2017年4月。
柏原病院小児科の外来は、ヒトメタニューモウイルス肺炎とロタウイルス性胃腸炎の子どもがたくさん受診しています。
4月と言えば、ロタウイルスかヒトメタニューモウイルスです。
今回はヒトメタニューモウイルスについて書きます。
といっても、基本的なことは製薬会社さんのホームページにも書いてあります。
(あとで紹介します。なかなかよくできていますので)
ですから今回は、私が最近読んだヒトメタニューモウイルスの論文についての感想も交えて、ちょっとアドバンスドな内容にしたいと思います。
このページの目次です。
ヒトメタニューモウイルスの症状と治療
ヒトメタニューモウイルス感染は発熱、咳、鼻汁の3つが症状として有名です。
いわゆるカゼ症状です。
多くのヒトメタニューモウイルスは、少し長めのカゼと同じ経過をとります。
熱が出て、咳が出て、鼻水が出て、でも特に薬を飲まなくても熱は3-4日でおさまり、咳や鼻水も1-2週間でおさまります。
Meijiのホームページに、ヒトメタニューモウイルスの症状や治療について簡潔に書いてありますので、こちらも参考にしてください。
ヒトメタニューモウイルスを疑うタイミング
発熱、咳、鼻汁は多くのカゼでみられます。
ですから、「発熱、咳、鼻水がみられたら、ヒトメタニューモウイルスの検査をしましょう」というスタンスでは、検査だらけになってしまいます。
ヒトメタニューモウイルスの検査には保険適応があり、「6歳未満で、画像検査で肺炎を強く疑われるもの」が保険で検査できます。
画像検査とはレントゲン検査のことです。
私がレントゲンを撮ろうと考えるのは、聴診で肺に雑音が聞こえるときです。
(もちろんマイコプラズマなどの非定型肺炎を疑うときや、細菌性肺炎を疑うときは、肺雑音の有無を考慮しないときもあります)
発熱、咳、鼻水を持った5歳までの子どもで、胸にぜーぜーとかゴロゴロとかそういう喘鳴が聞こえるとき、「これはただのカゼとは違うな」と感じます。
こういうとき、私はまずRSウイルスかヒトメタニューモウイルスを疑います。
(どちらでもないときは、ライノウイルスやパラインフルエンザウイルスだと思います)
ヒトメタニューモウイルスとRSウイルスの違い
ヒトメタニューモウイルスとRSウイルスの症状はとてもよく似ています。
症状だけで2つを区別することはできないでしょう。
それでも違いがいくつかあります。
別の記事に、このウイルスの違いを書きました。
ヒトメタニューモウイルスの重症化因子
ヒトメタニューモウイルス肺炎は、多くが自然に治ります。
でも中には呼吸が苦しくなって、酸素投与が必要なために入院するケースもあります。
そして、酸素投与でも呼吸が苦しいため、人工呼吸管理が必要になる重症例もあります。
ヒトメタニューモウイルスが重症化する因子はなんでしょうか。
日本小児科学会雑誌2017年1月号に「小児のヒトメタニューモウイルス感染症の重症化因子」という論文があります。
東京都立小児総合医療センターにおいて、73人のヒトメタニューモウイルス陽性の子どものうち、15人(21%)が小児集中治療室での治療を要する重症例であったと報告しています。
(実際のヒトメタニューモウイルスの全体像としては、21%も重症にはなりません。東京都立小児総合医療センターにはそもそも重症例が多く搬送されていると考えるべきです)
今回の論文では、心疾患、呼吸器疾患、先天性奇形症候群について重症化因子であると考えられました。
また、ネルソン小児科学には、ヒトメタニューモウイルスとRSウイルスの混合感染は重症化しやすいと書いてあります。
今回の論文では、ヒトメタニューモウイルスとRSウイルスの混合感染は2例で、いずれも軽症だったようです。
(症例数が少ないため、混合感染が重症化因子であるかどうかについては言及できません)
まとめると、心疾患や喘息など、何らかの基礎疾患があるとヒトメタニューモウイルスは重症化しやすいということになります。
これは過去の報告とも矛盾しません。
