インフルエンザで熱性けいれん!?症例提示part2。

注意事項:個人情報保護の観点から、この記事の症例提示は架空のものとなっております。ここに登場する患者の名前・年齢・性別・検査データ・臨床所見などは、科学的な矛盾が生じないように配慮されつつ、すべて架空のデータであることをご了承ください。

3歳のみくちゃんは39.5度の高熱と咳、鼻汁でしんどそうです。
翌日、病院でインフルエンザと診断され、タミフルを処方されました。

そして今、薬局でタミフルの処方を待っているところです。
インフルエンザと診断されるまでの過程を詳しく知りたい場合は、part1の記事をお読みください。

インフルエンザで熱性けいれん!?症例提示part1。

2017年1月5日

熱性けいれんの症例提示

わが子の様子がおかしい!?

薬局の待合室でイスに座っていたみくちゃん。

突然、イスから滑り落ちて、床に倒れこんでしまいます。

みくちゃんのお母さんが慌てて体を抱き起そうとします。
ですが、みくちゃんの体はすごく力が入っていて、うまく抱き起せません。

顔を見ると、目が大きく見開いているのですが、視線は上のほうを見つめており、ほとんど白目になっています。
口からは泡が出ています。
顔色はなんとなく白いです。
ぴんと伸ばした腕は、やがてがくがくと大きく曲げたり伸ばしたりを繰り返しだします。

みくちゃんのお母さんが慌てていると、薬局の薬剤師さんがすぐに救急車を呼びました。

小児科専門医からのワンポイント
ここではすぐに救急車を呼んでいますが、もしこの薬剤師さんが子どものけいれんに慣れた人であれば、子どもの体位を整えた後、5分くらい様子を観察したかもしれません。

5分ほどして、救急車が到着しました。
そのときには、みくちゃんは目を閉じており、おだやかな呼吸をしています。
白かった顔色も、赤みが戻っています。

救急車で大きな病院へ

救急外来のある大きな病院へみくちゃんは搬送されました。
みくちゃんは目が覚めており、お母さんにしがみついています。
救急車が揺れたので、怖かったのかもしれません。

お母さんもわが子に何が起きたのか分かりません。
まさか自分の子どもが救急車で運ばれるなんて。
お母さんもまた、不安でいっぱいです。

小児科専門医からのワンポイント
救急車はサイレンがけたたましく、救急隊員も勢いよくやってくるので、お母さんはすごく不安になることが多いです。また、救急車は狭い道でも入れるように、思った以上に小型な車です。中は窮屈で、しかもすごく揺れます。

大きな病院につくと、小児科医の先生が色々と質問してきました。

  • 様子がおかしいと思ったとき、どんな様子でしたか?
  • 手足のがくがくに右と左で違いはありましたか?
  • 様子がおかしいのは何分くらい続きましたか?
  • 家族に熱性けいれんをした人がいますか?
  • 家族にてんかんの人はいますか?

みくちゃんのお母さんは、状況を思い出しながらこう答えました。

  • 突然イスから落ちた。白目になって口から泡が出ていた。顔色が悪くなった。手足がぴんと張った後、がくがくと大きく動き出した。
  • 動きに左右差はなかった。
  • 3分くらいでおさまったと思う。
  • 自分が小さいときに熱性けいれんをしたかどうかは知らない。旦那がけいれんしたかどうかも知らない。
  • 少なくても自分と旦那はてんかんではない。親戚でもてんかんの人の話は聞いたことがない。

小児科の先生は、みくちゃんにもいくつか質問をしました。
みくちゃんは先生に対して警戒しているようで、質問には答えられませんでした。
みくちゃんは不安な顔をして、お母さんの胸にしがみついています。

小児科専門医
「おそらく、インフルエンザによる熱性けいれんでしょう。意識状態もよさそうですので、脳炎や脳症の心配は今のところありません。初めてのけいれんですから、念のため血糖値や体の代謝が分かる検査(血液ガス検査やアンモニアの測定)をしますね」

小児科の先生はそう言った後、こう付け加えました。

小児科専門医
「お母さんも不安だったでしょう。大丈夫ですよ。短時間の熱性けいれんでは、命に関わることも、後遺症が残ることもまずありません

小児科の先生の言葉に、みくちゃんのお母さんはようやく安心できました。

小児科専門医からのワンポイント
熱性けいれんを起こしたとき、よく頂く質問として「てんかんになりやすいというのは本当ですか?」があります。
この問題は非常にデリケートで、一言では書けません。
熱性けいれん後のてんかん発症頻度とてんかん発症関連因子については、別の記事にしました。

