肥満は「18歳までに改善」しないと2型糖尿病リスクが4.14倍。

肥満症は2型糖尿病や動脈硬化、肝硬変のリスクになります。

そのため、兵庫県立柏原病院小児科は、子どもの肥満症治療にも精力的に取り組んでいます。
肥満症の子どもに対して教育入院を実施しています。
子どもの肥満症を改善させることも小児科医の務めです。

肥満外来をしながら、私は以前から疑問に思っていることがありました。
子どもの肥満を改善させることによって、将来の2型糖尿病などのリスクを本当に減らせているのでしょうか。
そして、いつまでに肥満を改善させられれば、将来の2型糖尿病などのリスクを減らすことができるのでしょうか。

今回は、13歳になるまでに肥満を改善させることができれば、2型糖尿病のリスクにならないという論文を読みましたので、紹介します。
(この論文は、18歳まで肥満が続くと2型糖尿病のリスクが4.14倍になることも報告しました)

子どもの肥満と2型糖尿病のリスク

2018年4月にNew England Jounalというインパクトファクターの高い雑誌に掲載された論文です。

Change in Overweight from Childhood to Early Adulthood and Risk of Type 2 Diabetes.(N Engl J Med. 2018; 378: 1302-1312)

デンマークの論文で、7歳から18歳までの肥満状態と2型糖尿病の関連を調べました。
さっそく読んでいきましょう。

Introduction

世界中の子どもの23%以上が過体重または肥満である。
子どもの肥満が大人になるまでに改善できれば、2型糖尿病のリスクはどの程度低減されるのかについては重要である。

さらに、小児期の肥満が成人期の2型糖尿病リスクにどれほど寄与するのかについても重要である。

Method

  • コペンハーゲン学校保健記録簿(学校での身長・体重が蓄積されている)
  • デンマーク徴兵データベース(18歳の男性の身長・体重が蓄積されている)
  • 国民患者登録(2型糖尿病の診断が分かる)
  • 市民登録制度(現在の生死が分かる)

上記の4つのデータベースを使って、1939年から1959年に生まれたデンマークの男性を追跡調査した。

過体重の定義は次とした。

  • 7歳のBMI>17.38
  • 13歳のBMI>21.82
  • 18歳のBMI>25

Result

62565人の男性が調査に参加した。

そのうち6710人(10.7%)が2型糖尿病の診断を受けた。

一度も過体重にならなかった人と比較した、2型糖尿病を発症するリスク(hazard ratio)は以下の通りである。

  • 7歳の時点で過体重であっても、13歳までに改善した場合:0.96倍
  • 7歳、13歳の時点で過体重で、18歳までに改善した場合:1.47倍
  • 7歳、13歳、18歳の時点で過体重の場合:4.14倍

Discussion

  • 7歳の時点で過体重であっても、13歳までに改善できれば2型糖尿病のリスクとはならない。
  • 13歳の時点で過体重であった場合は、18歳までに改善できれば、2型糖尿病の中程度のリスク(1.47倍)ですむ。
  • 18歳の時点で過体重の場合は、2型糖尿病のハイリスク(4.14倍)である。

ただし、本研究は徴兵データベースを使用したため、男性でのデータしかない。
本研究では女性でのデータはないが、過去の研究で過体重と2型糖尿病のあいだに性差は認めないことが報告されているので、問題ないと考える。

まとめ

デンマークでは2型糖尿病は10.7%で発症しています。
厚生労働省による平成28年国民健康・栄養調査結果の概要で、わが国の2型糖尿病は「強く疑われる」に限定しても1000万人です。
人口の8%が2型糖尿病を罹患しているというデータは、デンマークとほぼ同じです。

18歳の時点で過体重の場合、2型糖尿病を発症するリスクが4.14倍となるのはインパクトの強い結果でした。
簡略した計算ではありますが、8%の4.14倍となると33%、すなわち18歳になるまでに過体重を改善させられなければ、1/3の確率で2型糖尿病になるというショッキングな報告です。

論文のデータから、可能な限り13歳までに肥満は改善させたいところです。
ですが、13歳以降も肥満が続く場合は、せめて18歳までには改善させなければなりません。
さもなければ、2型糖尿病のリスクは4.14倍になります。

私は小児科医として10年働いていますが、2型糖尿病で困ったことは一度もありません。
2型糖尿病で困るのは多くが成人してからであり、受診する科は小児科ではなく内科だからです。

ですが、子どもたちが将来健康に過ごしていくために、肥満の改善は小児科医としてとても大切な仕事だとあらためて感じました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。