ヒトメタニューモウイルスの臨床的特徴
さきほどの論文は、呼吸がかなり苦しくなって小児集中治療室で治療が必要となるパターンと、あまり呼吸がしんどくならずに軽快するパターンとの2つに分けて、解析をしました。
いっぽうで、ヒトメタニューモウイルスをたくさん診ていると、高熱が出るパターンと、ぜーぜーとした喘鳴が目立つパターンがあります。
Clinical and genetic features of human metapneumovirus infection in children(Pediatr Int. 2016; 58: 22-6.)に、ヒトメタニューモウイルスの臨床経過について報告があります。
韓国の報告で、ヒトメタニューモウイルス感染症を発熱の程度で3つのグループに分けました。
- 高発熱(HF)群:発熱が最高39.5度以上または7日以上持続した子ども。
- 低発熱(LF)群:発熱が最高で38.5度未満の患者または持続期間が72時間未満の子ども。
- 中等度発熱群:その他。
ヒトメタニューモウイルス感染の臨床的特徴をHF群とLF群間で比較しました。
457人のヒトメタニューモウイルス感染症のうち、80人がHF群、84人がLF群に分類されました。
平均好中球数(5625/μL対4072/μL)とCRP(2.39mg/dL対0.96mg/dL)はHF群で高く、喘鳴(5.0%対32.1%)と呼吸困難(2.5%対15.5%)はLF群で多くみられました。
(つまり、高発熱群のほうが炎症反応が高かったという結果でした)
2つの群に年齢や性別に有意差はありませんでした。
ヒトメタニューモウイルスには遺伝子型によってA1、A2a、A2b、B1、B2に分けられますが、両群の遺伝子型分布は同様でした。
私もヒトメタニューモウイルスの子どもを診療していて、高熱が出るパターンと、ぜーぜーとした喘鳴が目立つパターンを感じていました。
この論文を読んだ感想としては、どちらの群にも当てはまらないタイプも多く、457人中293人は、高熱が出るパターンでも、ぜーぜーとした喘鳴が目立つパターンでもないということが分かりました。
高熱が出るパターンと、ぜーぜーとした喘鳴が目立つパターンに分けられるのは、ヒトメタニューモウイルス感染症の36%でしかありませんので、この2パターンでヒトメタニューモウイルスを語っても、全体像とかけ離れる可能性を感じました。
その上で、HF群は採血上炎症反応が高い傾向にあり、二次感染の要素を感じました。
LF群に喘鳴が多いのは、熱が低いのに病院を受診するからには、何らかの別の理由が必要で、それがヒトメタニューモウイルス感染症の場合は喘鳴だったのかなと思いました。
遺伝子型によって臨床経過が変わらないというのが分かったのも、大きな収穫でした。
まとめ
- ヒトメタニューモウイルスの症状はカゼと似ており、基本は対症療法である。
- 検査キットはあるが、検査するには肺炎の証拠が必要。
- 心疾患や喘息など、何らかの基礎疾患があるとヒトメタニューモウイルス肺炎は重症化しやすくなる。
- ヒトメタニューモウイルスには高熱が出るパターンと、ぜーぜーとした喘鳴が目立つパターンの2パターンを経験するが、それはヒトメタニューモウイルス感染の一部である。また、遺伝子多型や年齢や性別によって臨床経過が変わるわけではない。
このページを見てくださっている人の中には、自分のお子さんがヒトメタニューモウイルスにかかって、心配で情報を集めている人もいると思います。
重症化因子がなければ重症化しないというわけではありませんが、たとえ熱があって咳があっても、機嫌よく、水分も摂れているのであれば、自然になおると考えられます。
私はアレルギー分野に興味があるので、やはりヒトメタニューモウイルスの重症化因子に気管支喘息があるというのに興味があります。
ヒトメタニューモウイルスで入院する子どもを減らすためには、喘息のコントロールが大切だとあらためて思いました。