アレルギー専門医試験を振り返る:②食物アレルギー。

2020年のアレルギー専門医試験を振り返るコーナー。
第2回は食物アレルギーについてです。

食物アレルゲン

  • ピーナッツ Ara h 2。
  • オレンジ Cit s 3。
  • リンゴ Mal d 4。
    Mal d 1は花粉症と関連する花粉食物アレルギー(PFAS)で熱に弱い。
  • モモ Pru p 3 LTP(脂質輸送蛋白)である。
    Pru p 1はPFAS。
  • 大豆 Gly m 1(主要抗原)
    有名なGly m 4 はPFASであり、主要アレルゲンではない。カバノキ科(シラカンバBet v 1、ハンノキ)花粉と交差抗原性を有する。豆乳のように加工の程度が低いと発症する。
  • Ana o 3はカシューナッツアレルギー診断に期待されている。
  • ロブスターとカニは交差する。
  • ラテックスとバナナは交差する。
  • 魚コラーゲンと豚コラーゲンは交差しない。

新生児-乳児食物蛋白誘発性胃腸炎

  • 体重増加不良が目立つのは小腸に障害あり。
  • 鑑別疾患は好酸球性胃腸炎や乳糖不耐、代謝疾患、リンパ濾胞過形成。
  • 発達や貧血、必須脂肪酸欠乏に注意。
  • 除去試験だけでは診断できない。負荷試験が必要。
  • 組織診で好酸球脱顆粒像がみられる。

食物依存性運動誘発アナフィラキシー

  • 中学生の有症率は0.0085%。
  • ウォーミングアップで症状を抑制できるが、絶対に予防できるわけではない。
  • ランニング、中距離・長距離走など負荷が大きい運動で多い。いっぽうで、散歩や家事程度でも出願することがある。
  • 気道上皮の浸透圧変化が関与する。サブスタンスPが関与。
  • 負荷試験では、被疑食品摂取30分後に運動負荷をする。ロイコトリエン受容体拮抗薬は24時間前に服用中止して検査する。
  • 負荷試験陰性では、被疑食品摂取30分前にアスピリン投与を行う。それでも運動負荷試験の感度は100%ではなく、陰性で除外はできない。
  • 原因食物のIgE抗体陽性率は80%。
  • 男女比4:1で男子に多い。いっぽう、女子では月経が増悪因子となる。
  • DSCGが予防に有用とする報告はあるが、十分なエビデンスではなく、保険適用もない。
  • NSAIDsで誘発されやすい。

アナフィラキシー

  • 気管支喘息はアナフィラキシーの重症化のリスクファクター。
  • ACE阻害薬も重症化ファクター。
  • エピペン®は乳幼児でも処方可能。3歳以下でも2歳以下でもOKだが、体重は一定以上必要。11kgでOKとする医師や、14kgでOKとする医師など、施設によって考え方はさまざま。
  • 注射は本人か保護者が行うのが原則だが、緊急時は保育士や教師の使用も許されている。
  • アナフィラキシーショックの場合は、ステロイドの即効性は期待できない。
  • 直ちにアドレナリンの投与(皮下注射ではなく筋肉注射)が必要である。効果が見られなければ、必要に応じて5-15分ごとに反復投与する。
  • アドレナリン以外の薬(ステロイド、抗ヒスタミン薬やβ2吸入など)はすべて第二選択。
  • 食物による即時型アレルギーでアナフィラキシーショックに至るのは10%程度。
  • 呼吸促迫があれば、低酸素血症がなくてもすぐ酸素投与。
  • 二相性の反応(ロイコトリエンに伴う遅発性の反応)が成人の20%、小児でも約10%みられる。
  • 軽症の皮膚、粘膜症状であれば、直ちにエピペン®を使う必要は無い。
  • 死亡数は食物よりハチ刺傷によるものが多い。

食物経口負荷試験

  • 9歳未満の小児で、基準を満たした施設では保険適応で検査が行われている。
  • 施設基準:小児科を標榜していること、小児食物アレルギー診断治療の経験を10年以上有する小児科医が常勤で1名以上いること、急変時対応できる体制が整備されていること。
  • 実施施設は十分ではない。
  • 最終摂取後2時間以上の経過観察が必要。
  • プロバビリティカーブを用いてもアナフィラキシーの回避はできない。
  • 特異的IgE抗体値と症状誘発閾値は相関しない。
  • 年少ではオープン、年長児や成人では先入観を排除するためにダブルブラインドで検査をすることがある。多いのはオープン法。
  • 単回でも分割でもいい。
  • LTRAは24時間前には中止。抗ヒスタミン薬は72時間前には中止。吸入ステロイドは中止しなくていい。
  • パスタ15gはうどん30g相当。
  • 脱脂粉乳10gは牛乳100ml相当。

