄養状態なども関係するのかもしれません。
まさに「議論の余地がある」状態です。
そのため、国際的には風邪診療ガイドラインでも亜鉛は推奨されていません。

Hemilä先生もそのあたりはとても気にしているようで、フィンランドで新しい研究をしていました。

Zinc acetate lozenges for the treatment of the common cold: a randomised controlled trial. BMJ Open. 2020; 10: e031662.

1日78mgの亜鉛投与で、18歳以上の風邪をひいた人が亜鉛かプラセボを飲みます。
亜鉛を飲んだのが46人、プラセボを飲んだのが42人でした。
結果は、亜鉛による風邪症状の短縮はありませんでした。

今後も「議論の余地がある」状態は維持されそうです。

私の結論

  • トローチでゆっくり舐めないと効果がないのかもしれない
  • クエン酸・酒石酸・炭酸水素ナトリウムなどで効果がなくなるのかもしれない
  • 効果がなかった論文も多く、子どもでの有用性も不明、日本人に有用かどうかも不明

これらをまとめると、現時点で私が子どもの風邪治療に亜鉛を薦めることはないです。

なお、Hemilä先生はビタミンCの研究もされていますから、こういう分野が好きなのだと思いました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。