小児科専門医試験の症例要約。確実に合格する3つの注意点。

小児科医6年目にとって、大きな難関となるのが小児科専門医試験です。
ほとんどの小児科医が合格するのですが、2割から3割くらいの人は落ちます。

現場で一生懸命頑張っていれば合格できるというものではありません。
幅広い分野で、エビデンスとして確立した知識が問われます。
ある病院のある先生だけが行っている治療というのは、たとえどんなに効果が高くて優れていても、試験には出ません。
ある程度、教科書的な勉強が必要です。

専門医試験は出願の準備だけでも大変です。
特に大変なのが症例要約です。
30症例書くというのがなかなか大きな関門です。

症例要約で落ちるということは、まずないようです。
2014年の日本小児科学会学術集会で関西医科大学の金子先生が以下をおっしゃってました。

  • 筆記試験の合格率:81.46%
  • 面接試験の合格率:99.60%
  • 症例要約の合格率:97.17%

筆記、面接、症例要約の全てに合格して小児科専門医となれるわけですが、とにかく大事なのは筆記試験です。

症例要約は、次の3つのことさえ守れば大丈夫です。
絶対に落ちません。

診断と治療の根拠としたガイドラインを書く

例えばですが、川崎病に対してガンマグロブリンを使わずに、ウリナスタチンで治したとします。
冠動脈瘤もできず、経過良好です。

これを症例要約に書いても、試験官に「治療が適切だったのか」を判断できません。
少なくても川崎病急性期治療のアルゴリズムには沿っていません。

ウリナスタチンを否定するつもりはありません。
適切な臨床研究によって、今後ガンマグロブリン以外の第一選択薬になる可能性もあると思います。

ですが、専門医になるための症例要約は、「いかにガイドラインに沿った治療をしたか」です。
基本を知らずに応用はできません。

症例要約には「○○のガイドラインに沿って、○○と診断し、○○の投与を行った」と書きましょう。
採点する試験官も、診断・治療の根拠となったガイドラインがあれば採点が楽です。
ガイドラインとまでいかなくても、「小児科診療○年○号○頁を参考に」と書いてくれれば、あなたのした治療が無茶苦茶ではないことを分かってもらえます。

あなたの施設ではルーチンとなっている検査・治療も、あなたの施設外の試験官から見れば、エビデンスの乏しい治療とみなされてしまうかもしれません。
診断、治療はエビデンスを明らかにしましょう。

インフォームドコンセントを丁寧に書く

腸重積で高圧浣腸をします。
高圧浣腸の前に、リスクを説明しましたか?
整復の奏功率、再重積率を説明しましたか?
観血的な処置という選択肢があることを示しましたか?
高圧浣腸について同意を得られましたか?

ここを丁寧に書きましょう。
代替治療とのメリット・デメリットを書き、患者さんと相談して治療を決めたということを書きましょう。
治療の中心は患者さん自身です。
小児科の場合は、子どもとその両親が中心です。
私たちはそのお手伝いをしていると試験官に伝わるように書きましょう。

転帰と退院後の指導を絶対に書く

マイコプラズマ肺炎で退院したら、いつから学校に行っていいかを絶対伝えましょう。
「治った!終了!」ではダメです。
退院後に気をつけることがあれば書きましょう。
気をつけることがなければ、「もう大丈夫です」と言って安心させたことを書きましょう。

高次施設に転院したという症例もあるでしょう。
そういう症例も症例要約にしてよいです。
ただし、急性期症状が落ち着かないうちに転院したのでは、あまり得点にならないでしょう。

「RSウイルス肺炎で入院した乳児が、呼吸不全を起こしたので、高次施設に送った」という内容では、残念ながらあなたの症例ではありません。

「ダウン症で、両親と細やかなコミュニケーションを取ったうえで、染色体検査で確定診断までした。心臓のことで循環器センターに転院となったが、心臓のことが終われば、当院で発達フォロー、リハビリテーション、甲状腺や白血病や白内障のフォローを続けていく」という症例であれば、あなたの症例です。

明確な基準はありませんが、やはりある程度の期間を担当医として診ていたのであれば、その期間のことを要約し、そして転院先で受けられるだろう検査と、その結果の推測、そしてその子がどうなっていくかの予測を書きましょう。

まとめ

症例要約の評価は以下の5項目です。

  • 簡潔さ
  • 診断のアプローチ(臨床判断)
  • 治療の適切さ
  • インフォームドコンセント(治療の選択・倫理的配慮を含む)
  • 転帰と退院後の具体的な指導(患者および家族)

「簡潔さ」とはありますが、30行以内に症例をまとめるのですから、必ず簡潔になります。
「10行で簡潔に書きました!」だと、他の4項目が必ずおろそかになっています。
簡潔さは気にしなくていいです。

根拠としたガイドラインを書き、治療前の説明、退院時の説明をしっかり書けば、絶対に大丈夫です。

なお、あまり複雑な症例は、採点する側からは歓迎されません。
心疾患があって、心不全からショックを起こして、肺水腫にもなって、敗血症も起こして、けいれんも起こして、低体温療法をして……これでは、おそらく30行ではまとめきれないでしょう。
論点も不明瞭になります。

できるだけシンプルな症例を選びましょう。
論点にならない合併症については省略してもよいと考えます。
過敏性腸症候群の子どもについて書きたいのであれば、併存疾患として喘息があったとしても、喘息の治療については省略してもよいと思います。
逆に喘息の症例として書きたいのであれば、過敏性腸症候群の部分は省略したほうが論点がすっきりします。

ただし、遺伝・先天奇形・染色体異常の病気は、いろいろ複合的な問題が絡むものですから、それらは一つずつ丁寧に書くべきです。

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    小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。