熱性けいれんの予防法。間違えやすい4つの落とし穴。

小児科医であれば多くが知っているであろうことですが、意外とお父さん・お母さんには伝わっていないことがあります。

その一つが、熱性けいれんの予防についてです。

今回は熱性けいれんを防ぐうえで、間違えやすい4つの落とし穴について書きます。
その上で、本当に正しい熱性けいれん予防について書きます。

熱性けいれん予防と落とし穴

熱性けいれん。
わが子がけいれんしている姿をみると、本当に不安になります。
熱性けいれんをできるだけ予防したいと思うことでしょう。

では、どうすれば熱性けいれんを予防できるでしょうか。

  • 解熱薬をいっぱい使う。
  • 予防接種を受けないようにする。
  • 風邪をひいたらすぐに小児科を受診して風邪薬をもらう。
  • けいれん予防薬(ダイアップ坐剤)を使う。

以上の4点をがんばっているお父さん・お母さんを私は実際に経験しました。

これらの方法は、実際に役に立つのでしょうか。

解熱薬は熱性けいれんを予防できるか

Do antipyretics prevent the recurrence of febrile seizures in children? A systematic review of randomized controlled trials and meta-analysis.」という論文で、解熱薬は熱性けいれんを予防しないという結論が出ています。

私の経験上でも、解熱薬をたくさん使っても子どもが高熱になることは防げていません。
頻回に解熱薬を使っても、どうしても一時的に熱は上がります。
そして高熱になる瞬間があれば、熱性けいれんは起きます。

解熱薬が熱性けいれんを予防できないことを説明するとき、「解熱薬は一時的に熱を下げますが、効果が切れたときに急激に熱が上がります。この急激に熱が上がるときに、脳がびっくりしてけいれんを誘発します。だから解熱薬を使っても熱性けいれんは予防できないんですよ」と説明することがあります。

この説明は、実はエビデンスがありません。
ですが、「この子は熱性けいれんしやすいから、ちょっとでも熱が出たら解熱薬をいっぱい使わなきゃ!」と思いこんでいるお父さん・お母さんにこの説明をすると、少しブレーキになることがあります。

予防接種は熱性けいれんを起こすか

確かに予防接種を打つと、反応熱という形で発熱すること子どもを経験します。
予防接種の反応熱で熱性けいれんを起こすことは原理上ありえるでしょう。

小さい子どもがけいれんするのは怖いですから、もう少し大きくなるまで(5歳くらいまででしょうか?)予防接種を控えたいという親御さんの気持ちはよく分かります。

ですが、B型肝炎ワクチンや肺炎球菌ワクチン、Hibワクチン、四種混合ワクチンは、乳児・幼児にこそ接種して欲しいワクチンです。
これらのワクチンが防ぐ感染症は、小さい子どもでより重症化するからです。

反応熱による熱性けいれんは不安かもしれませんが、予防接種による利益はとても大きいですので、長くても2-3か月以内に予防接種を再開することが熱性けいれん診療ガイドライン2015でも推奨されています。

熱性けいれんを何度も繰り返して、またはけいれんの時間が15分以上と長く、親の心配も強いケースでは、ジアゼパム座薬(ダイアップ)の使い方を教えてあげると、不安軽減に役立つかもしれません。
その結果、スムーズに予防接種を進めて行けるでしょう。

風邪薬は熱性けいれんに関連するか

風邪薬というのは咳をしずめたり、痰をきりやすくしたり、鼻水を止めたりする薬のことを指します。

このうち、鼻水を止める薬、いわゆる「抗ヒスタミン薬」というお薬は熱性けいれんと関連があるのではないかと言われています。

一部の抗ヒスタミン薬には鎮静作用を強く持っています。
その鎮静作用が強い抗ヒスタミン薬は熱性けいれんのけいれん時間を長くする可能性があります。

具体的にはぺリアクチン、ザジテン、ポララミン、アタラックスP、レスタミンなどは鎮静作用が強く、場合によっては熱性けいれんが長くなる可能性があります。
(なお、抗ヒスタミン薬には鎮静作用が少ないものもあります)

私は、私の指導医(神戸大学を研修していたころの早川先生)がぺリアクチンなどの鎮静作用が強い抗ヒスタミン薬を極力使わない方針で指導を受けたので、もし抗ヒスタミン薬を出すことがあっても、鎮静作用が少ないもの(ザイザルやジルテックやアレグラやアレジオンやアレロックなど)を出します。

けいれん予防薬(ダイアップ坐剤)は有効か

ダイアップは熱性けいれん予防に有効ですが、副作用もあります。

したがって、すべての子どもにダイアップを使うのはよくありません。
熱性けいれんを起こしやすい子どもにだけダイアップを使うのがよいとされます。

熱性けいれんを起こしやすいかどうかの基準として、熱性けいれん診療ガイドライン2015では、発作が15分以上続いた場合にダイアップを適応としています。
また発作時間が短くても、発作が24時間以内に反復したり、熱が出て1時間以内にけいれんしたり、乳児であったり、37度台の発熱でもけいれんしたりという要素を複数持つ場合も、ダイアップの適応となります。

ですが、これらの基準はあくまで目安であって、実際は個々のケースで判断します。

熱性けいれんの正しい予防法

熱性けいれんを防ぎたくて、解熱薬をいっぱい使ったり、予防接種をしなかったり、鎮静性の抗ヒスタミン薬の頻繁に使ったり、熱性けいれんのリスクが低いのにダイアップを頻繁に使ったりするのは、子どもに不利益があります。

たとえ熱性けいれんを何度繰り返しても、てんかんの原因にはなりません。
これはこちらの記事に書きました。

熱性けいれんはてんかんの原因にはなりません。

2017年5月4日

熱性けいれんの診療で大事なのは、お父さん・お母さんに正しいけいれんの知識を教え、熱性けいれんは良性の疾患であると理解してもらうことです。
これが正しい熱性けいれん予防の第一歩です。

良性疾患であることを理解してもらったうえで、熱を出さないための工夫、すなわち手洗いやうがい、規則正しい生活、家族を全員のインフルエンザワクチン接種などを指導します。

熱性けいれんは発熱しなければけいれんしませんので、風邪予防こそ最大の熱性けいれん予防です。

また、ネルソン小児科学には鉄欠乏症が熱性けいれんの発症率を増加させると書いてあります。
熱性けいれん予防として、鉄分をしっかり摂る食生活も大事です。
乳幼児期の鉄分補給として、フォローアップミルクも一考されますので、次の記事も参考にしてください。

母乳とフォローアップミルクの併用。鉄欠乏性貧血の見地から再考する。

2017年3月8日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。