40人以上の低身長を診察した小児科医による低身長外来の実際。

92cm。

この数字が何を指すか知っていますか?

これは、ユニバーサルスタジオでスヌーピーのグレート・レース(ワンダーランドの中にある室内コースター)に乗るために必要な身長です。

乗ったことがある人は知っていると思いますが、なかなかスリルと迫力が満点ですよね。
子供向けと思って軽い気持ちで乗ったら、結構スピードが出てびっくりします。

スヌーピーのグレート・レースに限らず、USJでは多くの乗り物が身長制限92cmを設けています。
92cm以上の身長があれば、結構たくさんの乗り物に乗れます。

続いて次の数値です。
93.3cm、92.2cm。

これは、3歳0か月の男の子と女の子の平均身長です。
こうして見ると、USJは3歳以上から楽しめる要素が多いです。

ちなみに、身長が92cmより少しだけ低い場合はどうでしょう。
大丈夫です、USJは靴を履いたまま身長を測ります。
91.5cmくらいなら、問題なく通過できますよ。

さらに、USJは4歳の誕生日の翌月まで無料です。
ぜひ、無料のうちにUSJを満喫してください。

以上、USJの裏技コーナーでした!

……という主旨ではないのです。
このブログは、医療記事しか掲載されないのです。
ここから、華麗な軌道修正で、医療記事にしてみます。

低身長の基準

86.4cm、85.5cm。
この数字はなんでしょうか。

これは、3歳0か月の男の子と女の子の低身長とされるラインです。

3歳の誕生日に身長が86.4cm以下の男の子、85.5cm以下の女の子は低身長となります。

この基準は、「-2SD」という尺度で決められています。
-2SDというのは、2.3パーセンタイル、すなわち、1000人の同じ誕生日で同じ性別の子どもを背の順番に並べたとき、前から23番目までにくる子どものということです。

簡単に例えるなら、40人クラスで背の順で並んだとき、先頭になる子どもが低身長です。(同じクラスでも3月生まれの子どもは4月生まれより背が低くて当然なので、この例は正確ではありません)

低身長は病気か

病気かどうかという議論は、個人的には好きではありません。
ダウン症は病気なのか、1型糖尿病は病気なのか、という議論になります。
「もちろん病気だ」という立場も「いろいろあるけれど、元気に生きている」という立場もあります。

これらの疾患は、状況によって病気であったり健康であったりするので、一概に議論できません。
その子自身の受け止め方も、親の受け止め方も千差万別で、状況によっては「個性」と受け入れられたり、状況によっては「健康に生まれたかった」と嘆いたりします。

ただ、低身長の一部には、早期に発見することで、体の健康を取り戻せる可能性があるものもあります。
ここではそういう「早期発見により治せるもの」を病気と定義します。
また、「治せるものなら治したいけれど、治療法がないために治せないもの」も病気と定義します。
そして、「保険診療上、治す必要がないもの」は病気ではないと定義します。

病気である低身長

子どもの背が低いことをお母さんが悩んで、小児科外来を受診したケースを想定しましょう。

私はまず「低身長の多くは個性です。背は低いけれど、健康的に楽しく人生を過ごせます。ですが、背が低い子どもの中には、ごくわずかですが、早期に見つけて早期に治療してあげないと、本来もっと健康的であるはずだった権利を損なう病気も混じっています。今からお子さんにすることは、そういう病気ではないことを確認することです」と説明します。

私がここで定義する「低身長の病気」は次の4つです。

成長ホルモン分泌不全性低身長

原因は不明ですが、脳の下垂体から成長ホルモンが出にくい性質になっています。
出生時に何らかの原因で脳下垂体が損傷を受けるのではないかという説もあります。
頭部MRIで下垂体に腫瘍があるケースもあるようです。(私は腫瘍を伴った低身長は診たことがありません)

低身長外来では、これを否定することが全てといっても過言ではないでしょう。
成長ホルモン分泌不全性低身長の診断をするためには、成長ホルモン分泌負荷試験が必要です。
この負荷試験を正しく行うことができれば、とりあえず低身長外来をやっていくことができます。

