子どもたち一人ひとりを包括的にとらえた医療、保健を実践している日本小児科学会は、
1)小児科専門医は「子どもの総合医」であること、その領域は、成育医療も含め広範囲であると考えます。2)子どもたちの生活の「質」と「安全・安心」を確立する観点から、日本の総合医体制の充実を図ります。また、「子どもの総合医」としてのさらなる能力向上のため、今まで以上の研修・生涯教育システムを構築します。小児科専門医は「子どもの総合医」として、子どもたちの生活の質と安全・安心のために活動していきます。
この記事は2017年1月8日に公開しました。
2017年3月12日に関連記事を追加しました。
このページの目次です。
総合医とは何か
総合医というのは、いわゆる何でも屋さんです。
買い物にたとえるなら、魚が欲しければ魚屋さん、野菜が欲しければ八百屋さん、服が欲しければ服屋さん、庭の手入れがしたければホームセンターなどなど、それぞれのお店には専門分野があります。
循環器内科とか、皮膚科とか、眼科とかそういうのは、その分野のスペシャリストの人たちです。
でも、今日の晩ご飯を魚にしようか肉に使用か、ぱっと決められない時もありますよね。
そういうとき、スーパーマーケットに行くと便利です。
スーパーマーケットには魚も肉も野菜も置いてあります。
場合によっては、服や大きなシャベルだって売っているかもしれません。
(服やシャベルは晩ご飯には関係ありませんが。余計なものもたくさん置いてあるのがスーパーマーケットのいいところですが、余計なものを買って無駄遣いしてしまうという点で悪いところでもあります)
何でも売っているスーパーマーケットが総合医のイメージです。
何でもできる内科の先生を「一般内科医」、「総合内科医」または「総合診療科医」といいます。
そして、何でもできる小児科の先生を……これは単に「小児科医」と言います。
小児科医は小児科学会のホームページで掲げられているように、そもそも何でもできることが前提です。
何でもできるは何にもできない?
何でもできるなんて、小児科医はすごいなあと思ってくださると嬉しいのですが、実は何でもできるようで、その道の専門家には遠く及びません。
スーパーマーケットでたとえるなら、魚も肉も服もなんでも置いてはいるものの、その品ぞろえはあまりよくないのです。
そういう意味では、スーパーマーケットというより、小さなコンビニエンスストアのほうが近いかもしれません。
売れ筋商品(頻度の多い疾患)については各種そろえてはいるけれど、あまり売れない商品(珍しい疾患)については置いていないことが多いのです。
コンビニは便利ですが、売っていない商品も多いですよね。
本当はコンビニだって、いろんな商品を置きたいと思うんです。
でも、売り場面積は決まっています。
店舗の大きさ、倉庫の大きさは決まっています。
すべての商品を店頭に並べることはできません。
小児科も同じです。
どんな病気も専門家と同じくらいに深く知っていたいのですが、勉強できる時間には限界があります。
どうしてもその道ばかりを勉強する専門家の知識には負けてしまいます。
小児科は「何でも診ます」と言っている割には、「ちょっとうちの病院では分かりませんね……」という返事が返ってくるかもしれないのです。
総合医に求められること
例1:キツネノテブクロ
あなたは「キツネノテブクロ」というものを買ってきてほしいと頼まれました。
キツネノテブクロが何であるか分かりません。
肉屋さんに行ってみました。
「キツネ? そんなのうちには置いてないよ。うちにあるのは牛と豚と鶏だけだよ」
服屋さんに行ってみました。
「手袋はあるけれど、キツネ用はないね」
コンビニに行きました。
「キツネノテブクロ? ああ、ジギタリスのことだね。うちには置いてないけれど、この先の花屋さんには売ってたよ」
あなたは無事、花屋でキツネノテブクロを買えました。
例2:2か月続く胸痛
35歳の男性がいます。
2か月前から胸が痛いです。
そのうちおさまるだろうと思って様子を見ていましたが、むしろ最近では痛みが強くなってきています。
まず循環器内科に行きました。
「心臓に異常はないですね。よそに行ってください」
呼吸器内科に行きました。
「肺に異常はないですね。よそに行ってください」
整形外科に行きました。
「肋骨に異常はないですね。よそに行ってください」
次はどこに行けばいいのか分からず、困ってしまいました。
高い診断能力
例1のコンビニの店員さんこそが、理想的な小児科医です。
すべての商品をそろえる必要はありません。
でも、それがどこで手に入るかを知っているのが、すぐれた総合医です。
例2のケースは内科のケースですが、求められるのはまさに総合医としての能力です。
総合医には高い診断学が必要です。
その病気が何なのかを診断するのが総合医です。
例2においては、このあと総合内科医が丁寧に診察し、エコーを胸、お腹に当てることで、胆石を見つけました。
あとは消化器内科か肝胆膵外科に紹介すれば大丈夫です。
餅は餅屋というくらいですから、治療は専門家にお任せすればいいのです。
しっかり診断をつけて、どこの科に行けばいいのかをアドバイスしてあげるのが総合医です。
小児科医に必要なのは、高い診断能力なのです。
小児科医に必要な能力
- 高い診断能力。
- どんな病気でも「断らない」精神力。
- 横断的で包括的な医療を実践する総合力。
診断力が必要であることは、先に示した通りです。
すべての小児科医が白血病の治療をできる必要はありません。
ですが、白血病かもしれないと思った場合は、すぐに骨髄検査ができる病院に紹介できる能力は持っていないといけません。
また、どんな病気であっても診るのが「総合医」ですから、「これはちょっと専門じゃないので、他の病院へ行ってください……」と断ってはいけません。
専門でないのなら、専門で診てくれる病院に紹介状を書くのが原則です。
そして、病気という個々のものにとらわれず、その子ども全体をバランスよく診なければなりません。
アトピー性皮膚炎の子どもは、喘息にもアレルギー性鼻炎にも食物アレルギーにもなるやすいことが知られています。
すべての病態を包括的にとらえ、アドバイスするのも小児科医です。
アトピー性皮膚炎は皮膚科で、喘息は呼吸器内科で、アレルギー性鼻炎は耳鼻科で、食物アレルギーはアレルギー科で、というスタンスは決して悪くありませんが、さらに全体のバランスを考えるポジションとして小児科が介入するのが理想です。
さらに付け加えるなら、高いコミュニケーション能力も小児科医には必要です。
これがどのような状況で必要となるかは、こちらの記事に書いています。
まとめ
- 小児科医は子どもの総合医である。
- 総合医に求められるのは、高い診断能力である。
いろいろ書きましたが、とにかく言いたいのは「ぜんぶ小児科で診ます」ということです。
もしよろしければ、こちらも併せてお読みください。