食品表示法

  • コンタミネーションは表示義務なし。つまり、混入の可能性が否定できないものであっても、最終製品で原材料の一部を構成していないと判断される場合には、表示の義務はない。
  • 「〇〇と同じ工場で作っています」という注意喚起表示は書いてもいいが、もちろん義務はなく、注意喚起の食べ物は負荷試験なしに摂取可能としてしまってもいい。
  • 「可能性表示」(入っているかもしれません)は認められない。十分な調査を 行わずに安易に「可能性表示」を実施することを防ぐためである。
  • 外食では表示義務なし。
  • 「特定原材料」はえび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)の7品目。(今後くるみが加われば8品目に)
  • 「特定原材料に準ずるもの」はアーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、ま つたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの21品目。(ただし、くるみが特定原材料に移行すれば20品目に)
  • 含有される蛋白が数ng/mlまたは数ng/g未満ではほぼ誘発しないと考えられ、表示義務なし(食品1個あたりではなく、濃度を基準にしている)。
  • 特定加工食品(マヨネーズに卵が入ってるのは当然でしょ?とか、ヨーグルトに乳が入ってるのは当然でしょ?とか、うどんに小麦は当然でしょ?とかそういう表示省略)は廃止。きっちり(卵を含む)と書くようになった。
  • 原則は個別表示。例:マーガリン(大豆、乳成分を含む)、乳化剤(大豆由来)。
  • スペースの関係で一括表示はOK。例:マーガリン、乳化剤(一部に大豆、乳成分を含む)
  • 一度表示された原材料は2回目以降省略可能。
  • 一括表示や省略のために、小麦醤油問題が起こりえる。小麦アレルギーの子どもはおおむね醤油OKで、原材料表示に小麦が書かれていてもそれが醤油にのみ由来するのなら摂取できる。しかし、小麦が醤油以外に使われていないかどうかを知るすべが、現在の食品表示法にない。
  • 包装容器が30cm2以下でも省略できない。猶予期間は2020年3月まで。

食物アレルギー指導

  • パスタ15gはうどん30g相当。
  • 脱脂粉乳10gは牛乳100ml相当。
  • 魚アレルギーでも多くの場合だし汁除去は必要ない。
  • 大豆アレルギーでも多くの場合味噌・醤油除去は必要ない。

生活管理指導表

  • 保育所の管理指導表は「除去根拠」、学校からは「診断根拠」である。保育園ではまだ診断はできていないこともあるからである。したがって、保育所と学校では指導表が異なる。
  • 検査結果は添付しないほうがよい。混乱や誤解を防ぐためである。
  • 学校生活管理指導表は診断書に準じた公文書である。
  • 完全除去か普通食かの二者択一。部分除去は推奨されない。
  • 緊急時の持参薬を記載する。
  • 年1回の提出が原則。
  • 内容は全ての教職員に共有される。
  • アナフィラキシー病型には、食物だけではなく、昆虫(ハチなど)や医薬品などの原因による場合も記載する。

食物アレルギーに対する経口免疫療法

  • まだリスクとメリットの総合評価がなされていない、研究段階の治療である。
  • 当然、実施には倫理委員会の承認が必要である。
  • 治療開始前に、食物経口負荷試験で症状誘発閾値の確認が必要である。

食物不耐症

  • 免疫機序によらない反応である。
  • 薬理活性成分(仮性アレルゲン)による反応 カフェイン,ヒスタミン,セロトニン,アセチルコリン、安息香酸ナトリウム、チラミン,アルコール、サリチル酸、ニコチン、食用色素の黄色4号(タートラジン)。
  • 酵素による反応 乳糖不耐症、フェニルケトン尿症など。
  • 乳糖不耐は浸透圧性下痢で、ラクターゼの活性低下が原因。糞便は強い酸臭。母乳でも発症する(母乳にも乳糖が含まれるため)。牛乳アレルギーは関係ない。
  • エリスリトール、キシリトールなどで下痢することがあるが、これは食物不耐症の薬理活性物質ではない。トロンボキサンも食物不耐症ではない。

アレルギー専門医試験を振り返るシリーズ一覧

アレルギー専門医試験を振り返る:①アトピー性皮膚炎。

2020年2月4日

アレルギー専門医試験を振り返る:②食物アレルギー。

2020年2月5日

アレルギー専門医試験を振り返る:③気管支喘息。

2020年2月6日

アレルギー専門医試験を振り返る:④アレルギー性鼻炎。

2020年2月7日

アレルギー専門医試験を振り返る:⑤免疫に関する知識。

2020年2月10日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。