小児科医とラリンゲアルマスク。i-gelを使ってみた。

私はインストラクターですので、新生児蘇生法講習会の講義をしています。
講義の中で、ラリンゲアルマスクに関してスライド1枚分の説明をしています。
さらりと説明していますが、実は私はラリンゲアルマスクを実際に使用したことがない小児科医です。

今日は、ラリンゲアルマスクについて書きます。

新生児蘇生とラリンゲアルマスク

新生児蘇生法テキストにもラリンゲアルマスクについての記載があります。

34週を超える早産児や正期産時の蘇生においては、フェイスマスクでの換気がうまくいかなければ、ラリンゲアルマスクエアウェイ(LMA)を気管挿管に代わる手段として考慮できる。

また34週を超える早産児や正期産時の蘇生において、フェイスマスクでの換気がうまくいかず、気管挿管も困難な状況で、LMAが気道確保に有用な場合がある。特に児に小顎症や巨舌などがある場合には、そのような状況に陥る可能性を考慮する。

新生児蘇生法テキスト 第3版 p109

私の経験でも、確かにピエールロバン症候群やダウン症の子どもに気管挿管をするのはなかなか難しいです。
困ったことに、そういう子どもほど、迅速に気道確保しなければなりません。

ラリンゲアルマスクがそういう挿管困難例で有効であるなら、ぜひ使ってみたいという気持ちは以前からありました。

ラリンゲアルマスクに対する不安

ですが、「すぐにラリンゲアルマスクを導入しよう!」とは思いませんでした。
それは、私はラリンゲアルマスクに2つの不安があったからです。

  • 本当にラリンゲアルマスクは有効な気道確保となりえるのか?
  • 小児科医はカフを膨らませる経験が不足しており、うまく使えないのではないか?

ただこの不安は、実際のところすぐに解決しました。
その過程を説明します。

本当にラリンゲアルマスクは有効な気道確保となりえるのか?

1つの論文と、1つのコクランレビューを紹介します。

Neonatal resuscitation using a laryngeal mask airway: a randomised trial in Uganda(Arch Dis Child. 2018; 103: 255-260).

  • 前向きランダム化比較試験です(ただランダム化は抽選でしており、ブラインドもできませんので、質は低いです)。
  • 赤ちゃんの蘇生に人工呼吸が必要な場合、ラリンゲアルマスクかフェイスマスクかをランダムで使用した。
  • 一次エンドポイントは自発呼吸開始までの時間。
  • ラリンゲアルマスク群は24名、フェイスマスク群は25名登録された。
  • ラリンゲアルマスクで蘇生したほうが有意に自発呼吸開始が早かった(ラリンゲアルマスクは生後153秒で呼吸開始、フェイスマスクは生後216秒で呼吸開始)。
  • ラリンゲアルマスクによる有害事象はなかった。

Laryngeal mask airway versus bag‐mask ventilation or endotracheal intubation for neonatal resuscitation(Cochrane Database Syst Rev. 2018; 3)

  • ラリンゲアルマスクがフェイスマスクや気管挿管に比べて効果的に蘇生できるかどうかを研究する。
  • 合計794人の幼児を対象とした7つの研究を解析した。
  • ラリンゲアルマスクはフェイスマスクに比べ、気管挿管にいたる頻度がリスク比24%になり、リスク差は14%下がり、人工呼吸の時間は18.9秒短くなる、NICU入院率は60%になる。
  • ラリンゲアルマスクと気管挿管に関するデータで有意差があるものは見出せず。
  • 新生児がフェイスマスクによる人工換気に反応しない場合は、ラリンゲアルマスクを積極的に使用することが重要である。

コクランがラリンゲアルマスクを推奨していることを私は初めて知りました。
どうやら、私が思っていた以上にラリンゲアルマスクは有効なようです。
より多くの赤ちゃんを救うためには、ラリンゲアルマスクを導入すべきではないかという思いが強くなってきました。

ラリンゲアルマスクをうまく使えるか?

ただ、ラリンゲアルマスクをうまく使えるのかが不安で、やはり躊躇が残りました。
ラリンギアルマスクはとても簡単とはいいますが、私はカフを膨らませるという操作をあまり経験したことがありません。

というのは、小児科医の挿管はカフのないチューブが選択されることが多いためです。
カフを膨らませるという行動がどうしても私の中でひっかかりました。

そのとき、この商品を知りました。
実は、前述のウガンダの論文でもこの商品を使っています。


i-gelはカフのないラリンゲアルマスクです。
これなら私でも使えるんじゃないかと思いました。

i-gelを使ってみた

サンプルでさっそく試してみました。

これはサイズ1.5(体重5-12kg用)です。
新生児はサイズ1(体重2-5kg用)を使います。
サイズ1には胃管用の挿入孔がありませんでした。

当院の研修医が、ダースベーダーのような人形にラリンゲアルマスク装着を試みています。
(このi-gelはサイズ4です)
この4秒後には見事に高度な気道確保が成功しました。

感想としては、すごく簡単です。
気管挿管を4秒で行うことは私には無理ですが、i-gelは本当に4秒で挿入できます。

まとめ

新生児蘇生領域では、ラリンゲアルマスクの有効性に関する論文が複数あり、コクランレビューでも推奨されていることが分かりました。
そして、カフがないi-gelは非常に使いやすいです。

新生児のみならず、たとえば「生後1か月のRSウイルス細気管支炎で呼吸不全にいたった児を高次施設に搬送するまで」のような使い方も可能です。

気道確保は緊急事態における管理の基本です。
ラリンゲアルマスクは救命の可能性を広げてくれるように感じました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、アメリカ心臓協会PEARSインストラクター。神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、兵庫県立柏原病院小児科医長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。