熱性けいれんはてんかんの原因にはなりません。

2017年5月4日

血液検査の結果

血液検査で、血糖に問題がないことや、体に二酸化炭素や乳酸がたまっていないことが分かりました。
大きな異常はなかったようです。

小児科専門医からのワンポイント
ここでは、低血糖や電解質異常、代謝異常によるけいれんでないことを確認しています。
しかし、採血検査はルーチンに行う必要はありません。熱性けいれん診療ガイドライン2015において、「けいれん時に血液検査をルーチンに行う必要はない」とされています。
同ガイドラインでは、全身状態が悪く重症感染症を疑う場合や、けいれん後の意識障害が遷延し低血糖を疑う場合や、脱水所見があり低ナトリウム血症を疑う場合に採血検査をするように推奨されています。熱性けいれん診療ガイドラインはMindsという手法で作成されていて、とても読みやすいです。
小児科医、救急医であれば一読をおすすめします。

血液検査の時に、同時に点滴を取ってもらえたようです。
タミフルをまだもらっていない状況でしたので、点滴薬のインフルエンザのお薬であるラピアクタを点滴してもらいました。

けいれんしたらどうする?

点滴が終わるのを待っている間に、みくちゃんのお母さんはわが子がけいれんしたときに何をしてあげればよかったのかを考えていました。
そして、小児科の先生に相談してみました。

小児科専門医
「そうですね。とにかく、あわてないことです。落ち着いて、様子を観察しましょう。よく口から泡が出たり、吐いてしまったりするので、体と顔を横に向けてあげると吐いたものがのどに詰まりにくくなります。まれに、舌を噛まないようにと口の中にハンカチを詰める人がいますが、窒息の原因になるのでやめてください。たくさん服を着てるときは、上着を緩めてあげると呼吸がしやすくなります。何分続いたのかは大事な情報なので、おかしいと思った時間を覚えておくと、僕らも助かります」

救急車を呼んだ方がいいの?

先生の話によると、熱性けいれんは4歳くらいまではよく起きるようです。
みくちゃんも今後また痙攣する可能性があるということでした。

それを聞いて、お母さんはまた不安になります。
また痙攣したら、すぐに救急車を呼んだ方がいいのでしょうか。

小児科専門医
「実は難しい問題です。よく医療の指導書には、けいれんが5分続けば救急車を呼んで、5分以内におさまれば、あわてず病院に連絡して指示を待つようにと書いてありますけど……。実際にわが子がけいれんしたら、5分ただ見ているのってすごく怖いですよね。すぐに救急車を呼びたくなる気持ちも分かります。例えばこういうのはどうでしょう。もしまたけいれんした場合は、まずは体を横に向けて、衣服を緩める。そして、顔色や手足の動かし方などをしっかり観察する。そのあとに救急車を呼ぶのですが、電話を操作しているあいだにけいれんが止まった場合は、救急車を呼ぶのをやめて、病院に連絡する」
お母さん
「それならできそうです」

小児科の先生の説明で、お母さんは納得できました。

その後

1時間ほど点滴をしながら状態を観察し、みくちゃんの意識が悪くならないことを確認し、帰宅となりました。

小児科専門医からのワンポイント
熱性けいれん診療ガイドライン2015では、入院基準として以下を目安としています。
けいれんが5分以上続いて、抗けいれん薬を要した場合、髄膜炎症状を認める場合、30分以上の痙攣重積を認める場合、全身状態が不良または脱水所見が見られる場合、けいれんが1つの発熱の中で繰り返し起きる場合です。ですが、入院の基準は施設や地域によって異なります。小児科の対応ができる夜間応急診療所が近くにないような地域では、夜中に再度けいれんしたときの対応が遅れますので、入院しておいたほうがいいと思います。

翌日には熱が下がり、元気になりました。
熱は下がりましたが、保育園には発症から5日(および解熱後2日)たたないと登園できないということでした。

熱が出てから5日たったときに、もう一度小児科を受診し、登園許可証をもらいました。

小児科専門医からのワンポイント
たとえば6月1日にインフルエンザで発熱した場合、最短でも学校にいけるのは6月7日です。また、熱が下がったのが6月5だった場合、学校に行けるのは6月8日からとなります。

 

症例のまとめ

  • わが子がけいれんしても、あわてない。
  • 体ごと顔を横に向かせて、何分続くのか観察する。
  • たいてい5分以内に止まるので様子をみていいのだが、5分以上続く場合は救急車を呼ぶ。5分以内におさまったとしても、病院に連絡して指示を待つ。

私がけいれんを何十人も見てきて思うことは、けいれんかどうかで大事なのは目だと思います。
手足の動きよりも、目でけいれんかどうか判断するのがよいです。
目を見開いて、白目になったり、どこか一点を見つめていたりするときは、けいれんかもしれません。
また、けいれんが本当に止まったかどうかの判断は意外と難しいので、けいれんが短時間で止まったと思っても、必ず病院に連絡しましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。