学校心電図検査で、QT延長症候群が疑われ、病院を受診する子どもは時々います。
病院でまず何をすべきかについては、この記事に書きました。
学校の心電図では、機械の自動計測でQT時間を求めています。
QT延長症候群を診断するためには、医師自らが接線法とFridericia補正で正しいQT時間を求めなければなりません。
でも、接線法についてしっかり教えてくれる本って意外にないんです。
たとえば、医学書院のホームページで掲載されている「循環器で必要なことはすべて心電図で学んだ【第19回】 QT延長で学ぶ微分積分(前編)」を紹介します。
ここに、接線法について記載があります。
この図2、接線の位置を見てください。
T波の下降部分に接線を引いてはいますが、こんなところに接線を引いていいのでしょうか?
もし正しいのであれば、たとえば以下のような接線法も正しいのでしょうか?
今回は、QT時間を正しく測定する方法を考えてみます。
このページの目次です。
QT計測と接線法
QT計測における接線法とは、T波下行脚の最大傾斜部に接線を引き、その接線が基線と交差するポイントをT波の終点するとする方法です。
したがって、前述の図の接線法は正しくありません。
もっと角度が急である点が存在するためです。
正しい接線法は次のようになります。
接線法によるT波の終点は、一見して「ここかな?」と感じるT波の終点よりも前方に来ます。
QTcの計算
小児科ではQT時間はFridericiaの式を用いて補正します。
QTc=QT/(RR)1/3
Fridericiaの式
さて、ここで間違えやすいのは、どのRRを使うのかという点です。
RR間隔の測定は、終点を求めたT波の直前の拍で行います。
なぜなら、QT間隔に影響を与えているのはその再分極の直前の心拍だからです。
ここまでくれば、QTcの計算はもう少しです。
関数電卓は持ち歩いていますね?
RR時間を1/3乗してください。
というのはジョークです。
いや、関数電卓を持ち歩いている人はもちろんそうしてもらっていいのですが、普通は関数電卓を持ち歩きませんよね。
少なくても私は持ち歩いていません。
電子カルテを使っているなら、windowsのアクセサリの関数電卓を使うのがよいと思います。
普通にwindowsの電卓を起動すると、上のような画面が開きます。
この電卓は普通の電卓ですので、1/3乗ができません。
「表示」ボタンを押し、関数電卓に切り替えます。
windowsのバージョンによって、関数電卓の画面が違います。
私のはwindows8.1の画面です。
黄丸のような立方根ボタンがあれば、RR時間を入力して黄丸を押すだけです。
もし立方根ボタンがなければ、青丸のボタンがいいでしょう。
RR時間を入力し、青丸を押して、3と入力し、イコールを押しましょう。
黄色も青色もなければ、赤丸で代用しましょう。
RR時間を入力して、赤丸を押して、0.333333333333と好きなだけ入力して、イコールです。
出てきた数値でQT時間を割れば、晴れてFridericia補正されたQTcが求められます。
接線法と自動計測の差
心電図には自動でQT時間を求める機能がついています。
小児におけるQT間隔自動計測と接線法による計測の差の検証(心電図Vol.35: 2015 No.1 p.5-14)に、自動計測の方法が記載されています。
心電図は日本光電社製の心電計を使っているようです。
ちなみに、差分波形についての知識がないと自動計測の仕組みは理解できません。
私には分かりませんでした。
自動計測の理屈は分からないものの、心電計の自動計測と接線法による計測とにどれくらいの差があったかという結果については分かります。
結果は単純明快で、接線法のほうが自動計測よりもII誘導でQTcが25.4±19.7msec短く、V5誘導で34.9±19.8msec短かったようです。
まとめ
接線法と自動計測機では、QTcに差がありました。
この差は大きく、機械の自動計測でQTc0.455秒でQT延長を疑われ紹介されてきたケースも、接線法で求めればQTc0.430秒で延長していないということを多々経験します。
QT延長症候群は突然死の可能性を秘めた疾患です。
正しくリスクを評価する必要があります。
QT延長症候群のリスクをSchwartzのスコアで予測するにしても、まずは接線法を用いた正しいQTcの計測から始まります。