頭を打った子どもが嘔吐。頭部CTは必要ですか?

お子さんが頭を打ったらどうします?

「どういう打ち方をしたかによりますよ」

多くのお父さん・お母さんはこう答えるでしょう。

子どもが、その弟(もしくは妹)にプラスティック製のおもちゃで頭をポカリと叩かれるという場面は、子どもを2人以上持つお父さん・お母さんにとっては時々あるかもしれません。
叩かれた子どもはいつもと様子が変わらず、たんこぶすらできていない程度なら、病院に連れていくことはないと思います。

お父さん・お母さんは、無意識のうちに頭部外傷の状態を評価・判断しています。
これを医学用語では「トリアージ」といいます。

では、次の場合はどうでしょうか。

  • 生後6か月赤ちゃんが1mの高さのベッドから落ちた。
  • 7歳の子どもがジャングルジム(2m)から落ちた。落ちた後も元気にしているが、落ちたときのことを覚えていないという。
  • 10歳の子どもが逆上がりに失敗して頭から落ちた。2時間後に嘔吐を1回した。

こういう状況では、病院を受診するでしょう。
受診する科としては、小児科か脳神経外科か救急科が望ましいです。
なお、日本小児放射線学会雑誌2012年1月号によると、意識状態の良好な軽症の頭部外傷は小児科を受診する傾向があるようです。

頭部外傷の評価としてPECARNとCATCHとCHALICEという基準がよく使われます。
今日は頭部打撲について、各基準の陰性的中率という観点で書きます。

子どもの頭部外傷は多い

頭を打ってしまう子どもはとても多いです。
⻘梅市⽴総合病院救命救急センター2013年データでは、受診する子どもの1/3が頭部外傷だということです。

子どもは体全体のおける頭部の割合が大きいです。
おとなは8頭身でも、2歳児は4頭身くらいです。
おとなに比べて、子どもは頭の割合が大きくて、アンバランスな体形をしています。
子どもは転ぶと、頭から落ちてしまうケースが多くなります。

小児科医は頭部外傷の相談をよく受けます。
ですから、頭を打った時の対応についてもよく知っています。

頭部外傷に対する小児科医の視点

「先生、子どもが頭を打ってしまったんです」

「分かりました。状況を詳しく聞かせてもらえますか?」

小児科医は事故の状況を詳しく聴取し、その後子どもの状態を診察するでしょう。

小児科医は何を考えながら診察しているのでしょうか。

私は多くの場合で「この子どもに、頭のCTを撮る必要があるかどうか」を考えながら問診・診察をしています。

頭部CTのメリット・デメリット

頭部CTを撮るメリットは何でしょうか。
頭部CTは、脳挫傷や頭蓋内出血、頭骨の骨折などを診断することができます。
早期診断は早期治療につながり、子どもの予後を改善させるかもしれません。

いっぽうで頭部CTにはデメリットもあります。
画像診断ガイドライン2013では、リスクの低い頭部外傷でCTを撮影することは推奨グレードD:「無効性あるいは害を示す科学的根拠あり」とされています。
これは、CT撮影による被爆と、発がんリスクとの関連を考慮した結果です。

頭部CTの適応

リスクが高い頭部外傷にだけ頭部CTを撮り、リスクの低い頭部外傷にはCTを撮らないのが理想です。

リスクのあるなしはどうやって判断すればいいでしょうか。

前述の画像診断ガイドライン2013では、CHALICEというイギリスのガイドラインを紹介しています。
他にもアメリカが推奨しているPECARNや、カナダが推奨しているCATCHもあります。

PECARNとCATCHとCHALICEの特徴(適応基準やアウトカム)と、それぞれの長所と短所については別記事にまとめました。

小児の頭部外傷の指標。PECARNとCATCHとCHALICEのまとめ。

2017.06.07

LANCETという医学会では最も権威のある雑誌の一つが、つい最近「Accuracy of PECARN, CATCH, and CHALICE head injury decision rules in children: a prospective cohort study(Lancet. 2017 Apr 11)」という論文を掲載しました。

陰性的中率という、「CTを撮らなくてもいいよという結果だったとき、CTを撮らなくて本当に大丈夫だった確率」はPECARNで100%、CATCHも100%、CHALICEで99.8%となっています。

そして、PECARNもCATCHもCHALICEも有用だと書かれています。

実臨床への応用

ここで8歳の女の子が、逆上がりの練習に失敗して、地面に頭をぶつけ、その2時間後に嘔吐したというケースを考えてみましょう。
嘔吐は1回だけで、来院時は元気そのものです。

「PECARNでは嘔吐があるので、頭部CTを撮るべきですね!」

いや、ちょっとまってください。
実はPECARNはあまりにも軽度な外傷は除外されるんです。

逆上がりで失敗して頭をぶつけるのは、転んで地面に頭をぶつけるのとそれほど変わらないように思えます。
PECARNでは除外されるような症例かもしれません。

「それじゃあCATCHですね!CATCHの項目には入りませんから、CTは撮らなくていいです!」

そうかもしれませんが、実はCATCHの適応基準にも入りません。
CATCHでは、嘔吐が1回だけだと適用基準にならないのです。

「では、CHALICEですか……?CHALICEだとCTは撮らなくていいとなりますが、CHALICEは陰性的中率が99.8%、つまり500人に1人は誤診しちゃうってことですよね……。自信ないなあ」

小児科医は、陰性的中率というものにどう向き合えばいいのでしょうか。

個人的な意見

前述の論文を読んだ、私見を書かせてください。

陰性的中率はどのデザインでもほぼ100%ではありますが、そもそも小児の頭部外傷において、臨床的に意義のある頭蓋内損傷がある確率は1.4%です(上記の論文)。

つまり、全く診察をせず、検査もせず、「子どもの頭部外傷は大丈夫ですよ」と乱暴な診断をしたとしても、98.6%の確率でその診断は当たってしまいます。

PECARNは陰性的中率100%と書きましたが、正確には2歳以上の子どもにおいての陰性的中率は99.98%です。
PECARNでリスクを層別化しても、5000人に1人は重篤な頭部外傷を見逃してしまうという確率です。

これが、医学の限界だと私は考えます。
PECARNにせよCATCHにせよCHALICEにせよ、100%の安心を提供することはできません。
検査前確率、診察後の確率を提示し、被爆のデメリットを伝え、検査するかしないかを親御さんと医者と、できれば子ども本人とで決めるしかありません。

そして、CTを撮って異常がなかった場合でも、撮らなかった場合でも、自宅でどういう症状に気をつけるべきかを伝えましょう。

なお、受傷したばかりの頭部CTでは出血が分からないこともあると脳外科の先生に言われたことがあります。
数時間あけて2回撮らなければ確実な診断はできないという内容でした。
しかし、頭部CTを2回撮ると、脳腫瘍のリスクが3倍になるという報告もあり、難しいところです。

まとめ

頭部外傷において、頭のCTを撮るべきかどうかのゴールデンスタンダードはありません。
PECARNもCATCHもCHALICEも有用な検査ですが、絶対ではありません。

それを知った上で、患者さんに最良の選択肢を提示するのが小児科医の役割だと思います。