ロタウイルスをどう防ぐ?ワクチンの費用対効果。

疫学

世界全体では、ロタウイルスは5歳未満児において年1億1100万例を超える下痢症例を引き起こすと推計されている。このうち1800万例が少なくとも中等度と考えられ、死亡は年約50万例である。米国では、ロタウイルスによる下痢症の症例数は年300万例、入院は8万例、死亡は20~40例である。

ネルソン小児科学 第19版

衛生状態が改善されている日本でも、ロタウイルスによる死亡者こそ稀ですが、感染者数はとても多いです。
6カ月から2歳をピークに、5歳までに世界中のほぼすべての児がロタウイルスに感染し、胃腸炎を発症するとされています。

予防

手洗いや、吐物のあとを消毒するなどで、多少はロタウイルスの蔓延を防ぐことができます。
しかし、その効果は限定的です。

ロタウイルスを予防するのにもっとも効果的なのは、ワクチン接種です。

ロタウイルスワクチン

2017年現在、日本では2種類のロタウイルスワクチンが認可されています。
上記の画像にあるように、ロタウイルスワクチンはシロップです。
飲むことで効果があります。
注射ではないのが特徴です。

また、生ワクチンと呼ばれるタイプで、接種後に別のワクチンを接種する場合は27日以上空けなければいけません。

ロタリックス

1価のワクチンです。
ロタウイルスには主に5つの血清型(G1、G2、G3、G4、G9)があり、このワクチンは特にG1に効くとされますが、不思議なことにG1以外の血清型にも効果があります。

小児科学会の推奨としては、生後8~15週未満に1回、4週以上の間隔を空けて生後24週までのもう1回接種します。

費用は1回14000~15000円です。
2回飲みますので、合計28000~30000円かかります。

ロタテック

5価のワクチンです。

小児科学会の推奨としては、生後8~15週未満に1回、4週以上の間隔を空けて生後32週までにあと2回接種します。

費用は1回9000~10000円です。
3回飲みますので、合計27000~30000円かかります。

ワクチンの効果

ネルソン小児科によると、重度のロタウイルス胃腸炎に対する有効性は74-98%で、ロタウイルス腸炎による入院を96%減らし、あらゆる下痢による入院を42%減らしたと報告されています。

ワクチンの副作用

1998年に米国で承認された3価ロタウイルスワクチンは、腸重積を増やすとして1999年に回収されたという不名誉な歴史があります。

現在日本で認可されているロタリックス・ロタテックいずれも、腸重積については非常に注意が払われています。
初回接種後の7日以内は、腸重積がごくごく稀ですが発症するのではないかと言われており、注意が必要です。

腸重積は一般的に生後6か月以降で発症しやすくなります。
ロタウイルスワクチンが乳児期早期に接種される理由は、腸重積にならないようにするためです。

ロタウイルスワクチンは接種したほうがいいのか

小児科外来で、よくお父さん・お母さんに質問されます。
ロタウイルスワクチンはしたほうがいいですか、と。
これは、本当に答えるのが難しい医質問です。

お父さん・お母さんが質問するのは、おそらくこのような疑問からです。

  • ワクチンが高すぎる。
  • 効果がどれくらいあるか分からない。
  • そもそも予防する意味があるのか分からない。
  • 副作用が怖い。

一つずつ答えていきましょう。

ワクチンが高すぎる

確かに高いです。
約3万円かかりますので。

自治体によっては、助成をしてくれるところもあります。
ですが、ほとんどの地域で3万円が実費でかかってきます。

ですが、入院が必要となるリスクを大きく下げるのも事実です。
入院となれば、お父さん・お母さんのどちらかまたは両方が仕事をお休みしないといけないかもしれません。
そうなると、3万円以上の損失も起きえます。

2歳までに保育園に行かせようと思っていたり、共働きをしようと考えていたりする場合には、3万円以上の価値があるかもしれません。

効果ががどれくらいあるか分からない

前述の通り、ロタウイルス腸炎による入院を96%減らし、あらゆる重症度のロタウイル腸炎を74%減少させます。
インフルエンザの予防接種の有効性が25~33%くらいと言われていますので、それに比べるとロタウイルスワクチンは非常に有効なワクチンです。

そもそも予防する意味があるのか分からない

日本では重症のロタウイルス腸炎で脱水になっても、すぐに点滴されます。
深夜でも、日曜日でも、どこかの応急診療所が診てくれるという手厚い医療システムがあります。

そのため、死亡は年約50万例のロタウイルスですが、日本での死亡者は稀です。

ですが、ロタウイルス腸炎で入院する患者さんはやはり多いです。
3月から5月はロタウイルス腸炎の子どもたちで、小児科病棟は溢れています。

入院期間は2-4日くらいですが、そのあいだお父さんかお母さんは仕事を休まなければいけません。
他にきょうだいがいた場合は、そのきょうだいを誰が見るのかという問題も出てきます。

ロタウイルスで入院となるとやはり大変です。
予防する意味は十分にあると思います。

副作用が怖い

腸重積はワクチン接種前に必ず説明しなければいけないリスクです。
初回接種が生後15週未満であれば、腸重積のリスクは低いとされます。

腸重積はなってもすぐに診断して整復できますので、生死に関わるようなリスクとは言えません。
ですが、待ってたら大抵治ってしまう胃腸炎と比べると、待ってても治らない腸重積のほうが怖いという心理はよく分かります。

リスクとメリットをてんびんにかける必要があります。

私はこう勧めている

私はどうしているかというと、場合によっては接種を勧めています。

  • 共働きである。
  • きょうだいがいる。
  • 2歳までに保育園に入れる予定がある。
  • 子どもにとってのおじいちゃん・おばあちゃんの家が遠くて、万が一子どもが入院になったときにサポートが得にくい。

どれかが当てはまるときは、接種を勧めます。
といっても、やはり3万円という値段はネックで、すべての人が受けるわけではありません。

女性の社会進出にともなって、共働きの世帯がこれからもっと増えることを考えると、ロタウイルスワクチンの定期接種化はぜひしてほしいと感じています。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。