「意識レベルは!?」
「……ゼロです」
救命病棟24時 第6話「狙われた救命センター」
2009年のドラマです。
ちなみに上記のシーンは、医者が死んだふりをしていたというシーンでした。
Japan Coma Scale(通称JCS)で、意識レベル0というのは「しっかり覚醒している」という意味です。
今回は、小児科でも使える乳幼児用JCSについてお話します。
小児科で意識レベルが重要な場面
小児科医が子どもを見るとき、第一印象として意識、呼吸、皮膚色を見ています。
これはPediatric Assessment Triangle(通称PAT、パット)といいます。
子どもを見て、たった3秒でできる評価です。
パッとできるのでPATと覚えると忘れないです。
小児科医はPATで子どもの緊急度を判断していますので、意識レベルというのは常に重視されます。
そのほかにも、意識レベルが診断・評価に使われる疾患を以下に挙げます。
- 呼吸不全の認識
- ショックの認識
- 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017における発作強度判定
- クループにおけるウエストレークループスコア
- けいれん頓挫の確認
- 頭部打撲のCT基準
- 慢性頭痛のCT基準
- 脱水の評価
意識レベルは治療に対する反応を評価するときにも使えます。
呼吸不全やショックの子どもが治療に反応したとき、意識レベルは改善します。
小児科医にとって、子どもの意識レベルを正確に評価することはとても大切なことです。
JCSの問題点
JCSは意識レベルを評価するのに有用な尺度です。
まず、一般的なJCSを紹介します。
III 刺激をしても覚醒しない状態
300 痛み刺激に対し全く反応しない。
200 痛み刺激で手足を動かしたり、顔をしかめたりする。
100 痛みに対して払いのけるなどの動作をする。
II 刺激すると覚醒する状態(刺激をやめると眠り込む)
30 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼する。
20 大声で呼びかけたり、強く揺するなどで開眼する。
10 普通の呼びかけで開眼する。
I 刺激しないでも覚醒している状態
3 自分の名前・生年月日が言えない。
2 見当識障害がある(ここがどこなのか言えない)。
1 見当識は保たれているが意識清明ではない。
0 意識清明。
大人や小学校以上の子どもであれば、このJCSでいいでしょう。
ですが、1歳の子どもの意識レベルを評価するとき、このJCSは問題があります。
1歳児はここがどこなのかは喋れませんし、自分の名前も言えません。
乳幼児に適したJCSが必要です。
乳幼児用JCS
1978年、乳幼児に適したJCSが発表されています。
小児神経診断学(1978)で坂本先生らは以下の尺度を提案しました。
III 刺激をしても覚醒しない状態
300 痛み刺激にまったく反応しない。
200 痛み刺激で少し手足を動かし、顔をしかめる。
100 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする。
II 刺激すると覚醒する状態(刺激をやめると眠り込む)
30 呼びかけを繰り返すと、辛うじて開眼する。
20 呼びかけると開眼して目を向けるが、飲み物や乳首を見せても欲しがらない。
10 呼びかけると開眼し、飲み物を見せると飲もうとする。あるいは乳首を見せれば欲しがって吸う。
I 刺激しないでも覚醒している状態
3 母親と視線が合わない。
2 あやしても笑わないが、視線は合う。
1 あやすと笑う。ただし不十分で、声を出して笑わない。
0 あやすと声を出して笑う。
一般的な赤ちゃんは生後2か月頃から視線が合うようになってきます。
生後7-9か月頃からは人見知りも始まってきますので、それ以降であれば十分に上記の乳幼児JCSが使えます。
意識清明とは何か
意識清明とはJCS0を指すべきです。
そしてJCS3以上は明らかに意識障害があります。
それではJCS1-2についてはどうでしょうか。
小児科外来を訪れる子どもたちのうち、「あやしたら声を出して笑う」ような機嫌のいい子どもはなかなかいません。
発熱・咳嗽・喘鳴・疼痛など何らかの症状を有する乳幼児は一般的に不機嫌です。
私はお母さんに「いつもの不機嫌の状態と比べておかしいかどうですか?」と聞くこともあります。
JCS1-2であっても、お母さんが子どもの状態に違和感を持たなければ「意識はほぼ清明」と判断しています。
けいれん重積後、目線は合うけれど、母から見てなんとなくおかしいと感じる子どもについては、意識障害が遷延していると考え、30分後も同様の状態であれば脳炎・脳症の可能性を考え、私は頭部CT・髄液検査を行うこともあります。
まとめ
乳幼児JCSを紹介しました。
子どもの意識レベルの評価は、あらゆる状況で必要とされます。
言葉が話せないような乳児であっても、意識レベルを評価する方法はあります。