抗菌薬は肺炎や中耳炎の予防に有効ですか?

かぜに抗菌薬不要は当たり前!
それなのに、処方箋は抗菌薬だらけ!

という薬剤師さんたちの要望で、始めた「抗菌薬の使い方」シリーズ。
全6回を予定しています。

  • 抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?
  • 抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?
  • 抗菌薬処方を減らすための具体的な方法は?(4回に分けます)

第1回「抗菌薬で化膿性鼻炎(色がついた鼻水の出るかぜ)は改善するか?」はこちらに書きました。

鼻水が黄色や緑色のときは抗菌薬が効きますか?

2019年3月19日

今回はシリーズ第2回です。
「抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか?」に関するコクランレビューを紹介します。

かぜに抗菌薬を処方してしまう理由

かぜに抗菌薬不要は当たり前!
それなのに、処方箋は抗菌薬だらけ!

なぜでしょう?

「疑問は科学の入り口である」

M. Okamoto 1982-

引用符で囲ってみたものの、Googleで検索しても似た言葉が出てこないので、私が作ったオリジナル哲学なんだと思います。
話を戻しましょう。

以下の心理が働くと「かぜだと思うけど抗菌薬を出しておこうかな」となるかもしれません。

  • 中耳炎になる可能性が否定できない。
  • 肺炎になる可能性が否定できない。

可能性は否定できない、は100%正しいがゆえに間違っている。
可能性は否定できない、は「何も考えてませんよ」という思考停止表明です。

K. Iwata 1971-

この名言は、岩田健太郎先生がよく使われるフレーズです。
Googleで検索すると出てくるので間違いないです。

余談ですが、神戸大学で初期研修したメリットは、一つは今の柏原病院院長である秋田先生に出会えたことと、もう一つが岩田先生に厳しく指導されたことです。
話を戻しましょう。

「かぜの経過中に中耳炎や肺炎になる可能性は否定できない」というのは100%当然であり、「だから抗菌薬を投与しておきましょう」という理由にはなりえないと私は思っています。
これはロジックの問題です。

大切なのは、中耳炎や肺炎の所見に注意しながらかぜの経過をみることでしょう。

では、諸悪の根源である「可能性は否定できない」という言葉尻を変えてみます。

  • 抗菌薬は中耳炎を予防するかもしれない。
  • 抗菌薬は肺炎を予防するかもしれない。

抗菌薬がいわゆる二次感染を予防するかどうか。
これはロジックではなく、科学の問題です。

というわけで、さっそくコクランレビューを読んでみましょう。

コクランレビュー:かぜに抗菌薬で中耳炎や肺炎を予防できるか

Antibiotics for preventing suppurative complications from undifferentiated acute respiratory infections in children under five years of age(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Feb 29;2:CD007880)

5歳以下の子どものかぜに抗菌薬を投与することで合併症を予防できるか、というコクランレビューです。

背景

かぜは7日間で症状が改善するにも関わらず、先進国の抗菌薬使用の75%がかぜに対して処方されています。
これは抗菌薬が細菌感染症を予防するかもしれないという願い(保護者と医者の両方)があるからです。

結果

1314人の子どもを対象とした4つの試験を対象としました。
3つの試験で中耳炎を予防するためのアモキシシリン/クラブラン酸の使用が調査され、1つの試験で肺炎を予防するためのアンピシリンが調査されていました。

中耳炎を予防するためのプラセボと比較したアモキシシリン/クラブラン酸の使用は、リスク比0.70を示しました(95%信頼区間0.45〜1.11、3件の試験、414人の小児)が、有意差はついていません。

肺炎予防を予防するための支持療法(母乳育児の継続、鼻の浄化、パラセタモールによる発熱抑制)と比較したアンピシリンの使用は、リスク比1.05(95%信頼区間0.74〜1.49、1件の試験、889人の小児)で、有意差はついていません。
試験は盲検化されていません。

コクランレビューの結論

5歳以下の小児の中耳炎または肺炎のリスクを軽減するために抗菌薬を使うというエビデンスは不十分です。
抗菌薬の有効性を決定的にするには、さらに質の高い研究が必要です。

私の感想

今回選択された論文は、1991年、1995年、2002年、2011年の4つです。
前回紹介した「鼻水が黄色や緑色の場合は抗菌薬は有効か」のコクランレビューに比べてれば、新しい論文が検討されています。

肺炎予防に関してさらに細かく見ていきましょう。
1歳未満の326人で、かぜの後2週間以内に肺炎になった確率は、抗菌薬投与群が12%、鼻吸引などの支持療法だけで12%でした。
1歳から5歳までの563人で、かぜの後2週間以内に肺炎になった確率は、抗菌薬投与群が13%、鼻吸引などの支持療法だけで12%でした。

「かぜに対して抗菌薬を使用しても、肺炎を予防できない」という説は真実なのだろうと私は感じます。

中耳炎についてはどうでしょうか。
確かに有意差はついていませんが、プラセボだとかぜから12日以内に18%が中耳炎になりましたが、抗菌薬を使えば13%でした。
有意差はついていないとはいえ、リスク比0.70です。
もしかしたら抗菌薬は中耳炎を予防できるのでは?という仮説を否定するには不十分だと私は感じます。

では、もしサンプルサイズを大きくすることで、有意差がついたらどうでしょう。
抗菌薬を使えば中耳炎になる確率を18%から13%に減るのだとしたら、どうでしょう。

私はそれでも抗菌薬を使わないと思います。
18%から13%ということは、NNT20です。
かぜの子ども20人に対して全員抗菌薬を処方して、1人の中耳炎を減らします。

この議論を深めるためには、1人の中耳炎を予防できるメリットと、19人に不要な抗菌薬を処方するデメリットを天秤にかけなければなりません。
不要な抗菌薬にどの程度の副作用があり、また薬剤耐性菌にどの程度影響を及ぼすのかを知らなければなりません。

私は19人に対する不要な抗菌薬処方のほうが憂慮すべきことだと思っています。
さらには軽症の中耳炎は、抗菌薬を使用しなくても治ります。

私の現時点の結論としては、抗菌薬で中耳炎を予防しようという考えではなく、かぜは経過中中耳炎になりえるものだから、「必ず耳を見る」というスタンスが大切だと思っています。
この「必ず耳を見る」というフレーズは小児科ファーストタッチにも繰り返し書きました。

「医療とは、過去を聞き、現在を見て、未来を語ることである」

M. Okamoto 1982-

抗菌薬に関しても、未来語っていいと思います。
ただその未来は「抗菌薬を飲んでおけば、未来の中耳炎が予防できる可能性は否定できない」であってはいけません。
「抗菌薬を正しく使うことで、未来の耐性菌の増加を防げるかもしれない」であるべきです。

第3回「抗菌薬処方を減らすための具体的な方法は?」はこちらです。

共有意思決定は抗菌薬を減らし、患者の不安を軽くするかもしれない。

2019年3月24日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。