昔は牛乳アレルギーではなかったのに、除去して牛乳アレルギーになった。

牛乳アレルギーではない11歳女子が、湿疹が続くという理由で牛乳IgE検査を受け、結果陽性だったために除去されました。
それまで牛乳を飲んで平気だったのに、医師の勧めで牛乳を除去するようになりました。

7年後、18歳のときに、誤って乳製品を食べてしまったところ、喘鳴やじんましんなどの致命的な反応が出現しました。
7年間の牛乳除去によって、牛乳アレルギーになってしまったかもしれないという報告です。

Fatal allergy as a possible consequence of long‐term elimination diet(Allergy 2004)

今回は、「昔は食べられたのに、久々に食べたらアレルギーになってた」という現象について考えてみます。

昔は食べられたのに、久々に食べたらアレルギーになってた

「昔は大丈夫だったのにー」という現象は、口腔アレルギーではしばしばあります。
口腔アレルギーというのは、トマトやメロンやリンゴなどで口がかゆくなったり、喉がイガイガしたりするアレルギーです。
これは、花粉症がきっかけとなるので、花粉食物アレルギー症候群とも呼ばれます。

花粉症がある程度大きくなってから発症するように、花粉食物アレルギー症候群も乳幼児期にはまず発症しません。
花粉症の発症とともに、花粉食物アレルギー症候群が発症します。
そのため、「昔はトマト大丈夫だったのに、今はトマトで口がー」ということになります。

いっぽうで、牛乳や卵などでは、「昔は食べられたのにー」という報告はあまりありません。
冒頭に書いた牛乳除去によって牛乳アレルギーとなった少女も貴重な報告の一つです。

2018年のイスラエルの報告もまた価値が高いので、紹介します。
Food allergy to previously tolerated foods: Course and patient characteristics. Ann Allergy Asthma Immunol. 2018; 121: 77-81.e1.

以前は食べられた食物アレルギーの経過と特徴

さあ、さっそく論文を読んでいきましょう。

イントロダクション

IgEを介した食物アレルギーは、先進国での有病率が増加している生命を脅かす疾患です。
食物タンパク質は無害な非自己抗原で、重要な免疫反応を引き起こすことなく消化管から吸収されます。
食物タンパク質に対する一次免疫寛容の発現機構は、まだよくわかっていません。

IgEを介した食物アレルギー患者のほとんどは、乳児期または小児期で、特定の食品を最初に食事にたべた後に症状が現れます。
この経過は、特に牛乳、卵、およびピーナッツで一般的です。
したがって、「以前に摂取して大丈夫だった食品」に対して何らかの症状が出た場合は、IgEを介したものではないと考えられ、これらの患者のほとんどは、消化不良や、牛乳の場合は乳糖不耐症を考えるべきです。

しかし、まれに、以前は摂取できていた食品に対して、患者が食物アレルギーを発症することがあります。
これらの患者の中には、重症のアトピー性皮膚炎の治療計画として、特定の食物を意図的に除去した後に食物アレルギーを発症した患者もいました。

方法

2012年1月から2016年6月までの間に、Assaf-Harofeh医療センター(イスラエル)の食物アレルギーセンターに紹介された患者を、対象としました。
少なくとも4ヶ月間食べて問題がなかった食品に対して、IgE介在性アレルギー反応(食物摂取後2時間以内の皮膚、眼球、呼吸器、消化器系の病変、ショック)を集めました。
食物アレルギーの診断は、プリックテストと食物経口負荷試験の両方が陽性であることとしました。
また、アレルギーで死亡した患者も1人追加しています(この患者は死亡してしまったため、プリックテストや負荷試験ができていません)。

食物経口負荷試験では、腹痛の主観性を考慮して、評価しません。
口腔および口腔周囲の徴候および症状も、接触性皮膚炎とみなされ、評価しません。

23人の患者が、「以前は食べられた食品に対する食物アレルギー」と診断されました。(1人は死亡しているのでプリックテストと負荷試験をしていない)
牛乳が18人、卵が2人、ピーナッツが3人でした。(死亡したのは牛乳)

年齢は生後6カ月から49.5歳まで多岐にわたりました。
平均年齢は20歳ですが、小児例も含まれています。

23人中18人は、アトピー素因を持っていました。
23人中12人はアトピー性皮膚炎と診断されていました。このうち8人は重度のアトピー性皮膚炎でした。

結果:原因食物を除去していた期間

23人中19人が食物アレルギー発症前に原因食物を除去していました。
除去期間の中央値は45週でした。
16人は、除去期間が少なくとも4週間以上で、残りの3人では7~14日の短い除去期間でした。