成長ホルモンによる治療ができます。

SGA性低身長

SGAというのは「在胎週数の割に小さい児」という意味です。
SGAかどうかは簡単に分かるソフトがあればいいのですが、市場に出回っているものでいいソフトがありません。
ノボ・ノルディスクのホームページで低身長症のセルフチェックができます。

他の低身長とは異なり、-2.5SD以下が治療の保険適応です。
3歳の誕生日のときに男の子で84.7cm、女の子で83.8cmが-2.5SDです。
また小児慢性特定疾患には認定されておらず、費用面でアドバイスが必要です。
成長ホルモンによる治療ができます。

甲状腺機能低下症に伴う低身長

クレチン症や橋本病による低身長です。
甲状腺ホルモンの内服で治療できます。

染色体異常や骨系統疾患、慢性腎不全による低身長

ターナー症候群とプラダー・ウイリ症候群、軟骨異栄養症、小児慢性腎不全による低身長は、成長ホルモン治療できる可能性があります。
しかし、これらの疾患は、低身長以外の理由ですでにフォローされているケースがほとんどです。

ターナー症候群だけは染色体検査で否定しておくことはしますが、それ以外の病気は一般的な低身長外来には、やってきません。
少なくても私は診たことがないです。

病気ではない低身長

甲状腺機能と染色体検査に異常がなく、生まれたときに小さくなく、負荷試験でも異常がなければ、「病気ではない低身長」と診断します。

病名としては「特発性低身長」とか「家族性低身長」とかになります。

「いろいろ検査しましたが、異常は見つかりませんでした。お子さんの背が低いのは、病気ではありません。個性です。暖かく見守っていくのはどうでしょうか」と私は説明します。

個性で納得するのか

40人以上の低身長を私は診療してきました。
その中で「病気です」と診断し、成長ホルモン治療を行ったのは3人だけです。

残りの37人は「病気ではありません、個性です」と言いました。

「病気です」と診断したほうの親は納得してくれました。
成長ホルモン療法にも意欲的で、治療後は身長の伸び率も増加しました。
子どもの自尊心も増しているように実感します。

治療してあげてよかったなあとつくづく思います。

一方で、「個性です」と診断した37人のうち、素直に納得したのは3割くらいです。
この3割というのは、3歳健診で低身長と言われ、特に治療を望まずに、とにかく病気ではないことだけを確認するために小児科外来に来ています。

この方たちは「個性」と言ってもらえて、すごく安心して帰られます。

では、残りの7割。
この方たちは「なんとかわが子の背を伸ばしてあげたい」という想いで低身長外来に来ています。

「個性です」では、なかなか納得できません。
中には、負荷試験の結果がすごく惜しい子どもも混じっています。
負荷試験の結果は、本当に再現性が低く、同じ子どもでも何度かやれば数値がかなりばらつくことに気づきます。

(もう1回やれば、保険適応が通るかも……)

そういう子どももいます。

どうしようか迷って、兵庫医科大学小児科教授の竹島先生に相談したこともありました。
負荷試験の結果は確かにファジーな部分があるけれど、1回の検査の重みをしっかり受け止めるべきという内容でした。

それを踏まえたうえで、「個性」では納得できないケース(親の希望もありますし、検査結果がギリギリで私が納得できないケースもあります。私はアルギニンとクロニジンで負荷試験をしますが、どちらか片方だけ低値なときは、もう1回負荷試験をしてみたくなります)には、数か月後または1年後にもう一度負荷試験をすることを提案しています。

これにより、多くのお母さんに納得して頂いているように思います。

面白いことに、この2回目の負荷試験で成長ホルモン分泌不全性低身長と診断されるケースもあるのです。
(ちなみに2回目の負荷試験は、アルギニン、クロニジン、インスリンの3つを負荷しています)

ですが、3回目以降で診断がついたケースは自験例ではありません。
2回してダメだったときが、納得するときなのでしょう。

まとめ

低身長外来の実際を書きました。
40人の低身長を診療した経験では、37人に対して「個性です」と伝えています。

世の中には、ことに男性に対して、身長は高いことはよいことだとする「高身長信仰」ともいえる価値基準があります。
そのような中で「背が低いことも個性」という姿勢をきちんと持つことが大事です。

子どもの成長をおおらかに見守る親の愛こそ、もっとも大切なのです。
そう自分に言い聞かせ、親に言い聞かせながら、私は低身長外来をしています。