鶏卵アレルギー発症予防に関する提言。大切な2ステップ。

2017年6月6日、日本小児アレルギー学会が「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」を発表しました。

リンク先から提言を読むことができます。
詳しくは提言を実際に読んでいただければよいのですが、さらっと読むには少し分量がありますし、アレルギーに関する専門用語も多いです。

今回は、「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の内容をできるだけ分かりやすく説明したいと思います。

卵アレルギーのリスクがある子どもとは?

卵アレルギーは乳児の食物アレルギーの中で、もっとも頻度が高いです。
約10%の乳児が卵アレルギーを持っているとされます。

そういう意味では、すべての子どもが卵アレルギーに対して一定の注意が必要です。
その中でも、特にリスクが高いのが「アトピー性皮膚炎」を持っている子どもです。

皮膚に湿疹があると、皮膚は正しいバリア機能を果たせなくなります。
バリア機能が壊れた皮膚に卵がつくと、卵の成分が皮膚から体内に侵入します。
皮膚からの侵入という正しくない経路で卵を摂取すると、正しい免疫応答ができず、卵アレルギーになるのではないかという説があります。
これを経皮感作説と呼んでいます。

アトピー性皮膚炎、すなわち皮膚に赤くて痒い湿疹がある子どもは、卵アレルギーになりやすいのです。

卵アレルギーのリスクがある子どもに対する予防策

アトピー性皮膚炎を持っている子どもは、卵アレルギーのリスクがあります。

卵アレルギーのリスクを下げる方法があります。
それが今回発表された「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」です。
これは2つのステップで構成されます。

  1. アトピー性皮膚炎をコントロールする。
  2. 生後6か月から卵を食べ始める。

まず、アトピー性皮膚炎を治しましょう。
保湿と、適切なレベルのステロイド療法が大切です。
ステロイドは正しく使えば本当によく効きます。
生後6か月までに、湿疹をコントロールしましょう。

スキンケアでアトピー性皮膚炎をコントロールできたら次のステップへ行きます。
生後6か月から、微量の固ゆで卵を食べはじめます。
ここでいう微量というのは「0.2g」程度を指すと私は理解しています。

この微量というのをPETITスタディという論文では3か月続けていますが、今回の提言ではそこまでの言及はありません。
提言には「微量の摂取ができたなら、従来通りの離乳食の進め方でよい」と書いてありますので、生後7-8か月頃にかけて卵黄1個〜全卵1/3個まで徐々に増やしていくとしてよさそうです。

アトピー性皮膚炎がコントロールできないとき

アトピー性皮膚炎が重度でなかなかコントロールできない場合もあるでしょう。
またいったんコントロールできたものの、卵を微量で開始したら再び湿疹が悪化することもあるでしょう。

こういうケースでは「食物アレルギーの関与する乳児アトピー」の可能性があります。
検査すべき検査は以下です。

  • 皮膚テスト(プリックテスト。ほんのわずかに皮膚に傷をつけ、そこに卵エキスをつけてじんましんが出るかどうか検査します)
  • 血液検査(乳児期ではあまり参考になりません)
  • 除去テスト(母乳栄養ならお母さんに卵を2週間ほどやめてもらいます)

これらを参考に、卵の摂取を続けるかを考えます。

アトピー性皮膚炎がない子どもはどうするのか

アトピー性皮膚炎がない子どもは卵アレルギーのリスクはそれほど高くないと考えられます。
アトピー性皮膚炎がない子どもには、今回の提言にある予防法(生後6か月から微量で食べ始める)は不要です。
ふつうの離乳食の進め方でかまいません。

2007年の「授乳・離乳の支援ガイド」では生後5-6か月から離乳食を開始し、生後7-8か月頃から卵黄1個〜全卵1/3個としています。

これを参考に、自宅で少しずつ卵を食べさせていけば大丈夫です。

具体例:生後4か月にアトピー性皮膚炎と診断されたケース

せいやくんは生後2か月頃から顔や体に赤いぶつぶつがよく出るようになりました。

特に頬やおでこ、頭皮に湿疹が強いです。

予防接種の時に、ついでに小児科の先生に相談すると「おそらく乳児湿疹でしょう。まずは適切なスキンケアからやってみましょう」と言われました。
スキンケアの方法(石けんでよく洗うこと、タオルでこすらないこと)と、保湿剤を処方されました。