除去が意図的だったのは16人で、その中には代替医療として食物を除去した患者が2人、医師の薦めで食物を除去した患者が10人含まれており、その中にはアレルギー専門医8人、皮膚科専門医1人、小児科専門医1人が含まれていました。
血液検査やプリックテストの結果で、アレルギー専門医と皮膚科医によって除去が行われていました。

ほとんどの患者で除去期間が認められましたが、4人の男性患者では、明らかな除去期間は報告されませんでした。
これらの患者は、原因食品(1人は卵、3人は牛乳)を日常的に摂取していました。
これらの患者のうち3人にはアトピー歴がなく、年齢的な傾向は認めらませんでした。

考察

これまで安全に摂取できていた食品に対するIgE介在性食物アレルギーの発症はまれです。
過去30年間に行われた研究で、数十人の患者を対象とした限られた数の研究が報告されていますが、そのほとんどで、診断確定のための食物経口負荷試験が行われませんでした。
我々の知る限りでは、この論文は診断を負荷試験で確定させた最大の研究です。

イスラエル(人口約800万人)という小さな国で、わずか4年の間に比較的多くの患者が発症したことは、懸念材料ではあります。
一つの可能性としては、過去10年間で食物アレルギーに対する意識が高まり、プリックテストや血液検査で感作が認められた場合には食物を避けるように医師から指示されていることが考えられます。

今回の「以前は食べられた食物アレルギー」は、口腔アレルギーとは違います。
今回のアレルギーは、全身性の反応です。

「以前は食べられた食物アレルギー」は、除去と関連しそうです。
アトピー性皮膚炎を悪化させる食物の診断およびその治療のために、感作のある食物を4週間除去することが、一部の臨床医によって推奨されています。
この治療法は、9つの無作為化比較試験とコクラン・レビューによって、「アトピー性皮膚炎に牛乳と卵の除外は効果がない」と結論づけられているにもかかわらずです。

我々の研究は、約半数でアトピー性皮膚炎の既往歴があり、ほぼ全員が意図的または非意図的な食物除去をしていました。
この結果から、感作がある食物を安全に摂取できているアトピー性皮膚炎患者に食物除去をする場合には、食物アレルギーを発症するリスクを考慮しなければなりません。
逆に、食物アレルギーのリスクを防ぐために、患者はこれらの食品を定期的に摂取するように勧められるべきです。

ある症例報告では、小麦を継続的に摂取している間、小麦に対する特異的IgE値は低下しました。
小麦を完全に除去した後は、この傾向は逆転し、致命的なアナフィラキシーエピソードの前に、小麦に対する特異的IgE値は徐々に最大値まで上昇しました。
この原因は、一つの可能性として、IgG4の保護的役割が考えられます。

結論

「以前は食べられた食物アレルギー」は小児および成人に発現し、意図的に食品を除去した後に発症しやすいです。
これらの患者は、アナフィラキシー反応や致死的反応のリスクが高くなります。
医師は、除去食の開始を検討する際には、慎重であり、リスクを認識していなければなりません。

感想とまとめ

食べないでいるとアレルギーは発症してしまうかもしれないという報告でした。
これは、少し食べているとアレルギーがだんだん治っていくのと対照的です。

アレルギーが発症してしまう除去期間は、中間値で45週間でした。
ですが、冒頭の症例のように7年間牛乳を除去して牛乳アレルギーなった少女もいますし、逆に日常的に摂取していてもある日突然卵・牛乳アレルギーになってしまった報告もありました。
毎日食べていても、食物アレルギーになることはありえますが、今回の論文では稀なケースでした。

ピーナッツなんかは、私は最近食べたのがいつか思い出せないくらいです。
知らず知らずに数か月除去していることはあるでしょう。
「毎日ピーナッツを食べないと!」というのは無理があるでしょう。
幸いにも、ピーナッツの報告も、今回の論文では稀なケースでした。

今回の報告に多かった牛乳については、意図的にならなければ除去は難しいです。
牛乳蛋白はパンにもハムにもクッキーにもカレーにも使われています。
乳を日常生活から排除するには、かなり努力しなければなりません。
そしてその努力は、牛乳アレルギーを発症するリスクを高めます。

なお、今回とりあげた論文は、すでにほむほむ先生が記事にしています。
ほむほむ先生は検査に関する部分を重視して紹介されています。
勉強になります。

長々と書きましたが、伝えたいメッセージはたった一言です。

安易な食物除去は、食物アレルギーのリスクです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。