小児救急を学ぶために必要な費用。

小児救急。
多くの場合、それは前触れなく突然始まります。

「子どもが突然倒れて、息をしていない。脈も触れない」

そのような救急要請を受けたとき、小児科医は己の知識と技量で立ち向かわなければなりません。

呼吸も心拍も停止した子どもを救う知識を小児科医はどのように手に入れるでしょうか。

一つは経験です。
大きな小児救急病院であれば、このようなケースをたびたび目撃するでしょう。
先輩医師の動きを見て、またはそれを手伝いながら、救急の知識と技量を磨きます。
この訓練方法を「On-the-Job Training」といいます。

いっぽうで、一般的な小児病院に勤務していると、心肺停止した子どもを見る機会はそれほど多くないでしょう。
現場を見ながら訓練するという方式では、なかなか教育の機会に恵まれません。

このような環境の小児科医は、己の救急対応能力を磨くために、Off-the-Job Trainingを行うしかありません。
Off-the-Job Trainingとは職場を離れて、外部で研修を受けるという訓練方法です。

小児救急のOff-the-Job Trainingとして、AHAのテキストを用いたPALSという訓練があります。
PALSではシミュレーションを多く取り入れた実践的なトレーニングを行います。
今回はPALSについて、必要な経済的費用という切り口で語ってみます。

PALSを受講するまでの流れ

「PALSを受けたいです!」

と思っても、すぐには受講することができないのがPALSです。
順序があるんです。

PALSを受講するまでの流れを書きます。
たった3つのステップです。

  • 国際トレーニングセンター(ITC)を決める。
  • BLSを受講し、合格する。(BLSの代わりにPearsコースでもよい)
  • PALSを受ける。

PALSはいくつかのトレーニング組織が実施しています。
こちらの記事に詳しく書きましたので、確認ください。

PALSを実施するAHA公認国際トレーニングセンター5つ。

2017年8月14日

BLSとPALSは同じITCでなくてもよいのですが、あえて別にする必要もないと思いますので、自分が望むPALSコースを実施しているITCでBLSを受けましょう。
(自分が望むPALSコースというのは、会場の場所やコースの日時が自分にとって適切かどうかという意味です)
私はPALSコースを頻繁に開いてくれるという意味で、日本ACLS協会にしました。

ITCを決めたら、BLSを受けてください。
BLSでは基礎的な救命処置を学びます。

PALSでは小児の高度な救命処置を学びます。
PALSを学ぶには、必ずBLSの知識が必要です。

BLSに合格したら、2年以内にPALSを受けてください。
PALSを受けることなく2年経過したら、またBLSからやり直しです。

PALS受講までに必要な費用

以上の流れに必要な費用はいくらになるでしょうか。
3万円くらいでしょうか?
5万円くらいでしょうか?
想像しながら読んでみてください。

BLSに必要な費用

BLSには最低限、次の3つが必要です。

  • BLSプロバイダーマニュアル 4212円
  • BLSヘルスケアプロバイダーコース標準受講料 18100円
  • 成人用ポケットマスク 1550円

合計23862円です。
このコースは1日で行われます。

PALSに必要な費用

BLSには最低限、次の4つが必要です。

  • PALSプロバイダーマニュアル 11880円
  • PALSヘルスケアプロバイダーコース標準受講料 42300円
  • 小児用ポケットマスク 1550円
  • 乳児用ポケットマスク 1550円

合計57280円です。
このコースは2日で行われます。

知識と技術の維持に必要な費用

ここまでの合計は約8万円です。
そして3日間の実習時間が必要です。
これでPALSのプロバイダーになることができます。

ですが、覚えた知識と技術はやがて劣化します。
普段から小児救急の機会が少ない施設で働いている場合はなおさらです。

PALSは2年ごとに更新しなければ、その資格は喪失します。
PALSを更新するためには、もう一度PALSヘルスケアプロバイダーコースを受講するか、PALSリニューアルコースを受講しなければなりません。

PALSリニューアルコースは1日の実習で、標準的な受講料は19100円です。
またプロバイダーマニュアルは5年おきに改訂される可能性がありますので、改訂されていれば買い直す必要があります。

インストラクターになるための費用

さらにここからPALSインストラクターになることを目指した場合、どうなるでしょうか。
インストラクターに最低限必要なのは以下です。

  • PALSインストラクターマニュアル 14040円
  • PALSプロバイダーDVD 15120円
  • AHA心肺蘇生と救急 心血管治療のためのガイドランアップデート2015 9720円
  • Coreインストラクターコース受講料 約6000円
  • PALSインストラクターコース受講料 約44000円

自分でもこんなにお金を使ったのかと目を疑いましたが、約9万円になります。
その後もモニター試験が必要です。

PALSは高いのか?

PALSを受講するには8万円、PALSを教えられるようになるにはさらに9万円かかります。
加えて、遠方から受講に来られている方々も見かけますので、交通費は無視できないでしょう。
PALSは2日間にわたりますので、宿泊費も必要かもしれません。

小児科は多くの病院で赤字部門であり、この受講料を病院に負担してもらうのは気が引けます。
「自己研鑚の費用は自己負担」である施設も多いと思います。
小児科医または小児医療に携わる看護師は、これらの費用を自己負担します。

この金額は高いのでしょうか?

私の考えですが、小児の質の高い救命技術を維持するためには必要な費用だと思います。

「子どもが息をしていません。脈もありません」

このような状況は、小児科医9年目の私からみても、それほど多くはありません。
それでも経験することはありましたし、これからも遭遇するでしょう。

上記の金額で、子どもを救命できる可能性が少しでも上がるのであれば、惜しむべきではありません。
それだけの価値が、これらのコースには詰まっています。

まとめ

小児の高度な救命をPALSというOff-the-Job Trainingで学ぶ場合、約8万円が必要です。

この費用は決して安くはありませんが、入院中の子どもが突然心停止した場合、または心停止した子どもの救急搬送要請があった場合、ここで得た知識は大きな武器となるでしょう。

また、質の高いコースが提供されることも大切です。
私がPALSインストラクターを目指すのは、PALSの質の維持(できれば向上)に少しでも貢献したいからです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。