子供が蜂に刺されたら。症状・治療・エピペンについて。

自然豊かな病院。
野生のシカ、イノシシが病院の敷地内にも出没します。
それが兵庫県立柏原病院です。

そんな地域だからでしょうか。

  • ハチに刺された。
  • ヘビに噛まれた。
  • マダニに噛まれた。
  • アブに噛まれた。

こういう自然派の事故にはたびたび遭遇します。
いっぽうで、丹波市は海からは遠く、近くには港も飛行場もないので、クラゲやヒアリ、セアカゴケグモ、サソリについては聞きません。

動物関連の事故はいろいろありますが、おそらくもっとも死亡者が多いのはハチ刺傷だと思います。
ハチ刺傷による死亡は、わが国では年間20人-30人と報告されています。
わが国のマムシによる死亡は年間10人、ハブによる死亡は奄美地方で4年で2人と報告されており、蛇よりもハチのほうが死亡者数が多いです。

ハチに刺されたときの症状は様々です。
刺されたところが腫れただけ、ということもあるでしょう。
水洗いして冷やして市販の虫刺されの薬を塗るだけで、1日もすれば治ることもあります。

ですが、再びハチに刺されたとき、強いアレルギー反応が出るかもしれません。
リスクを評価するためにも、ハチに刺されたら一度は病院を受診するべきです。
子どもであれば、小児科を受診することを勧めます。

今回は、ハチ刺傷について書きます。

ハチの種類と亜科

小児内科2009年増刊号によると、ハチは世界に約130科10万種で、日本には約60科1万種以上が生息しています。

「科」や「種」というのが、昆虫博士ではない私にとってかなり難解です。

動物界、節足動物門、昆虫網という大きな枠があって、その中に膜翅目(まくしもく)という分類があります。
膜翅目の中には、ミツバチ科やスズメバチ科、アリ科などがあります。
科の下には「亜科」という分類があり、ミツバチ科にはミツバチ亜科やマルハナバチ亜科があり、スズメバチ科にはスズメバチ亜科やアシナガバチ亜科があります。

私たちが虫を分類するうえで最も大切なのが「亜科」だと思います。
というのは、もし「科」で分類したり、もしくは科なのか亜科なのかを全く区別せずに分類したりすると、医療現場で混乱が起きるためです。

たとえば、この画像を見てください。

画像はwikipediaからです。
クマバチです。
きっと見たことがあると思います。
体が大きくて、羽音もうるさいので、突然飛んでくるとびっくりしてしまいます。
空中をホバリングしながら周囲を観察している姿も見られます。

クマバチは「ミツバチ科クマバチ亜科」に分類されます。
つまり、クマバチを「科」で呼べば「ミツバチ」になってしまいます。
医中誌という日本の文献を検索するサイトで「ミツバチ アナフィラキシー」と検索すれば、たくさんの論文がヒットします。
クマバチはミツバチ科ですから、アナフィラキシーを引き起こすハチなのでしょうか?

ちなみに、このクマバチは温厚で、人を襲うことはまずありません。
また単独行動が基本であり、ミツバチやスズメバチのように集団になって次々刺してくるということもありません。
もし刺されても、その毒性はあまり強くないとのことです。

したがってクマバチは、医療現場ではまず問題にならないハチです。
事実、医中誌で「クマバチ アナフィラキシー」と検索しても、該当する論文は出てきません。

クマバチがミツバチ科だからといって、ミツバチと同じような対応をすると医療現場で混乱が起きます。
虫の行動や毒性などは、「亜科」で大まかに決まっています。

繰り返しになりますが、ハチを「亜科」で分類すると、混乱なく対応できると思います。

ちなみに、亜科の次には、族や属、種という分類が続きます。
ミツバチ亜科にはセイヨウミツバチ種や二ホンミツバチ種などがいます。
アシナガバチ亜科にはセグロアシナガバチ種やキアシナガバチ種、スズメバチ亜科にはオオスズメバチ種やヒメスズメバチ種がいます。

種まで考えると、かなり大変です。
図鑑を見ながらこの記事を書いているのですが、細かい違いは私には分かりません。
医学的にも、種まで特定する必要はなさそうです。
したがって、以降の記載はすべて「亜科」で行います。

