溶連菌の保菌とは何ですか?治療すべきですか?

「溶連菌感染症の診断治療で苦慮しておりましたところ岡本先生の記事を拝見いたしまして、失礼ではありますがメッセージを送らせていただきました」

ある小児科の先生から、丁寧なメールを頂きました。
それは溶連菌の保菌に対する悩みについてでした。

  • 熱がなく咳がある患者さんが溶連菌検査を希望され、検査に意義がないことを説明し帰ってもらったものの、後日別の病院で溶連菌検査を受けられ、結果が陽性だったことでトラブルになった。
  • 溶連菌陽性、ヒトメタニューモウイルス陽性で、全身状態が良くないため高次施設に紹介したが、そこで「溶連菌は保菌だから治療しなくていい」と言われた。

私も溶連菌診療には頭を抱えています。
それに悩みについてはこちらの記事で書きました。

溶連菌感染症の再発では発疹が出ない。診断に苦慮する多彩な症状。

2017年2月25日

今回は、溶連菌の保菌について書きます。

Streptococcus pyogenes : Basic Biology to Clinical Manifestations

今回紹介する本は、和訳すれば「溶連菌」というそのままのタイトルの本です。
全文が無料で公開されているステキな本です。

そのコンテンツの一つに「Carrier State(保菌)」があります。
The Streptococcus pyogenes Carrier State

さっそく読んでいきましょう。

溶連菌の保菌とは?

溶連菌による咽頭炎の特徴は、咽頭痛と急激な発熱です。咳および鼻漏、下痢は認めません。いっぽうで、症状のない小児から溶連菌を認めた場合、保菌と考えられます。喉の痛みがなく、診察上も咽頭や扁桃の発赤がなければ、ほとんどの専門家は、その幼児が保菌であると同意するでしょう。この状況では、咽頭に溶連菌は定着してはいますが、病気の原因とは考えられません。

以下原文
The classical clinical features that can be observed in a child who is believed to have an acute pharyngitis due to Streptococcus pyogenes include the abrupt onset of fever with sore throat, and the absence of diarrhea or respiratory symptoms, such as cough and rhinorrhea. In contrast, an asymptomatic child is considered to be a streptococcal pharyngeal carrier if a swab of the posterior pharynx is processed for a bacterial culture or rapid antigen detection test, and if such a test confirms the presence of Streptococcus pyogenes (Group A streptococcus). Since the child does not have symptoms of a sore throat and does not have inflammation of the tonsils or pharynx on physical examination, most experts would agree that the child most likely has pharyngeal carriage of the organism. In this circumstance, the pharynx is colonized with S. pyogenes, but it does not appear to be causing disease.

喉から溶連菌が出ただけでは、溶連菌感染症とはいえません。
喉の痛みや、咽頭・扁桃の発赤がなければ、たとえ喉から溶連菌が検出されても「保菌」と考えます。

溶連菌を保菌することは、一般的な状況では問題ありません。
(特殊な状況はあとで書きます)

溶連菌の保菌率は?

咽頭炎の徴候がない子どもの12%(95% CI 9-14%)が溶連菌を保菌していた(Shaikh, Leonard, & Martin, 2010)。他のいくつかの研究は、無症状の学童期の子どもの15-20%が溶連菌を保菌しており、家族内に溶連菌の保菌者がいる場合では25%が溶連菌を保菌する(Schwartz, Wientzen, Pedreira, Feroli, Mella, & Guandolo, 1981; Shulman, 1994)。

以下原文
This analysis also demonstrated that the prevalence of S. pyogenes carriage among well children with no signs or symptoms of pharyngitis was 12% (95% CI 9–14%) (Shaikh, Leonard, & Martin, 2010). Several other studies support that 15–20% of asymptomatic school aged children are colonized with S. pyogenes, and that 25% of asymptomatic household contacts of children with streptococcal pharyngitis have throat cultures that revealed the presence of S. pyogenes (Schwartz, Wientzen, Pedreira, Feroli, Mella, & Guandolo, 1981; Shulman, 1994).

元気の子どもの12-20%が溶連菌を保菌します。
保菌者同士の接触で保菌率は増加するようですから、きょうだいが多かったり、保育園に通っていたりすれば保菌率は上昇すると考えられます。

つまり、溶連菌検査が陽性だったとしても、ただの保菌であり、病気とは無関係であるということは十分に考えられます。

溶連菌の保菌は治療すべきか?

溶連菌感染がいくつかの合併症を引き起こします。

  • 急性糸球体腎炎
  • リウマチ熱
  • レンサ球菌感染後反応性関節炎
  • 化膿レンサ球菌関連小児自己免疫神経性心疾患

このうち、発症から9日以内に除菌することで罹患率が減るのはリウマチ熱です(出典:ネルソン小児科学)。

リウマチ熱を減らすためにも、溶連菌の保菌を見つけたら積極的に除菌したほうがいいのでしょうか?

