母乳とフォローアップミルクの併用。鉄欠乏性貧血の見地から再考する。

この記事は2017年3月8日に公開しました。
2017年3月12日に母乳との併用について追記しました。

「フォローアップミルクってどう使えばいいんですか?」

特に、母乳栄養で頑張っているお母さんから質問されることが多いです。

この疑問を主訴にお父さん・お母さんが小児科を受診することは、まずありません。
これは「何かのついでに、さりげなく」される質問の代表格です。

「何かのついでに、さりげなく」系の質問は、たいてい診察が終わって、患者さんが診察室から立ち去る直前に質問されます。

「フォローアップミルクは、生後9か月から使えますよ。ですが、フォローアップミルクは別にそれほど重要ではないので、使わなくても大丈夫です」

たいていの小児科医はそう答えて、その場を切り抜けているのではないでしょうか。

というのも、多くの小児科医がフォローアップミルクについて知識を持ち合わせていないのです。
適切にアドバイスできない小児科医は、とりあえずその場をごまかすことしかできません。

ですが、母乳栄養の子どもにとって、フォローアップミルクについて考えることはとても大事です。
今回は、フォローアップミルクについて書きます。

フォローアップミルクの特徴

とにかく鉄分が多いです。
そして、安いです。
フォローアップミルクの特徴は、この2点に尽きるといって過言ではありません。

母乳100ml中の鉄は0.04mg、乳児用調製粉乳には0.9mg、フォローアップミルクには1.2mg、牛乳には0.02mg入っています。

乳児用調製粉乳とフォローアップミルクには、母乳の20倍から30倍の鉄分が入っています。
そして牛乳にはほとんど鉄分が入っていません。

他にもカルシウムやビタミンDなどが違いますが、鉄分ほどの違いではありません。

フォローアップミルクについてとにかくシンプルに考えるなら、「鉄分が違う!」という点だけ押さえておきましょう。

乳幼児の鉄欠乏性貧血

鉄分が違う、という点をどう解釈すればいいのでしょうか。

実は、母乳栄養の赤ちゃんの多くが生後9か月で鉄欠乏性貧血になっています。

完全母乳で鉄のサプリメントを与えていない生後9か月の赤ちゃんは、アルゼンチンの研究では27.3%が、ホンジョラスの研究でも27.3%、日本の研究でも22.2%が鉄欠乏性貧血になっていました。

小児科臨床2014年12月号の木村正彦先生の報告では、鉄欠乏性貧血17人の栄養を確認したところ、全員が母乳栄養だったということです(ただし、貧血を臨床的に疑ったというinclusionが不明確で、事前に栄養法を把握していたのではないかという選択バイアスを感じはします)。

Isomuraらの報告でも示されているように、母乳栄養のほうが鉄欠乏性貧血になりやすいのは事実のようです。

乳児の鉄の必要量

日本人の食事摂取基準(2015年)によると、生後5か月までの赤ちゃんは、1日0.5mgの鉄分を摂ることが推奨されています。
生後6か月から11か月までは、体が大きくなり、また体内の貯蔵鉄が枯渇するため、1日3.5mgの鉄分が必要となります。

1日の哺乳量が780mlだとすると、乳児用調製粉乳だと1日6mgの鉄分が摂れますが、母乳だと1日0.34mgの鉄分しか摂れません。

これでは、母乳栄養児は鉄分が不足し、鉄欠乏性貧血になってしまいます。

貧血と神経発達

別に貧血になっても、赤ちゃんの発達に影響がなければ問題はないわけです。
ですが、もし貧血が赤ちゃんの発達と関連するのなら、小児科医は全力で貧血と戦わなければなりません。

出生体重2000~2500gの赤ちゃんに対して、生後6週間から生後6か月まで鉄のサプリメントを飲ませ、3歳6か月児の知能テストと行動テストをしたランダム化比較試験があります。(Effects of iron supplementation of LBW infants on cognition and behavior at 3 years.Pediatrics. 2013 Jan; 131: 47-55.)