ハチ刺傷を起こすハチ

よく刺してくるハチといえば、この3つです。

  • スズメバチ
  • アシナガバチ
  • ミツバチ

また、医中誌で検索していると、こんなハチでのアナフィラキシーの報告もありました。

  • マルハナバチ

これら4つのハチは、集団行動するハチとして知られています。
女王蜂を中心とした社会を形成しており、群れで巣を守ろうとしています。
こういう集団行動型のハチは巣に危険を感じると、群れになって襲い掛かってきます。
毒液にも「警報フェロモン」と呼ばれる成分があり、どんどん仲間のハチが集まってきます。

医中誌でハチに刺された人の報告例を見ていると、複数箇所を刺された人の報告も散見されますが、こうして複数刺すのも集団行動型のハチの特徴でしょう。

特に刺されやすいハチにについては、次の報告があります。

ハチ刺傷はアシナガバチ、スズメバチ、ミツバチの順に多い。

総合アレルギー学 改定2版 2010

いっぽうで、前述したクマバチやヒメバチなどは単独行動型のハチです。
自分自身が危険になると刺すこともあるようですが、基本的に人に襲い掛かることはありません。

したがって、医学的に重要なハチは「スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチ(ついでにマルハナバチ)」と言えます。

ハチ刺傷による症状

ハチ刺傷による症状は毒作用による局所のものから、全身アレルギー反応まで様々です。
これは、ハチ毒には様々な物質が含まれているためです。

局所反応

刺された場所に痛み・発赤・腫れを認めます。
一般的には数時間から1日で消失し、その後しばらく痒みのある硬結を残します。

刺された場所からその周囲にかけて広範囲が腫れて、その腫れが2日から7日ほど続き、時には吐き気や倦怠感を伴う場合があります。
これは「局所過剰反応(large local reaction)」といいます。
アレルギーによるものではないとされますが、次にハチに刺されたときにアナフィラキシーを起こす確率が上がるということです。(小児内科2009年増刊号)

なお、この局所反応はハチ毒に含まれるヒスタミンやポリアミンによる反応です。

中毒反応(アナフィラキシー様反応)

たくさんのハチに複数刺されると、大量の毒が注入されたことで毒薬理作用が起きます。
吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、めまい、失神、けいれんなどの症状が出現します。
これらの症状はアナフィラキシーと似ていますが、この中毒反応はアレルギー反応にではありませんので、じんましんなどの皮膚症状は目立ちません。
したがって、これを「アナフィラキシー様反応」と言うこともあります。

なお、多数のハチに刺されたときも、次に刺されたときにアナフィラキシーを起こす確率が上がります。

全身反応(アナフィラキシー)

過去にハチに刺され、IgEを産生するようになってしまった患者さんが、再度ハチに刺さると、ハチ毒に対する強い免疫反応が起きます。

まず刺傷後数分から15分後に全身じんましんが出現し、呼吸困難や息切れ、喘鳴が出現します。
ショック(循環が悪くなること)を起こすこともあります。
このような全身反応をアナフィラキシーといいます。

アナフィラキシーはハチ毒に含まれる酵素が原因であると言われます。
酵素に対するIgE抗体が体の中で作られるようになると、次に同じ酵素が体に入ったときに強い免疫反応を起こします。

小児内科2012年増刊号によると、アシナガバチやスズメバチにはホスホリパーゼA1という酵素が含まれ、ミツバチにはホスホリパーゼA2という酵素が含まれます。
アシナガバチとスズメバチは酵素が一部同じであるため、スズメバチに刺されてIgE抗体ができた人が次にアシナガバチに刺されてアナフィラキシーを起こすということは十分にありえます。

余談ですが、ホスホリパーゼという酵素はヒアリの毒にも含まれます。
そのため、ヒアリに刺されたことがある人がハチに刺されると、初回でもアナフィラキシーを起こすことがあります。
ヒアリについては、こちらの記事に少しだけ書いています。

虫刺され。ヒアリ、マダニ、アブを小児科医が考える。

2017.07.11

ハチ刺傷に対する治療

局所反応に対する治療は、刺されたところを水洗いし、冷やし、抗ヒスタミン薬やステロイド軟膏を使います。

アナフィラキシーには、アナフィラキシーガイドラインに準じて治療します。
詳しくはアナフィラキシーに関する記事で書きます。

エピペンを持っている場合は、指導にしたがって速やかに打ちましょう。
ハチによるアナフィラキシーは急速に進行します。
Lessons for management of anaphylaxis from a study of fatal reactions.(Clin Exp Allergy. 2000; 30: 1144-50.)に、重症の食物アレルギーは死亡までに30分かかるが、重症のハチアレルギーは死亡まで15分であると書かれています。
小児内科2012年増刊号にも「アナフィラキシーによる死亡例は救急病院到着時には心肺停止状態である」とあります。