子どもが溶連菌を保菌しても、溶連菌の合併症のリスクにはならない(Kaplan、1980)。急性リウマチ熱の病因は完全には解明されていないが、溶連菌に対する免疫応答が重要な要因であるという理論を裏付ける重要な疫学的および免疫学的エビデンスがある(Kaplan & Bisno, 2006; Stollerman, Lewis, Schultz, & Taranta, 1956; Zabriskie, Hsu, & Seegal, 1970; Krisher & Cunningham, 1985; Wannamaker, et al., 1951)。溶連菌を保菌しても免疫学的な反応は起きないので、合併症のリスクがあるとは考えられていない(Johnson, Kurlan, Leckman, & Kaplan, 2010)。

以下原文
Children who are identified as S. pyogenes carriers are not thought to be at risk for complications due to S. pyogenes (Kaplan, 1980). While the pathogenesis of acute rheumatic fever is not completely understood, there is significant epidemiologic and immunologic evidence to support the theory that the immune response to a S. pyogenes infection is a critical factor. There is molecular mimicry between the immune response to the S. pyogenes and the heart, synovial, or brain tissue (Kaplan & Bisno, 2006; Stollerman, Lewis, Schultz, & Taranta, 1956; Zabriskie, Hsu, & Seegal, 1970; Krisher & Cunningham, 1985; Wannamaker, et al., 1951). Since S. pyogenes carriers do not have evidence of disease due to S. pyogenes or confirmation of an immune response to S. pyogenes, they are not believed to be at risk for non-suppurative complications (Johnson, Kurlan, Leckman, & Kaplan, 2010).

溶連菌の保菌はリウマチ熱をはじめとした合併症のリスクにはならないようです。
したがって一般的な状況であれば、溶連菌の保菌が分かっても治療は不要です。
(特殊な状況はあとで書きます)

溶連菌の保菌であっても除菌を考慮するケース

今まで述べた通り、保菌は一般的に治療する必要はありません。
しかし、特殊な状況で除菌が認められる場合もあります。

アメリカ小児科学会は、保菌された溶連菌を除菌したほうがよいいくつかの状況を紹介しています。リウマチ熱またはリウマチ性心疾患の家族歴がある場合、家族が異常に心配していて溶連菌を保菌しているという理由だけで扁桃摘出を考えている場合、または溶連菌性咽頭炎のアウトブレイクがある場合です。(Kimberlin, Brady, Jackson, & Long, 2015)

以下原文
The American Academy of Pediatrics Committee on Infectious Diseases suggests several situations when it may be advantageous to eradicate S. pyogenes colonization. These include when there is a family history of rheumatic fever or rheumatic heart disease, when the family is extraordinarily anxious or is considering tonsillectomy solely because of the presence of S. pyogenes carriage, or when there are community outbreaks of S. pyogenes pharyngitis (Kimberlin, Brady, Jackson, & Long, 2015).

幸いにも私は上記の特殊な状況にはまだ遭遇していません。
溶連菌を保菌するからという理由で、扁桃摘出を希望する親はいるのでしょうか。

リウマチ熱の家族がいる場合、保菌は除菌対象になるというのは、リウマチ熱に遺伝が関与するからでしょうか。
それとも、リウマチ熱の家族に溶連菌が伝播すると良くないからでしょうか。

まとめ

  • 喉の痛みや、咽頭・扁桃の発赤がなければ、たとえ喉から溶連菌が検出されても「保菌」である。
  • 元気の子どもの12-20%が溶連菌を保菌している。
  • 保菌はリウマチ熱のリスクにならず、治療する必要はない。
  • 家族にリウマチ熱の人がいる場合は、除菌してもよい。

私は、溶連菌感染を疑っていないときは検査をすべきではないと思っています。
逆説になりますが、私が溶連菌検査をしたときは溶連菌感染の可能性があると感じたときです。
したがって、私は「保菌」と診断したことはありません。

溶連菌の可能性があると感じたときは検査をしますし、逆に可能性は低いと感じたときは「現時点でお子さんの喉は赤くありません。こういうときに溶連菌の検査をしても正しい結果が出ないので、検査はしません」と説明します。

もちろん、溶連菌とヒトメタニューモウイルスが同時に陽性になり、採血結果などを照らし合わせて考えればヒトメタニューモウイルスが病気の本体で溶連菌は保菌だったのでは?と思うことはありますが、少なくても検査前における私の見積もりでは「溶連菌はありえる」と思って検査したわけですから、溶連菌陽性の結果は強く受け止めるようにしています。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。