川崎病を150人診た経験から診断、治療、予後を語る。

川崎病は本当によく出会う小児科疾患の一つです。
私が明石医療センターに勤務しているときの経験でも、年間20人くらいの子どもが川崎病で入院します。

明石市は年間2500人ほどの出生数があり、市内の中核病院としては明石市民病院と明石医療センターがあります。
年間おおよそ1250人の子どもが明石医療センターに流入しており、川崎病は当院では年間20人発生するわけですから、川崎病の生涯有病率を疑似的に算出することができます。
20÷1250×100=1.6%です。

全国調査でも、川崎病は年間16000人発生しているようです。
我が国では年間100万人の出生がありますから、これからも疑似的に川崎病の生涯有病率を求められます。16000÷100万×100=1.6%です。

まさかの偶然の一致!
明石市は日本の縮図だったのですね。
さすがは子午線の通る都市、明石!
明石こそ日本の中心です!

という冗談はさておき、川崎病はだいたい1.6%くらいの子どもがかかると思います。
1学年100人の学校では、確かに学年に1-2人の川崎病経験者がいます。

罹患する人が多いため、川崎病をグーグル検索で調べると、たくさんのホームページがヒットします。
その情報はおおむね正しいものばかりです。

私があらためて川崎病について書く必要などないのかもしれません。
ですが、年間20人、8年で150人以上の川崎病を診てきた経験から、少しユニークな目線で川崎病を語ってみようと思います。

川崎病の「川崎」について

1967年に川崎富作先生が「指趾の特異的落屑を伴う小児の急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群」として発表したのが、川崎病の始まりです。
「川崎」というのは人の名前です。
水俣病や四日市喘息のように、「神奈川県川崎市の病気なのかな?」と思われる人もいるかもしれませんが、地名は関係ありません。

私がこの疾患を初めて記載したとき、この疾患がこれほどグローバルな疾患になろうとは全く考えていなかった。現在、この疾患が日本のみならず世界的にも注目されていることに、私自身この上なく光栄に感じている。

まず、私が臨床医として小児科を選んだことが、いわゆる川崎病と出会う運命であった。臨床医は患者1例1例に、正しい診断をつけることが日々の診療の基本となる。最初はテンポラリーの診断をつけて経過を観察していき診断が正しかったのか、間違っていたのか、あるいは診断不明であったかというプロセスを日々繰り返していくのが臨床の日常である。これが私の臨床に対する基本的姿勢である。

「川崎病の基本」序文
川崎 富作

川崎病が疾患として確立するまでの歴史は、本当に目を見張るものがあります。
「スティーブンス・ジョンソン症候群の亜型」という評価を覆したのは、ひとえに川崎先生が上記の基本的姿勢を貫き通したからでしょう。

川崎病に限らず、この臨床医としての態度を私も見習います。

川崎富作先生が川崎病を提唱してから、50年以上の月日が流れ、疾患概念や治療法について、数々の変遷がありました。
川崎病の歴史はとても興味深いものです。

川崎病の診断

典型的な症状が6つあります。

  • 熱が5日以上続く。
  • 手のひら、足の裏が赤くなり。手足が硬く腫れる。
  • 全身に発疹が現れる。
  • 白目が赤くなる。
  • 口唇、のど、舌が赤くなる。
  • 首のリンパ節が腫れる。

この6つの症状のうち、5つ認めれば川崎病と診断されます。
4つしか症状がなくても、心エコーで冠動脈の拡大を認め、他疾患の除外ができれば川崎病と診断されます。

私がもっともよく経験する川崎病の経過は、発熱3日目で首のリンパ節が腫れてきて、「化膿性リンパ節炎」を疑われて紹介されてくるケースです。
採血するとCRPも5以上と高く、まずは抗生剤の点滴をします。
それでも熱が全然下がらず、発熱5日目に目が赤くなって、体に発疹が出て、唇が赤くなって、川崎病と診断されます。

川崎病については、他疾患の除外も大事です。
こちらを参照してください。

本当に川崎病?間違えやすい6つの鑑別疾患!

2017年1月4日
実は川崎病の鑑別は奥が深いのです。

川崎病の原因(自験例を含む)

ウイルスや細菌などの感染をきっかけに、体の免疫がたかぶって、自分自身の血管を攻撃してしまうというのが川崎病の原因ではないかと言われています。

他にも、花粉や大気汚染、洗剤の影響でなるというユニークな説もあります。

川崎病になりやすい原因に「川崎病遺伝子」というものがあるとして研究している先生もいます。
事実、兄弟で発症したり、双子で発症したりするケースも稀にあります。

川崎病になりやすい遺伝子を持った人が、感染や外部の抗原の侵入をきっかけにして、川崎病が進展していくのではないかと考える人もいます。

いろいろな説がありますが、明らかな原因は分かっていません。
おそらく、すべての説が正しくて、いろいろな要素が組み合わさって川崎病を発症するのだろうと考えます。

いろいろな要素が組み合わさっている、という証拠にはなりませんが、不肖ながら私も「マイコプラズマ肺炎の経過中に高サイトカイン血症が示唆され川崎病に至った同胞例(Progress in Medicine 36巻7号 Page902-905 2016.07)」という論文を書きました。