1か月ほどスキンケアをしましたが、顔や頭皮、体の湿疹は治りません。
かゆいようで、生後3か月になってからはお母さんの肩やタオルケットによく顔をこすり付けます。

湿疹が続くために小児科を受診すると、「慢性的に湿疹が続く場合は、アトピー性皮膚炎かもしれませんね。乳児期にアトピー性皮膚炎があると、食物アレルギーなど他のアレルギーにも影響するかもしれません。アレルギーを専門にしている先生に紹介します」と紹介状を書いてもらいました。

アレルギーを専門としている小児科を受診すると、「なるほど、確かに顔や首、肘など典型的な場所に湿疹があります。この湿疹は1か月続いているんですね。皮膚も全体的に乾燥肌が目立ちます。きょうだいや親御さんはアトピー性皮膚炎ではありませんでしたか?」と詳しい問診と診察が続きました。

そしてアトピー性皮膚炎と診断され、保湿とステロイドの使い方を詳細に説明され、定期的にスキンケア指導を受けることになりました。

2か月ほど経過し、湿疹はほとんど改善し、保湿をたっぷりしていればあまり湿疹は出ないか、ときどき軽い湿疹が出てもミディアムクラスのステロイドを塗れば短期間で改善するくらいにまでコントロール良好になりました。

せいやくんは生後6か月になりました。
いつものように、アレルギーを専門とする小児科を受診します。
先生は「アトピー性皮膚炎のコントロールはずいぶんいいですね。そろそろ卵を始めてみましょう。20分しっかりゆでたを固ゆで卵を、ごく少量から開始していきましょう。そうですね、まずは黄身から始めて、皮膚の状態をみながら徐々に卵白も始めていきましょう。そうしたほうが、卵アレルギーを予防できるんですよ」

医者に定期的に皮膚を評価されながら、卵を始めていくことになりました。

今回の提言で現場は変わったか

アトピー性皮膚炎が卵アレルギーと関連することは以前から報告されていました。
この提言が発表される前から、私は離乳食開始前のアトピー性皮膚炎の子どもには「ここでしっかりアトピーを治しておくと、食物アレルギーが減るんですよ」と言って治療していました。

食べる時期を遅らせると、よりアレルギーになりやすいというのは、2015年にピーナッツで証明され、2016年には卵でも証明されました。
ですから私は「勇気をもって、少量から食べていきましょう。早いうちからちょっとでも食べていれば、アレルギーを抑えられる可能性がありますよ」と説明して、慎重に卵を開始していました。

つまり、今回の提言の前から、すでに卵アレルギー予防策は医療の現場で実践されていました。
(少なくても私は実践していました)

今回の提言は、いままでの論文の成果を今一度強調したものです。
学会の声明として、卵アレルギーのリスクがある子どもに対してどう介入していくべきなのか、その方向を示して頂いたのは、現場の臨床医として心強く思います。

まとめ

日本小児アレルギー学会が発表した「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」ついて書きました。
今回の提言は、アレルギー専門医が正しく介入すれば卵アレルギーを減らすことができるという、医者にも患者さんにも自信を与えてくれるものでした。

この提言をうまく使うためにもっとも大切なのは「正しいアトピー性皮膚炎の診断」です。
今回の提言はアトピー性皮膚炎の子どもにしか適応されません。
アトピー性皮膚炎を診断できなければ、今回の提言を利用できません。

さらに大切なのは、アトピー性皮膚炎をうまくコントロールすることです。
適切なスキンケアをできますか?
保湿、ステロイドを上手く使えますか?

そこまでできて、ようやく「卵を生後6か月から微量食べさせる」というステップに勧めるのです。

最後に注意点について書きます。

それは、今回の提言は「予防」であり、卵アレルギーと確定している乳児には適応できないという点です。
乳児期の腸管バリア機能は未熟であるため、卵アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎に対して生後6か月から卵を食べさせていくという戦略は食物アレルギーをさらに悪化させる可能性があります。
食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎については、乳児期ではしっかり除去することも治療となりえます。
これについてはこちらの記事に書きました。

食物アレルギー。「除去して治す」と「食べて治す」のエビデンス。

2018年10月9日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。