古い論文ですが、Nonfatal results in third-degree anaphylaxis from hymenoptera stings.(J Allergy. 1970; 45: 92-6.)には刺されてから30分以内にアドレナリンを投与できた場合、死亡者はいなかったと報告されています。
エピペンを速やかに注射することは、急速に進行するアナフィラキシーによる死亡を防げるかもしれません。

その後の対応

ハチに刺された場合、症状が治まったらもう終わりというわけではありません。
その後の対応が大切です。

小児内科2012年増刊号には「初回刺傷から1か月以上経過後にハチ毒特異的IgE抗体(RAST)を測定し、class2以上なら再刺傷時に全身反応を生じる可能性がある」とあります。

ミツバチ、アシナガバチ、スズメバチで検査することができますが、アシナガバチとスズメバチで抗原となる酵素が共通していることや、子どもがハチの種類を間違えて思いこんでいるケースを考えれば、3種類とも測定してしまうのがよいと思います。

ネルソン小児科学では、採血検査では偽陽性率20%、偽陰性率20%あり、プリックテストのほうが感度が高いとあります。
ですが、ハチのエキスを常備している病院はあまりないと思いますので、血液検査が主体になると思います。

血液検査でIgEが陽性になる確率は、おおよそ10%です。(アナフィラキシーの危険率からの推定ですので、正しくないかもしれません)
class2以上であるなら、エピペンの所持を検討します。

「親がイチゴ農家で、家のすぐ横にイチゴ園があるんです」というご家庭なら、ぜひエピペンを持つべきです。
ミツバチアレルギーの92.1%がイチゴ農家だというデータもあります。(総合アレルギー学2010)

「もう二度とハチには刺されません!」という強い自信があれば経過観察も考慮されるかもしれませんが、ハチは日本中どこでもいることを考えれば、ハチに対してIgE抗体があるケースではエピペンを所持しておくべきだと私は思います。
一生エピペンを携帯すべきというわけではなく、例えばSurvey of patients after discontinuing venom immunotherapy.(J Allergy Clin Immunol. 2000; 105: 385-90.)では、ハチ毒にIgE抗体ができたため、再度刺されると60%の確率でアナフィラキシーが起きるような人でも、14年もすればアナフィラキシーが起きる確率は20%にまで減っています。

年に1回エピペンを処方しつつ、ある程度成長するまで観察し、地域性や職業を考慮していつかエピペンを卒業するということになると思います。

アナフィラキシーの判断や、エピペンを使うタイミングについては、こちらの記事に書きました。

アナフィラキシーショック。エピペンを上手く使えますか?

2017.07.25

アレルゲン免疫療法について

エピペン以外にアナフィラキシーを予防する方法として、アレルゲン免疫療法が知られています。
アレルゲン免疫療法を簡単に言うと、ハチ毒エキスを皮下注射し、体をハチ毒に慣れさせるという治療です。

ハチ毒におけるアレルゲン免疫療法の有効性は高く、ネルソン小児科学でも「95-97%が有効」とされています。

アレルゲン免疫療法はアナフィラキシー発症予防に有効ではありますが、副反応に注意が必要であり、また日本ではまだ保険適応がないこともあって、一般的な病院では実施できません。

第3回アレルギー講習会(2016年)の講義では、日本アレルギー学会では保健適応化に向けて準備中とのことでした。
ただ、おそらく16歳以上で林業、農業などに従事しているハイリスクの人に限定されるのではないかと思います。

子どもの場合は、エピペン保持が基本になるのではないかなと私は思っています。

まとめ

ハチの分類から、ハチに刺されたときの症状、治療、その後の対応についてまで書きました。

小児科医をしていれば、ハチに刺された子どもはよく経験します。
アナフィラキシーを起こしたのでなければ、抗体検査をしない先生もいるでしょう。
確かにネルソン小児科学にも、局所反応のみであればアレルギー検査の適応とならないとあります。

ハチに刺されたとき、抗体の検査をするかどうか、エピペンを持つかどうかについて、明確な指針があるわけではありません。
基本にならって、子どもと親と小児科医が相談して方針を決めるというのが良いと思います。

子どもがハチに刺されたときは、ぜひ小児科を受診してください。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医。神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、兵庫県立柏原病院小児科医長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。