知能面では鉄のサプリメントは有効性を認めませんでしたが、行動面では鉄のサプリメントを飲んでいないほうが異常な子どもが多かったという報告でした。

鉄は脳や神経の発達に重要と言われており、この論文は乳児に鉄を投与することで、神経発達が改善する可能性を示唆しています。

鉄欠乏を防ぐために

鉄欠乏は行動発達を悪化させるため、アメリカの小児科医は鉄欠乏性貧血と戦っています。

アメリカでは、完全母乳の赤ちゃんには生後4か月から鉄のサプリメントを投与することが推奨されています。
1970年代のアメリカは幼児期の20%が鉄欠乏性貧血でしたが、1994年の調査では3%にまで減ったと報告されています。

アメリカでは、次の場合に生後9~12か月に鉄欠乏性貧血がないかチェックすることが推奨されています。

  • 母乳栄養でかつ生後6か月以降に十分に鉄を含んだ食事(サプリメント)を摂取していない場合。
  • 牛乳を飲んでいる場合。
  • 未熟児の場合。

日本において、1歳未満で牛乳を与えるお母さんはあまりいないと思います。
牛乳は鉄分がほとんど入っていない上に、ミネラルとたんぱく質が高すぎて腎臓への負担が高いことで知られています。

ですが、母乳栄養が叫ばれ、日本でも母乳栄養を頑張るお母さんが増えてきたため、鉄欠乏性貧血の注意が必要です。

フォローアップミルクを母乳と併用する意義

「フォローアップミルクは必要ない」という意見は多いです。
確かに、乳児用調製粉乳を使っている赤ちゃんは、鉄を十分に摂取できているので、フォローアップミルクは必要ないかもしれません。

ですが、完全母乳の場合はそうはいきません。
「母乳栄養でもフォローアップミルクは必要ない」という意見を肯定するには、「母乳栄養の場合は十分な鉄のサプリメントを投与しているか、鉄欠乏性貧血のチェックをしている」という前提が必要だと思います。

鉄のサプリメントも与えず、貧血のチェックもせず、「フォローアップミルクは必要ない」では、必要ないとする根拠が薄弱です。

WHOは2歳以上まで母乳を続けてよいとしています。
私も母乳の優位面は尊重しています。
ですが、鉄欠乏性貧血を受容するつもりはありません。

鉄のサプリメントの代わりとして、フォローアップミルクでパンケーキを作って生後9か月以降の離乳食(これは文字通り補完食ですね)やおやつとするのは適切だと思います。

クックパッドで「フォローアップミルク 離乳食」で検索すれば、いろいろレシピが出てきます。
鉄分補給によさそうです。

また、栄養の補助として、食事のときにフォローアップミルクを与えるのもよいです。
ただし、完全母乳だった赤ちゃんに哺乳瓶でフォローアップミルクを与えると、乳頭混乱を起こして母乳を飲まなくなるかもしれません。
フォローアップミルクを飲ませるときは、コップやマグカップで与えてください。

また混合栄養で赤ちゃんであれば、生後9か月以降は乳児用調製粉乳をフォローアップミルクに変更するのもいいでしょう。
鉄は乳児用調製粉乳にも多く含まれていますので、栄養面的にはあまり大きな変化はありません。
ですが、経済面で大きく違います。
フォローアップミルクはずいぶん安いです。

まとめ

貧血に無頓着な小児科医が多いように感じています。
「母乳が大事!母乳は最高!」と叫びすぎて、貧血のことを忘れていないか心配になります。

日本での完全母乳が普及してきているのは喜ばしいことです。
ですが、欧米とは異なり、鉄が十分含まれた離乳食(補完食)が普及しているとは言い難いです。

「鉄欠乏性貧血を防ぐために、鉄のサプリメントを」と言われても、赤ちゃんにサプリメントを飲ませるのは抵抗があります。
レバーやモモ肉、ほうれん草、小松菜などを離乳食(補完食)としてあげていくことになるでしょう。

レバーもほうれん草もあまり食べてくれないというときは、フォローアップミルクを使った離乳食というのも私は良い方法だと思います。

鉄が補強された牛乳として、フォローアップミルクは、鉄欠乏性貧血にさらされている完全母乳の子どもにこそ必要となるかもしれません。

フォローアップミルクの再考の余地は十分にあると思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。