1歳6か月健診で歩けない、言葉が出ないは異常?小児科専門医の視点。

乳幼児健診の目的は、子どもの健康を維持することです。
きちんと成長しているかを第三者の目で確認する、とても大切な健診です。

ですが、「わが子が異常かどうか確認される」という健診にプレッシャーを感じることはありませんか?
周りのお友達と比べて、わが子に少し気になっていることがあればなおさらです。

自治体によって健診の頻度は異なりますが、1か月、4か月、10か月、1歳6か月、3歳に健診をするところが多いのではないでしょうか。

今回は1歳6か月健診で小児科医がどういう視線で診ているのか、そしてよくある質問にどのように答えているのかを書きます。

1歳6か月の子ども

1歳6か月は運動、言葉、社会性がぐんぐん伸びる時期です。
靴をはいて歩き、いくつか言葉が出て、お母さんの言っていることがなんとなく分かるようになります。
ごはんを自分で食べたがったり、お母さんの言うことを聞かなかったりするなど、自我も芽生え始めてきます。

体重

男の子で8.8kg~12.9kg、女の子で8.3kg~12.2kgから一般的な体重です。
極端に小さいときは心臓、腎臓、甲状腺の精査が必要かもしれません。
また、外傷ややけどがあったり、体や衣服が不潔だったり、親子関係に違和感を覚えたりするときは、虐待の可能性も考えます。

ですが、たとえ体が小さくても、成長曲線に従って体重が増加しており、運動発達も精神発達も異常がなければ心配いりません。
「お兄ちゃんも小さかったんです」などきょうだいの情報が得られれば、さらに安心できます。

頭囲

男の子で44.9cm~50.2cm、女の子で43.8cm~49.3cmが一般的な頭囲です。
極端に大きい場合、母児手帳を見て、いつから大きくなったかを見ます。
突然大きくなっている場合は、水頭症の除外が必要です。

ですが、4か月健診からずっと頭が大きいようであれば、問題ありません。

大泉門

生まれたばかりの赤ちゃんは、額の上に大泉門というくぼみがあります。
頭蓋骨が成長するにつれ、大泉門はだんだん小さくなります。
1歳6か月には大泉門はなくなっているのが一般的です。
大泉門をもし認めた場合、水頭症、くる病、甲状腺機能低下症、ダウン症を疑います。

ですが、そういうケースはほとんどありません。
2歳で大泉門が閉じるか確認するだけでよいです。

運動

歩けているようになっています。
もし歩けなくても安定したつかまり立ちができて、言葉もいくつか話せるのなら心配いりません。
正常範囲の発達の遅れ(良性筋緊張低下)ということも十分にあります。
また、良性乳児筋緊張低下症(通称シャフリングベビー。お尻で歩くようなしぐさが特徴的です)や、一過性筋緊張亢進(反り返りが多いものの、脳性まひとは違って徐々によくなる)、良性粗大運動発達遅滞(粗大運動だけが遅れる。長期入院歴がある子どもに多い)ということもありますが、これはもう少し待てば必ず歩くようになります。

言葉が遅れているなど、精神面でも発達が遅れている場合や、積み木を積めないなど微細運動に異常がある場合は、脳性まひを疑います。
以前は歩けたのに、突然歩けなくなった場合は筋ジストロフィーを疑います。
この場合は専門施設に紹介します。

安定したつかまり立ちができない場合は、併せてリハビリができる訓練機関を紹介すべきです。
つかまり立ちができるなら、家でもリハビリができます。
腰の高さくらいのテーブルにおもちゃを乗せて、そこでつかまり立ちさせると、テーブルのおもちゃを取ろうとして自然に足腰が鍛えられます。

言語

2つ以上の意味がある言葉を話せれば大丈夫です。
ママとワンワンでOKです。

1歳半健診でよく話せる言葉は「マンマ(ごはん)」「アンパン(アンパンマン)」「ねんね(眠りたい)」「おいち(おいしい)」「ワンワン」「にゃーにゃー」「いてて」「いや」「ばあ(いないないばあ)」「どうぞ」「くっく(靴)」などでしょうか。

言葉がでなくて……というケースでは、お母さんの心配は強いものです。
「お母さんどこ?」と聞いてお母さんを見たり、「お鼻どこ?」と聞いて鼻を指すようであればまず大丈夫です。
指差しができているのであれば、言葉はそのうち必ず出ます。
もし子どもが指差しをしたら「ワンワンだね!」と声をかけてあげると、より言語発達が促進されます。

指差しも出来ない場合は、耳鼻科で耳が聞こえているか診てもらうとともに、発達障害のフォローが必要です。

お母さんがよくある質問

「まだ言葉が出ません」

お母さんの言っている言葉は分かっていますか?
もし理解できていて、「耳は?」と聞いたら耳を指差しできるのであれば、言葉の遅れは心配しなくて大丈夫です。
2歳頃までに必ず言葉が出てきます。

「まだ歩きません」

安定したつかまり立ちができていて、積み木が2つ積めて、言葉がいくつか出るようであれば心配ありません。
2歳頃までに必ず歩けるようになります。

「いやいやがひどいです」

自我が育ってきた証です。
お母さんがのびのびと育てた成果ですね。
いやいやがひどいときは叱る必要がありますが、叱ったときは同時に抱きしめてあげてください。
子どもは「怒ったときは怖いけれど、優しくて大好き」と思ってくれるはずです。

「you tubeばかり見ます」

体を使った遊びをできるだけしてほしい時期です。
1日1時間とか、時間を決めたいところです。
好きなテレビ番組を決めて、それだけしか見ないようにすれば、時間を制限できます。
そういう意味ではyou tubeよりテレビ、特にNHK教育がおすすめです。

「夜に母乳を欲しがるので困っています」

日中は欲しがらないということは、必要なエネルギーはごはんから摂れているのでしょうね。
1歳6か月の子どもが夜中にエネルギーを摂る必要はありませんから、お母さんにただ甘えているだけでしょう。
子どもの甘えたい気持ちには、母乳を与える以外の方法で応えてあげましょう。
添い寝しながら手を握ったり、背中をさすったりしてみてください。
3日ほどすれば、母乳なしでも子どもは安心して眠るようになります。

まとめ

1歳6か月健診で、小児科医は成長と発達を見ます。
何か1つだけの異常というのは、大体正常です。
脳性まひや精神発達障害などは、いろんな症状を併せ持ちます。

歩けないだけで、言葉がいっぱい話せて、積み木も積めるのであれば大丈夫です。
話せないだけで、指差しができて、しっかり歩けるなら大丈夫です。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。