岡本の報告によると、4歳と7歳の兄弟が同時期にマイコプラズマ肺炎を起こし、抗生剤には反応せず、同時期に川崎病となりました。

川崎病の遺伝的背景をもつ同胞が、感染症を罹患し、免疫異常を来した結果、川崎病を惹起したと考えられる。

Progress in Medicine 36巻7号
岡本 光宏

偉そうに書きましたが、これまでにも言われている学説を繰り返しただけです。
でも、きょうだいそろって川崎病になったときは、やはり驚きました。
「川崎病を解明するすごい状況に遭遇しているのかも!」と血が騒ぎました。

川崎病の治療

川崎先生がこの病気を提言したときは、特別な治療をしなくても2週間くらいで解熱する予後良好な病気と言われていました。

その後、ステロイドが有効とされた時代がありましたが、川崎病に対するステロイドが冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)という心臓の血管にこぶができてしまう病気を引き起こすことが分かると、川崎病に対してのステロイドは禁忌となりました。

以降、アスピリンが治療の主役だった時期もありました。

現在ではガンマグロブリンという血液製剤が治療の根幹です。
血液製剤と言っても、人間の血液から赤血球や白血球などは取り除いていますから、まったく赤くありません。
見た目は無色透明で、血液には絶対見えません。

このガンマグロブリンを軸に、アスピリンを内服します。

肝機能や好中球比率、CRPが高く、逆にナトリウムや血小板が低い症例はガンマグロブリンが効きにくいことが知られています。
そういう症例にはガンマグロブリンにステロイドを併用することも選択肢に入ります。
昔は禁忌と言われたステロイドが川崎病治療にまた復活できた歴史は大変すばらしい臨床研究の成果です。

ただ、第40回の近畿川崎病研究会でも議論となりましたが、「やはり川崎病にステロイドという選択肢は腑に落ちない」と感じておられる先生は少なからずいました。

明石医療センターでは、私はこのスタディを十分なエビデンスととらえ、ステロイド併用療法を行っています。
今まで10%くらいの症例が血漿交換を要しましたが、ステロイドを併用するようにしてからは1度も血漿交換をしていません。
(なお、血漿交換するときは、兵庫県立こども病院にお願いしてました)

ただ、ステロイド併用療法は「冠動脈の拡大がない子どもを対象とした研究」であることに注意が必要です。
もしかしたら、すでに冠動脈に拡大傾向がある場合、ステロイドは冠動脈瘤を促す可能性があるかもしれません。
さらなる研究が必要です。

ガンマグロブリンがどうしても効かないケースでは、免疫抑制剤や血漿交換という治療がなされる場合もあります。

川崎病の予後

川崎病は心臓の血管にこぶができるという後遺症が知られています。
こぶができてしまうと、心筋梗塞の危険性が増します。

適切な治療を受けた川崎病患者は90%がこぶができません。
7%はこぶがいったんできますが、1か月以内に治ります。
こぶが一生残るのは3%だけです。
私は今のところ冠動脈瘤を残してしまったのは2人しか経験していないので、ラッキーなのだと思います。

心臓にこぶができやすい時期は、熱が出始めてから10日目です。
ですので、川崎病の入院期間も熱が出てから10日目くらいまでは入院しつつ、心臓エコーで冠動脈を少なくても2-3日おきには診ていかないといけません。
熱が出てから10日目の時点で無事こぶがなければ、退院となります。

もし心臓にこぶが残った場合は、抗血小板薬を飲んで、心筋梗塞に注意していきながら診ていきます。

こぶができないときは、普段の生活に一切支障はありません。
ただ、発症から5年までのあいだは定期的にエコー検査を受けます。
心エコーのスケジュールは、発症後1か月、3か月、6か月、1年、2年、3年、4年、5年というのが一般的でしょうか。

ガンマグロブリンは免疫物質ですので、一時的にウイルスや細菌への抵抗力が増します。
そのため、ガンマグロブリンを点滴してからすぐに予防接種しても、体内に残っているグロブリンが反応して、ワクチンが減弱されてしまうため、予防接種の効果が得られない可能性があります。

生ワクチン(麻疹風疹、BCG、水痘、おたふくかぜ)は熱が出てから6か月間は予防接種しても効果がないかもしれません。
不活化ワクチン(肺炎球菌ワクチン、Hibワクチン、四種混合、B型肝炎ワクチン)は1か月以上あけて予防接種しないと、効果がないかもしれません。

まとめ

  • 川崎病を提唱した川崎富作先生の臨床的姿勢はぜひ見習わなければなりません。
  • 原因は不明ですが、私は遺伝と環境の両要素で発症すると今さらながらに症例報告をしました。
  • 治療の基本はガンマグロブリン。私はステロイド併用をするようになってから血漿交換の経験がなくなりました。
  • こぶがずっと残ってしまうのは3%だけ。私の経験した症例では1.3%です。
  • ガンマグロブリン投与後は、不活化ワクチンは1か月以上、生ワクチンは6か月以上空けましょう。

「同じ川崎病患者はいない」という格言があります。
川崎病は一例一例が微妙に異なっており、見れば見るほどバリエーションが多くて唖然とします。
川崎病を150人以上診療してきて、一通りのバリエーションは経験したかなと思っていた矢先に、10日後に再燃したという川崎病にも出会いました。

川崎病の再燃に関する5つの疑問。

2017年5月29日

小児科医である以上、これからも川崎病は診ていきますので、気づいたことがあればどんどん発信していきます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。